やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 本書の発刊にあたり,多くの歯科関係者の方がたのご協力とご指導に心からの敬意を表したい.そして何より,世の中に多くの由緒正しい学会やスタディグループがあるなかで,HMPS(Hawaii Mid Pacific Session)という新しく,若手中心の学術セッションにおいて過去4大会で発表された諸先生がたの講演内容が,『歯科技工』別冊という形において一冊の本として完成できたことを,編著者と執筆者をはじめとするHMPS関係者一同の大きな喜びとして報告したい.
 われわれ歯科技工士が日々研鑽を重ねていくことは,歯科界に対して,ひいては社会全体に対しての貢献に繋がるものと考える.なぜならば,すべての歯科技工士にとって,知識と技術を習得することはその本人のみならず,患者や歯科医師を含めた歯科医療に関わるすべての人びとに利益をもたらすからである.身を置いた環境によって歯科技工士として成長してゆく過程やその形はそれぞれに異なり,その習慣や歯科医療に対する考え方もさまざまであろう.それ故に,個々の歯科技工士が考える歯科医師との関係の持ち方,歯科治療の主役である「患者」の存在の捉え方,歯科治療における臨床技工上のアプローチ手法などは,もしかすると千差万別かもしれない.これに対して,歯科学という学問はある一つの方向性を見出し,歯科臨床を一定基準へ底上げすると同時に,学術的な礎をもたらすものである.その一方で,一つとして同じものは存在しない歯科臨床の現実においては常に多様性も求められるため,そうした臨床実感と学問との違いを常に感じてしまうのがわれわれ術者の実際でもあろう.このジレンマを胸に抱きつつも,多種多様な症例に対応すべく日々研鑽を重ねている歯科医療従事者は皆,目標を同じくする同志とも言えるはずだ.
 2007年,われわれ編著者はそれまで辿ってきた道は違っていたものの,幸運にも目標を同じくする同志たちと巡り逢うことができた.そして,歯科技工に存在する多くの論法や手法,それらが交差し行き来する複雑極まりない歯科医療・歯科技工の実際を語り合う場として,HMPSを発足するに至った.本セッションの特徴として,演者と聴講者という関係をできる限り取り除くことで双方の親密な関係を構築し,互いの意見の共有や情報の交換ができる場となっていることがある.また,世に存在する目に見えない壁や政治的な関係性をできるだけ緩和することで,ご登壇者の先生がたは自由な選択ができ,その枠を広げることが可能となっている.ありがたいことに本セッションへの多くのご賛同とご協力をいただけたなかで,これまでにハワイ,東京にて4回の催事を開催してきた.太平洋のほぼ中央に位置し絶好の環境を持つハワイを拠点に,日本やアメリカ,諸外国から参加者を得ることができたHMPSが放った小さな輪は,回を重ねるごとに大きくなっている.今後は歯科界へのさらなる責務を担うとともに,まだまだ成長し続けることができると確信している.
 本書の執筆陣はみな,多様で困難な臨床技工に対して歯科学という基礎の上に独自のアプローチや論法,手法を用いて素晴しい成果を出している,いわば本物の臨床家と言えるであろう.本書はそうした歯科技工士が自身の臨床技工例をグラフィカルな誌面で供覧するEsthetic collectionと,それら臨床技工例の技術的裏付けとなる歯科技工術式の学術論文集Technical methodの二部構成からなり,セラミックスワークやインプラント技工などの各分野において高度に修練された審美歯科技工の到達点を示すとともに,審美歯科治療に必要な歯科医師と歯科技工士のコラボレーションワークの手法をラボサイドからチェアサイドへ提唱する一冊となっている.
 臨床成果を導き出すために歩む道や手段が異なっていたとしても,目指すべき最終目標は同じである.世の中に存在する数限りない歯科臨床のひとコマを垣間みることで,その背景に秘められた情熱と魂を感じ取っていただきたく思う.本書を通してHMPSが放った輪の一片を一人でも多くの同志たちに届けることができ,それらがやがてさらなる大きな輪となり,歯科技工士が社会に貢献できることを心から願って止まない.
 ―情熱は伝わる 想いは広がる―
 林 直樹
 高橋 健
Esthetic collection
Technical method
Ceramics work
 セラミックスワークにおける歯冠形態の観察・表現と色調再現のポイント(中村 心)[Dental Japan侍]
 オールセラミックスクラウンとラミネートべニアにおける収縮を考慮した築盛テクニック(Luke Hasegawa)[Ozark Prosthodontics]
 補綴物の色調再現技法のシステム化と各工程の注意点(枝川智之)[パシャデンタルラボラトリー]
 審美修復治療を成功に導くための臨床的対応法(都築優治)[Ray Dental Labor]
 ブリーチを行った天然歯に対する臨床技工上のアプローチ(夛田博知)[Ultimate Styles Dental Laboratory]
 メタルセラミックスレストレーションの審美的限界点追求のためのオペーク実験とその考察(久保哲郎)(oral design OSAKA)
Implant technology
 水平溝と切縁・咬頭部の突起構造を付与して機械的維持を高めたインプラントフレームの設計(渡邉一史)[河津歯科医院]
 前歯部インプラント補綴のクリニカルガイドラインと『Labial Off-set Design Concept』の提案(高橋 健)[Dental Laboratory Smile Exchange]
Collaboration method
 歯科医師,歯科技工士,患者間のコミュニケーションのあり方(後藤博樹)[Sheet & Paquette Dental Practice]
 患者満足度を向上させる新たなコミュニケーションツールと補綴設計方法(三輪武人)[協和デンタルラボラトリー]
 トータルバランスに優れた審美補綴修復治療のための治療 計画手順とコミュニケーション手法(林 直樹)[Ultimate Styles Dental Laboratory]

 HMPS 2007-2011 Behind the Scene