やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 私が大学を卒業したころはまだネット社会が到来しておらず,そのため情報の入手には手間と時間がかかった.図書館でコピーしたり,友人に頼んだりして過去の文献を集めていた.しかもその文献も今のようにランダム化比較試験や,メタアナリシスのような手法がなかったため,いくつかの文献から全体像や真理を“ 妄想” していたものだ.当然のことながら人によって妄想は異なるので,いろんな意見が歯科界に錯綜することになった.
 ネットの普及で情報の量とスピードが飛躍的にUPし,研究やその論文作成作業もバイアスの排除,統計処理などの導入で精錬されたものになってきている.EBM(EvidenceBased Medicine)という潮流は“ 妄想患者(私を含む)” に一定の方向性を示す役割を果たしている.さてさてその結果.われわれの臨床の質が向上し,患者さんは以前より得をして喜んでおられるだろうか?
 情報リテラシーはネット社会におけるあふれる情報の中から,適切な情報を選び出してインプットするということ,そして情報の発信者にとっては適切な情報をアウトプットするということを含意している.歯科医学においてもこの情報リテラシーの向上が要求されるのは当然のことである.しかしながら,情報をインプットする際の情報源から“ 患者さん” が抜け落ちていると大きな歪みが生じる.患者さんから発せられる情報や患者さんに提供する情報はネット社会になっても,量が増えるわけでもスピードがUPするわけでもない.生身の人間同士の間でやり取りされるコミュニケーションという枠組みは,そんなに簡単に変わるものではないのだ.情報量に圧倒されEBMというプレッシャーにさらされているうちに,患者さんという生身の人間の身体性や心理性を感知するセンサーの感度が落ちてきているかもしれない.パソコンのモニターを見て,顔を見ない医師に対して不満がつのるというのもその表れだろう.
 そこで,患者さんの体を理解するためのBiology,患者さんを良くするためのTechnique,患者さんが得をして損をしないようにするためのEvidence,患者さんの気持ちを理解するためのCommunicationの4 つの方向からぺリオを捉えようと,2011 年4 月から2012 年3 月まで『歯界展望』で「BTECでぺリオ」という連載の機会をいただいた.本書はそれに加筆してまとめたものである.タイトルも私の想いを込めて“ ぺリオリテラシー” という造語に変更した.コラムではエビデンスの無いような話ばかり好き勝手に書かせていただいたが,執筆時点での私の考えということでティーブレイク用に読んでいただければ幸いである.
 最後に,連載時よりお世話になった藤本憲明氏,きれいに本にまとめていただいた中村 伸氏に衷心よりお礼申し上げます.また,原稿を書きだしたら部屋に閉じこもる私を温かくサポートしてくれる妻優子,診療中でも院長室に閉じこもる私をサポートしてくれる歯科衛生士スタッフに心より感謝します.みんなありがとう!

 2013 年1 月吉日
 山本浩正
 はじめに

第1章 新しい歯周治療のあり方
 1 ペリオリテラシー
  はじめに
  長〜いプロローグ
  西洋医学の本質
  虚像としての健康と病気
  歯周病は実在しない
  歯周治療への取り組み
  コラム オーバーとアンダー その(1)
第2章 ポケットのペリオリテラシー
 2 ペリオリテラシーを上げるためのポケットのバイオロジー
  はじめに
  ピラミッドは傾いている!?
  ピラミッドの住人
  食料問題と抗菌療法
  歯周病菌攻撃の主役,好中球
  Aa菌特異的抗体ができるまで
  どうして歯周病は勝手に治らないのか?
  根面デブライドメント考
  抗菌療法と根面デブライドメント
  上皮細胞内P gingivalisへの生体反応は?
  コラム オーバーとアンダー その(2)
 3 ペリオリテラシーを上げるためのポケット療法のテクニック(非外科療法)
  はじめに
  Cause related regionとResult related region
  非外科的ポケット療法の“ 意図”
  外科的ポケット療法の“ 意図”
  非外科療法と外科療法の関係
  非外科療法におけるテクニック
  グレーシーキュレットのテクニック
  超音波スケーラーのテクニック
  コラム “ はずれている感” という呪縛
 4 ペリオリテラシーを上げるためのポケット療法のテクニック(外科療法)
  はじめに
  外科的ポケット療法のゴール
  切除療法におけるテクニック
  組織付着療法におけるテクニック
  再生療法におけるテクニック
  コラム 俺の話を聞け
 5 ペリオリテラシーを上げるためのポケットのエビデンス
  はじめに
  はじめにの次に
  深いポケットは細菌だらけ
  深いポケット内の細菌はアンコントローラブル
  深いポケットは悪化しやすい?
  出血するとどうして良くないの?
  BOPと付着の喪失との関係
  その他の歯周組織検査について
  コラム われわれは未来に支配されている?
 6 ペリオリテラシーを上げるためのポケットをめぐるコミュニケーション
  はじめに
  来院動機とコミュニケーション
  コミュニケーション感度
  ポケットの情報提供
  言葉の選択
  コラム 元日朝6 時のConnecting the dots その(1)〜アンチ・アンチエイジング〜
第3章 歯肉退縮のペリオリテラシー
 7 ペリオリテラシーを上げるための歯肉退縮のバイオロジー& エビデンス
  はじめに
  体脂肪率と歯ぐき
  歯ぐきを太らす方法
  歯ぐきを痩せさせる方法
  炎症性歯肉退縮と非炎症性歯肉退縮
  非炎症性歯肉退縮の特徴
  非炎症性歯肉退縮の病因論
  今さらながら歯肉退縮の定義
  コラム 元日朝6 時のConnecting the dots その(2)〜不健康は快楽?〜
 8 ペリオリテラシーを上げるための歯肉退縮へのテクニック
  はじめに
  非炎症性歯肉退縮への外科処置―根面被覆術
  適応症の見極め
  実際は多い非外科療法
  コラム 元日朝6 時のConnecting the dots その(3)〜自分を“ 消す” ということ〜
 9 ペリオリテラシーを上げるための歯肉退縮をめぐるコミュニケーション
  はじめに
  健康オタクに多い歯肉退縮
  どんな言葉を選択すべきか?
  歯肉退縮に付随してくるもの
  歯肉退縮の監視
  もう一つの敵
  コラム 構造主義的歯周治療学?
第4章 骨欠損のペリオリテラシー
 10 ペリオリテラシーを上げるための骨欠損のバイオロジー
  はじめに
  本来の骨形態と骨欠損
  どうして骨欠損ができるのか?
  どうして“ そこに” 骨欠損ができるのか?
  コラム 文章を書くということ
 11 ペリオリテラシーを上げるための骨欠損治療のテクニック
  はじめに
  骨欠損治療のゴール
  骨を触らないマジックパワー
  骨がないのに骨切除?
  骨欠損の修正はあきらめる
  できれば元の鞘に戻したい
  再生療法がうまくいく症例
  再生療法後の治癒の予測
  コラム 変わることの重要性
 12 ペリオリテラシーを上げるための骨欠損のエビデンス& コミュニケーション
  はじめに
  骨欠損は本当に悪か?
  再生療法ではどれくらい再生するのか?そしてそれは維持できるのか?
  骨欠損への対応とブラッシング
  稿を終えるにあたって
  コラム 欲望の欲望〜患者さんの求める歯科衛生士像〜

 索引