やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

最新歯科衛生士教本の監修にあたって
 歯科衛生士教育は,昭和24(1949)年に始まって以来,62年を迎えました.この間,平均寿命と人口構成,疾病構造などの変化,さらには歯科医学・医療技術の発展などを背景に,歯科医療・保健に対する社会的ニーズが高まり,歯科衛生士教育にも質的・量的な充実が要求され,度重なる法制上の整備や改正が行われてきました.平成17(2005)年4月には,今日の少子高齢化の進展,医療の高度化・多様化など教育を取り巻く環境の変化に伴い,さらなる歯科衛生士の資質向上をはかることを目的にして,歯科衛生士学校養成所指定規則の改正が行われ,平成22(2010)年にすべての養成機関で修業年限が3年制以上となりました.
 21世紀を担っていく歯科衛生士には,さまざまな課題が課せられております.今日では,健康志向の高まりや食育の重要性が叫ばれるなか,生活習慣病としての歯周病,全身疾患,摂食・嚥下障害を有した患者や介護を要する高齢者の増加に対し,これまで以上に予防や食べる機能を重視し,口腔と全身の関係を考慮しながら対応していくこと,あるいは他職種との連携が求められています.また,歯周治療の進展や,インプラントなどの技術が広く普及するに伴って患者のニーズが多様化しつつあり,それらの技術に関わるメインテナンスなどの新たな知識の習得も必須です.歯科衛生士には,このような,患者のさまざまなニーズに則したよりよい支援ができる視点と能力がますます必要になってきており,そのためには業務の基盤となる知識と技術の習得が基本となります.
 全国歯科衛生士教育協議会では,こうした社会的要請に対応すべくこれまで活動の一環として,昭和47(1972)年本協議会最初の編集となる「歯科衛生士教本」,昭和57(1982)年修業年限が2年制化された時期の「改訂歯科衛生士教本」,平成3(1991)年歯科衛生士試験の統一化に対応した「新歯科衛生士教本」を編集しました.そして今回,厚生労働省「歯科衛生士の資質向上に関する検討会」で提示された内容および上記指定規則改正を踏まえ,本協議会監修の全面改訂版「最新歯科衛生士教本」を発刊するに至りました.
 本シリーズは,歯科衛生士教育の実践に永年携わってこられ,また歯科医療における歯科衛生士の役割などに対し造詣の深い,全国の歯科大学,歯学部,医学部,歯科衛生士養成機関,その他関係機関の第一線で活躍されている先生方に執筆していただき,同時に内容・記述についての吟味を経て,歯科衛生士を目指す学生に理解しやすいような配慮がなされています.本協議会としては,今後の歯科衛生士教育の伸展に向けて本シリーズが教育の現場で十分に活用され,引いては国民の健康およびわが国の歯科医療・保健の向上に大いに寄与することを期待しております.
 最後に本シリーズの監修にあたり,多くのご助言とご支援・ご協力をいただいた先生方,ならびに全国の歯科衛生士養成機関の関係者に心より厚く御礼申し上げます.
 2012年2月
 全国歯科衛生士教育協議会会長 松井恭平

発刊の辞
 今日,歯科衛生士は,高齢社会に伴う医療問題の変化と歯科衛生士の働く領域の拡大などの流れのなか,大きな転換期に立たされています.基礎となる教育に求められる内容も変化してきており,社会のニーズに対応できる教育を行う必要性から2005(平成17)年4月に歯科衛生士学校養成所指定規則が改正され,歯科衛生士の修業年限は2年以上から3年以上に引き上げられ,2010年4月からは全校が3年以上となりました.
 また,「日本歯科衛生学会」が2006年11月に設立され,歯科衛生士にも学術研究や医療・保健の現場における活躍の成果を発表する場と機会が,飛躍的に拡大しました.さらに,今後ますます変化していく歯科衛生士を取り巻く環境に十分対応しうる歯科衛生士自身のスキルアップが求められています.
