やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 エンドは治らない.
 症状がなくても何年かして再発する.
 不幸なことに,日本ではエンドの低い診療報酬の結果として,
 いい加減な抜髄の後に必要とされる再治療症例が非常に多い.

 再治療は抜髄の何倍も難しく,
 顕微鏡の助けがないとまともにできないほど難しい.
 低い診療報酬がエンド治療を必要以上に難しくしていることになっている.
 日本ほど難しいエンドをやらされている国はない.

 筆者も,再治療症例を多数経験し,
 そのような難しいエンドを何とかして治すためには,
 根管洗浄が非常に大事だということに気づいた.

 洗浄について書かれたものは少なく,誰もが簡単にできると思ってはいるが,
 実際には大臼歯の根尖部の洗浄は極めて困難である.
 きちんと洗えている歯科医師はむしろ少数であろう.

 デンタルX線写真で一見きちんとできているように見えるエンドが,
 慢性痛あるいはエンド─ペリオの原因になっているかもしれない.
 痛いといってきてもX線写真で何ともないからといって,
 つっかえされた患者の何%かは,
 洗浄不足による慢性の根尖病巣だった可能性がある.

 読者も,今よりていねいに根管洗浄するようになれば,
 実感できるほど日々の臨床が変わってくるだろうと信じ,本書を記した.
 症例を提供していただいた先生方にはこの場を借りてお礼申し上げる.

 2012 年10 月
 小林千尋
 序文
I はじめに
II 洗浄の意義
 1 洗浄とは
 2 根管洗浄はなぜ必要か
 3 根管内の細菌を殺すのか,除去(洗浄)するのか
  COLUMN 見栄えのよい治療と治る治療
 4 どこをおもに洗浄するのか
 5 象牙細管が開口するまで洗うのか?
 6 根管は穿通していなければ根尖部の根管は洗浄できない(根尖部洗浄における根尖孔穿通の意義)
  COLUMN レッジと穿通
 7 十分な根管形成が根管洗浄のためには必要である
III 根管洗浄のメカニズム
 1 剥離効果
 2 希釈効果
 3 溶解効果
 4 除去効果
IV 洗浄効果の客観的評価法
 1 顕微鏡下で根管壁の色を見る
 2 根管内細菌の発する蛍光を検出する
 3 根管内のATP量を測定する
 4 細菌培養検査
 5 バイオフィルムの除去・殺菌効果をみる
 6 PCR法
 7 根管内のアミノ酸を検出する方法
V 根管洗浄に関する実験モデルの評価
 1 根尖孔の状態
 2 陥凹部にdebrisなどを埋め込む
 3 洗浄で何を除去するか
 4 抜去歯か根管模型か
 5 再現性をどう考えるか
 6 シミュレーション
VI 根管洗浄液
 1 有機質溶解剤
  1)ヒポクロリット
  2)ヒポクロリットと接着阻害
  3)ヒポクロリットとバイオフィルム
 2 無機質溶解剤(キレート剤)
  1)EDTA
  2)クエン酸
  3)MTAD
 3 その他
  1)クロルヘキシジン(5%ヒビテン液)
  2)オキシドール(3%H2O2)
VII 各種洗浄方法
 1 陽圧で洗浄するもの
  1)シリンジによる洗浄
  2)RinsEndo
  COLUMN ゲージ
 2 ほとんど圧力の加わらないもの
  1)超音波洗浄
  2)各種超音波根管洗浄装置
  3)ソニック(可聴域振動)洗浄装置
  4)根管ブラシ
  5)レーザー
  6)ガッタパーチャを上下させる方法
  COLUMN ブローチ綿栓を使おう
 3 陰圧で洗浄するもの(吸引洗浄法)
  1)Endomate
  2)Quick Endo SIT,Canal CleanMax
  3)根管内吸引洗浄法(Intra-canal aspiration technique:IAT)
  COLUMN 圧力の単位
  4)EndoVac
  5)超音波吸引洗浄法(Ultrasonic aspiration technique:UAT)
VIII シリンジによる洗浄の物理学
 1 洗浄筒に加わる圧力
  1)根管洗浄時にシリンジ内筒を押す力の測定
  2)シリンジの内圧
  COLUMN パスカルの原理とポアズイユの原理
 2 根管洗浄時に根尖孔外に加わる圧力の測定
IX 根管洗浄時の事故と対策
  COLUMN ヒポクロリットが漏洩したらどうするか
X シリンジ洗浄の方法
XI 超音波吸引洗浄法の開発と臨床
 1 開 発
  1)吸引針を直接ハンドピースに付ける方法
  2)吸引針を間接的に振動させ,洗浄液をハンドピース内に通さない方式
  3)可聴域振動吸引洗浄法の試作
 2 超音波吸引洗浄法の臨床例
  COLUMN 洗浄か根尖部軟化象牙質の除去(O.Kマイクロエキスカ)か
XII 《付》根管内のガッタパーチャ,シーラー,あるいは水酸化カルシウムの除去
 1 根管内のガッタパーチャの除去
 2 シーラーの除去
 3 水酸化カルシウムの除去

 文献
 索引