やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


マイクロスコープは,もはや「特別」じゃない!
 歯内治療はその成否が術者の知識と経験に依存する治療である.経験豊富な歯科医師は適確な診断の後,根管系に関する知識・技術・経験をフル活用して治療をしてきた.しかしながら,そこには「見ながら」処置できないという歯内治療の限界があった.
 歯科用マイクロスコープの登場により歯内治療の限界点が大きく変わった.もちろん知識・技術・経験の重要さは変わらないが,マイクロスコープ導入により,経験に裏打ちされた勘のみで処置していたことの多くを「見ながら」できるようになった.歯科用コーンビームCTの併用でさらに情報量が増え,これまでの歯内治療の限界を越えることが可能となった.マイクロエンドドンティックス(以下,マイクロエンド)によりすべての症例が治癒するわけではないが,これまで諦めていた難治症例の多くを救うことができるようになってきたのである.
 現在,マイクロエンドにより高精度な歯内治療が可能になることは歯科医師の誰もが認め,患者さんの間でも広く知られるところとなっている.患者さんから「そちらでは顕微鏡を使った治療をされていますか?」という問い合わせの電話もあるくらいである.
 マイクロエンドはすでに歯科医師国家試験の出題範囲にも入っており,海外ではマイクロスコープは歯内治療時の必須アイテムとなっている.以上のことは,マイクロエンドが歯内治療におけるグローバル・スタンダードであることを意味している.
 しかしながら,日本国内の一般開業歯科医院におけるマイクロスコープの普及率は2012年の時点で5%以下と依然として低いままである.何故であろう?それは,多くの歯科医師が,マイクロエンドを「特別なもの」として取り扱っているからである.
 マイクロエンドに必要なスキルは,その使用法以外は,従来の歯内治療に必要なスキルとなんら変わりはない.マイクロエンドを実施する上で必要なのは,マイクロスコープの取り扱い方を身につける「意志」を持ち,一歩踏み出すことだけである.
 本書は,一般開業歯科医院での普及を目的に,マイクロスコープは「特別な道具」ではなく「便利な道具」であることを知ってもらい,マイクロエンド初心者がつまずいてしまいそうな点にフォーカスを当てて解説している.歯学部学生,研修歯科医師,大学院生の実習や生涯研修のセミナーなどに使用する写真や図を多用したマニュアル形式で示し,歯科医師がマイクロエンドのトレーニングをする上でのポイントやTipsを盛り込んだ.」
 本書を手に取り,傍らに置いてマイクロエンドのトレーニングを行う歯科医師は,マイクロスコープを「便利な道具」であると実感し,気がついたら,マイクロエンドを苦もなく実践できるようになっている.既にマイクロエンドを実践している歯科医師にとっては,本書で良い復習ができると共に,若手歯科医師を教育する際の手頃なハンドブックとして使用できる.
 これまで行っていた歯内治療をマイクロエンドに移行することで日々の臨床レベルが上がり,患者さんの信頼度も増す.本書で,マイクロスコープは便利な道具であることを理解し,新規開業する若手から経験年数の長い熟練者までの多くの歯科医師が日常臨床にマイクロエンドを導入するきっかけになればと考えている.
 それでは,さっそくマイクロエンドのトレーニングを開始しよう!
第1章 マイクロエンド早期上達のためのポイント
 Step 1 まずはミラースキルを身につけよう!
   ミラースキルは難しくない!
   ミラースキル修得のための心得
   マイクロエンドで使用するデンタルミラー
   マイクロスコープ&デンタルミラーではこう見える
 Step 2 マイクロスコープの調整とポジショニングをマスターしよう!
   接眼レンズを合わせる
   基本ポジショニング
   マイクロスコープの位置調整:患歯へのピント合わせ
   対象歯別の調整ポイント
   倍率の調整:どのくらいの倍率からスタートするか?
 Step 3 マイクロスコープ使用時の器具操作のコツ
   目線だけ行ったり来たり
   ミラーは口腔から出さない!
 Step 4 的確なアシスタントワークで術者をサポート!
   術者の目となる
   術野確保
   ミラーのクリーニング
   歯種別アシスタントワークのポイント
 Step 5 マイクロエンドではこんな器具・器材を選ぼう
   器具・器材
   トレーニング用模型
   ニッケル・チタン製ファイル
第2章 実践!マイクロエンド
 Step 1 歯種別マイクロエンド・トレーニング
  1.上顎大臼歯
   見落としがちな歯の解剖形態・出現頻度
   髄室開拡
  2.下顎大臼歯
   見落としがちな歯の解剖形態・出現頻度
   髄室開拡
  3.上顎小臼歯
   見落としがちな歯の解剖形態・出現頻度
   髄室開拡
  4.下顎小臼歯
   見落としがちな歯の解剖形態・出現頻度
   髄室開拡
  5.上下顎前歯
   見落としがちな歯の解剖形態・出現頻度
   髄室開拡
 Step 2 根管充填材の除去と根管洗浄
   根管充填材の除去
   根管洗浄
 Step 3 破折ファイルの除去
 Step 4 マイクロエンドドンティック・サージェリー
   ポジショニング
   直視下の切開
   マイクロスコープ使用開始:病巣へのアクセス
   感染肉芽組織除去と歯根端切断
   逆根管充填
第3章 ケース・プレゼンテーション
 case1 再発の原因根管を検出
 case2 髄床底穿孔部の封鎖
 case3 髄室にある歯髄結石の除去
 case4〜8 歯根破折・クラックの検出
   case4 前歯ポスト除去後に検出された根管壁クラック
   case5 臼歯の感染根管処置時に検出された根管壁クラック
   case6 紹介された難治症例で認められた近遠心方向クラック
   case7 大臼歯に見られた近遠心方向の破折
   case8 難治化の原因と考えられるクラック

 使用器材一覧
 索引