 「最新歯科衛生士教本」は上記を鑑み,前シリーズである「新歯科衛生士教本」の内容を見直し,現在の歯科衛生士に必要な最新の内容を盛り込むため,2003年に編集委員会が組織されて検討を進めてまいりましたが,発足以来,社会の変化を背景に,多くの読者からの要望が編集委員会に寄せられるようになりました.そこで,この編集委員会の発展継承をはかり,各分野で歯科衛生士教育に関わる委員を迎えて2008年から編集委員の構成を新たにし,改めて編集方針や既刊の教本も含めた内容の再点検を行うことで,発行体制を強化しました.
 本シリーズでは「考える歯科衛生士」を育てる一助となるよう,読みやすく理解しやすい教本とすることを心がけました.また,到達目標を明示し,用語解説や歯科衛生士にとって重要な内容を別項として記載するなど,新しい体裁を採用しています.
 なお,重要と思われる事項については,他分野の教本と重複して記載してありますが,科目間での整合性をはかるよう努めています.
 この「最新歯科衛生士教本」が教育で有効に活用され,歯科衛生士を目指す学生の知識修得,および日頃の臨床・臨地実習のお役に立つことを願ってやみません.
 2012年2月
 最新歯科衛生士教本編集委員会
 松井恭平*  合場千佳子 遠藤圭子  栗原英見 高阪利美
 白鳥たかみ  末瀬一彦  田村清美  戸原 玄 畠中能子
 福島正義   藤原愛子  前田健康  眞木吉信 升井一朗
 松田裕子   森崎市治郎 山田小枝子 山根 瞳
 (*編集委員長,五十音順)

『臨床検査』 執筆の序
 病気には原因があり,種々の経過をたどり,やがて転帰(死,治癒,慢性化など)をたどる.患者はその経過中の一時点(病態)で病院に来院するので,医師はその原因を探り,病態を改善するために治療を行い,治癒に導く使命をもつ.つまり,医師は病気の映画監督である.シナリオのない画面をつくるのは患者,その画面を監督するのが医師である.ただし,学問という字幕をつけないと,それは医師も理解できない映画となってしまう.医師は,字幕を読めて,ハッピーエンドとなるシナリオをつくり上げなくてはいけないのである.患者の幸せのために.
 本書の到達目標は,歯科衛生士として,ヒトの病態を臨床検査というエビデンスをもって知ることができるように,臨床検査の基本的知識と,病気をもつ患者に対応するうえで必要な最低限の態度と技能を修得することである.
 医療の場において,主訴をもった患者をみるにあたっては,まず医療面接により病歴および現病歴を聞き取ることはいうまでもない.ついで,診察により身体症状とバイタルサインを知る.そして,簡単な一般臨床検査(血液検査,尿検査,糞便検査など.歯科では唾液検査および細菌検査などを含む)によって仮の診断名をつける.仮の診断名が確定診断につながると判断できれば,治療に移るが,確定診断につながらなければ,確定のための臨床検査を行うか,他科(歯科では一般医科を含む)への対診を行うのが通常である.しかし現在の歯科では,この簡単な一般臨床検査さえ行わず,医療面接・診察の後,即治療というのが大半の現状であろう.齲蝕の原因が細菌であるとすれば,細菌検査,齲蝕活動性検査なくして治療は成り立たないはずである.
 しかし,“臨床検査で基準値”イコール“健康”ということではない.なぜなら検査の基準値は,30代と40代のいわゆる健常者とよばれる人を選び出し,一定条件下で測定し,一定の統計処理をして,平均値±2標準偏差を健常としているからで,50歳の人や20歳の人ではこの値に当てはまらない場合もあり,基準値内であるから健康という過信は誤診につながる.つまり,患者個々の状態に即した治療を行うには個人の基準値が必要であり,個人の基準値とは,定期的な健康診断(臨床検査)を行わなければ出ないのである.
