やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序「歯科と栄養が医科で出会う時」
 食事というテーマに,歯科と栄養が医科の場で出会うのがNST(栄養サポートチーム)です.もともとは急性期病院における治療の栄養面からのサポートから始まったNSTですが,いまは回復期病院,施設,そして地域へとさまざまな形で広まっています.
 編者らの記憶では,2005年頃の日本臨床栄養代謝学会(旧日本静脈経腸栄養学会)という栄養の学会に歯科関係者の参加はまだ少なく,口腔ケアや摂食嚥下に関する演題もそれほど多くはありませんでした.それから15年が経ち,今や歯科や口腔関連の話題はJSPENでも人気のセッションの1つといってもよいでしょう.
 その背景には,この15年間でさまざまな観点から医科歯科連携のメリットが明らかになったことがあげられます.その結果,保険診療に医科と歯科の積極的な連携が導入されており,しかも医科と歯科の双方に加算がつくというWin-Winの構造になっています.代表的なものとして,病院や施設におけるNSTなどのチーム医療やミールラウンドへの歯科の参加は,栄養サポートチーム等連携加算として評価されています.同様に病院や施設側には,NSTの歯科医師連携加算や経口維持加算として評価されます.
 問題は,その医科における連携・協働の場に入っていく歯科関係者がまだ少ない,ということです.その理由は簡単で,そういう教育を普通に受けていないからです.
 編者の一人である歯科医師は,2005年からNSTに参加しておりますが,当初は歯科向けの栄養の書籍が皆無で,すべて現場での勉強となりました.それはそれでありがたかったのですが,やはり入門書があるとそういったチームへの参加もスムーズだと思います.大事なことは医科の場における歯科と栄養の連携を,特別なことではなく普通のことにすることです.そのためには間口を広げることがとても大事なのです.
 本書はとある病院の管理栄養士と歯科医師の協働から生まれた企画です.互いをもっと知り合うために,「栄養と栄養療法の基本,口腔との関連」に軸足を置きつつ,特にNSTやミールラウンドに参加する歯科医師や歯科衛生士,管理栄養士,看護師,言語聴覚士,医師の方を念頭に,医科と歯科の双方にとって学びやすい内容となるよう,著名な先生方にご執筆をお願いさせて頂きました.編者一同,執筆を快く引き受けていただいた著者の皆様に厚く御礼申し上げます.
 最後になりますが,COVID-19の感染により亡くなられた方に心よりお悔やみ申し上げます.また,医療・介護の最前線で戦う仲間達に感謝致します.本書が何らかのお役に立てば幸いです.
 2020年7月 編者一同
序章 栄養の観点からみた歯科の役割
1章 栄養とヒトの身体
 1 栄養素の話―5大栄養素を知る
 2 消化・吸収・代謝のフィールド―栄養素はどこで吸収されるのか
2章 栄養と疾患―その仕組みと治療の考え方
 1 栄養と疾患総論
 2 各論1 糖尿病
 3 各論2 腎臓病/高血圧
 4 各論3 心疾患
 5 各論4 脳血管疾患
 6 各論5 神経変性疾患
 7 各論6 認知症
 8 各論7 消化器疾患
 9 各論8 頭頸部の癌
 10 各論9 フレイル・サルコペニア
3章 医療と栄養―「栄養管理」は何をするのか
 1 急性期での栄養管理
 2 回復期での栄養管理
 3 自宅・施設で療養中の患者さんに対する栄養管理
 4 緩和ケアと栄養
4章 歯科と栄養―歯科医院や訪問歯科診療でできること
 1 患者さんの「栄養状態」「摂食状況」を知りましょう
 2 患者さんの「食べる能力」を理解しましょう
  (1)口腔機能低下症
  (2)摂食嚥下障害の診査と検査法
  (3)食のバリアフリーの観点から考える食支援
 3 栄養障害に気づくには―多職種と連携して対応する

 COLUMN 栄養に関わる職種
 COLUMN 食べ物と薬の関係
 COLUMN 栄養ルートと胃瘻の役割
 COLUMN NSTの効果と役割