 本書を通して,歯科衛生士として根拠をもった診断,治療,予後経過をみていくための病態論を学んでほしい.そしてこれから諸君が携わる歯科医療の場においては,それらのエビデンスが臨床検査によって導かれていくことを切に望んでいる.
 2012年2月
 執筆者代表 井上 孝
1章 臨床検査とは
 (1) 臨床検査の倫理と安全
  1.臨床検査の倫理
  2.臨床検査の安全性
 (2) 臨床検査はなぜ必要か
  1.臨床検査とは何か
  2.臨床検査の実際
   1)臨床における検査実施
   2)検査項目の選び方と成績の読み方
   3)病因(原因)診断のための検査
   4)病態診断のための検査
  3.臨床検査と歯科衛生士の役割
   1)臨床検査の補助
   2)検査の準備と患者への説明
 (3) どんな検査があるのか
  1.生体検査(生理機能検査)
  2.検体検査
  3.画像検査
   1)エックス線検査
   2)CT検査
   3)MRI(磁気共鳴画像診断)検査
   4)RI検査(シンチグラフィー,核医学検査)
   5)超音波検査(エコー検査)
   6)骨量検査(骨密度検査,骨塩定量法)
   7)内視鏡検査(ファイバースコープ検査)
 (4) 検査成績の読み方
  1.検査成績の表し方
   1)定性・半定量
   2)定量
   3)画像,図形
   4)病変部の描出画像
  2.基準値とその変動要因
   1)基準値とは
   2)病院による単位表記法の違い
   3)基準値の変動要因および検査データ判読時の注意点
2章 生体検査(生理機能検査)
 (1) 体温検査
  1.体温とは
  2.体温測定(検温)の意義
  3.体温の測定法
   1)測定器具(体温計)
   2)測定部位と測定時間
   3)部位別の測定方法
  4.体温の変動
   Coffee Break 最近の家庭用体温計
 (2) 脈拍検査
  1.脈拍とは
  2.脈拍測定の意義
   1)脈拍数
   2)脈拍数の異常
  3.脈拍の測り方
  4.脈拍測定のポイント
   Coffee Break 脈拍測定にはなぜ親指を使わないのか?
 (3) 血圧検査
  1.血圧とは
  2.血圧測定の意義
  3.血圧を左右する因子
  4.血圧の測り方
   1)測定器具
   2)測定方法
   Coffee Break 塩分と血圧
   Coffee Break 仮面高血圧と白衣高血圧
  5.血圧測定のポイント
 (4) 心機能検査
  1.心電図とは
   1)心臓の動きと心電図の波形
   2)検査時の留意点
  2.特殊な心電図検査
   1)運動負荷心電図検査
   2)ホルター心電図検査
 (5) 肺機能検査
  1.肺機能検査とは
  2.肺機能検査の意義
 (6) 筋電図検査
  1.筋電図とは
  2.筋電図検査の意義
  3.筋電図検査の方法
   1)表面筋電図検査
   2)針筋電図検査
 (7) 脳波検査
  1.脳波検査とは?
  2.脳波検査で見つかる異常
 (8) 血中酸素濃度検査
3章 検体検査
 (1) 血液を用いる検査
   1)検査のための採血
  1.血液検査
   1)赤血球の検査─赤血球数,ヘモグロビン濃度,ヘマトクリット値
   2)白血球の検査─白血球数,白血球分画,好中球の核形移動
   3)血小板数の算定
  2.血液凝固・線溶系検査
   1)出血性素因と止血のしくみ
   2)出血性素因のスクリーニング検査
  3.生化学検査
   1)肝機能の検査
   2)腎機能の検査
   3)糖代謝の検査
  4.免疫・血清検査
   1)炎症の検査
   2)ウイルス感染症の検査
   3)アレルギーおよび自己免疫疾患の検査
  5.血液型検査
   1)ABO式血液型検査
   2)Rh式血液型検査
  6.そのほかの検査
   1)赤血球沈降速度検査
 (2) 感染症(細菌)検査
   1)塗抹検査
   2)培養検査
   3)薬剤感受性試験
 (3) 病理検査
  1.細胞診
   1)剥離細胞診
   2)穿刺吸引細胞診
  2.組織診
   1)生検(バイオプシー)
   2)術中迅速診断
   3)手術摘出材料診断
  3.剖検(病理解剖)
4章 口腔領域の臨床検査
 (1) 口臭検査
   1)口臭検査の準備
   2)口臭の測定
 (2) 味覚検査
   1)濾紙ディスク法
   2)電気味覚検査
 (3) 歯科金属アレルギーの検査
   1)パッチテスト
   2)DLSTを応用した検査
 (4) 舌の検査
  1.舌の観察
   1)観察方法
   2)観察時の留意点
   3)観察項目
  2.舌の臨床項目
 (5) 口腔粘膜の検査
  1.口腔粘膜の観察
   1)観察時の留意点
   2)観察項目
  2.口腔粘膜の臨床項目
 (6) 唾液検査
  1.唾液検査の意義
   1)齲蝕予防プログラムにおける唾液検査
   2)歯周病治療プログラムにおける唾液検査
  2.唾液の採取
   1)検査前の留意点
   2)唾液採取方法
   3)検査後の留意点
  3.唾液分泌量の検査
   1)安静時唾液分泌量の測定法
   2)刺激時唾液分泌量の測定法
  4.唾液緩衝能の検査
  5. 各種細菌の検査
   1)唾液中のストレプトコッカスミュータンス菌(SM)検査
   2)唾液中のラクトバチラス菌検査
  6.唾液潜血検査
 (7) 歯周組織の検査
  1.歯周組織の破壊の程度を調べる検査
   1)エックス線写真検査
   2)臨床的アタッチメントレベルの測定
   3)付着歯肉の幅の測定
  2.歯周局所の炎症の程度を調べる検査
   1)歯周ポケットの深さの測定
   2)プロービング時の出血(BOP)の評価
   3)歯の動揺の測定
   4)歯肉炎指数による評価
   5)歯肉溝滲出液量の測定
   6)根尖性歯周炎による歯周組織の変化の検査
   7)感染歯周病原細菌関連の検査
 (8) 歯の検査
   1)エックス線写真による検査
   2)齲蝕の検査
   3)マイクロスコープによる検査
 (9) 根管内細菌培養検査
   1)採取
   2)培養
5章 摂食・嚥下関連の検査
 (1) 摂食・嚥下障害のスクリーニングテスト
  1.反復唾液嚥下テスト(RSST)
  2.改訂水飲みテスト(MWST)
  3.フードテスト(FT)
  4.咳テスト(cough test)
   Coffee Break 嚥下から排便までの所要時間は?
 (2) 摂食・嚥下障害の検査法
  1.嚥下造影(VF)検査
  2.嚥下内視鏡(VE)検査
付録 主な疾患・病態別検査値のとらえ方─こんな患者が来院したら
 (1) 糖尿病
 (2) 胃:十二指腸潰瘍
 (3) ウイルス性肝炎・慢性肝炎
 (4) 貧血
 (5) 感染症・急性炎症
 (6) 特発性血小板減少性紫斑病
 (7) 血友病
 (8) 白血病
 (9) 妊娠
 (10) 甲状腺機能亢進症/低下症
  1.甲状腺機能亢進症
  2.甲状腺機能低下症
 (11) 慢性腎不全
 (12) ネフローゼ症候群
 (13) 虚血性心疾患(心筋梗塞,狭心症などの総称)
 (14) 心不全
 (15) 高血圧症
 (16) 不整脈
 (17) ベーチェット病
 (18) 関節リウマチ
 (19) シェーグレン症候群
 (20) うつ病,不安障害