やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

巻頭言
 2013年5月18・19日に福岡国際会議場(福岡県)において行われた公益社団法人日本補綴歯科学会設立80周年記念第122回学術大会において,日本接着歯学会および日本歯内療法学会との共催シンポジウム「垂直破折歯根の接着再植治療」が満員の聴衆を集めて開催された.座長を松村英雄(日本大学)および佐藤 亨(東京歯科大学)の両教授が務め,シンポジストとして菅谷 勉(北海道大学),眞坂信夫(東京都),峯 篤史(大阪大学)の各先生が講演を行った.会場内は,大学の勤務医のみならず開業医も含めてさまざまな年代の先生方で埋め尽くされ,講演後には多くの質問があり,熱いディスカッションが行われたことは,シンポジウムを企画した側として同慶の至りであった.
 本シンポジウムは大きな反響を呼び,日本補綴歯科学会誌において「シリーズ:補綴装置および歯の延命のために」として論文がシリーズ化される契機となった(日補綴会誌6巻1・2・4号[2014年],7巻1・2・4号[2015年]).本別冊は,それらのPart1から6の内容(Part1「破折歯根の治療とその予防策」,Part2「外傷歯の治療と予後」,Part3「根尖部病変の診断・治療・予後」,Part4「歯周組織の炎症」,Part5「口腔内環境の劣化」,Part6「力のコントロール」)をさらにリファインし,インプラントを含めた補綴装置と支台歯を失う原因とその対策について総合的かつ実証的にまとめられた成書である.
 補綴装置再製や支台歯喪失に至る合併症としてその頻度をみた場合,「二次齲蝕」,「脱離」および「歯髄の失活・根尖病巣」の出現が三大合併症である.二次齲蝕と脱離は同時に起こっていることも多い.これらの合併症が生じる原因は,1)細菌感染の要素,2)技術・設計の要素,3)荷重の要素,の三つに分けられる.合併症はこれら三要素のうち一つの要素が単独で原因となっていることは外来性外傷の場合を除いてほとんどなく,三要素がお互いに複雑に絡み合って発生していると考えられる.したがって,これらの合併症の発生を防いで補綴装置および支台歯の延命を図るためには,合併症のリスク因子を正しく理解し,合併症の発生を防ぐために有効な臨床手技を身につけるのみならず,合併症が生じた場合にそれが補綴装置や支台歯喪失の致命的原因となる前に適切な対策をとることが肝要である.
 本書はその目的達成のための格好の手引書となっている.ぜひとも多くの方々に本書を利用していただけることを切に願うものである.
 大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座
 クラウンブリッジ補綴学分野
 矢谷博文 Hirofumi Yatani
Part 1 破折歯根の治療とその予防策
 1 垂直歯根破折の実態と接着治療の理論的背景(菅谷 勉)
 2 垂直破折歯根の接着治療(眞坂信夫)
 3 “2015年における”歯根破折防止策の文献的考察(峯 篤史)
Part 2 外傷歯の治療と予後
 1 外傷歯の標準治療および一般的な予後経過(木裕三)
 2 外傷の既往が歯に及ぼす影響(宮新美智世)
 3 外傷歯に対する補綴的対応と経過について(前田芳信・和田誠大・月星太介)
Part 3 根尖部病変の診断・治療・予後
 1 再根管治療におけるClinical decision making(澤田則宏)
 2 根尖部病変の治療(吉川剛正)
 3 根尖部病変の予後とその後の補綴治療(田中利典)
Part 4 歯周組織の炎症
 1 補綴装置の長期的安定を目指して─補綴治療にかかれる歯周環境の整備(佐々木 猛)
 2 歯周治療とEBM(古市保志)
 3 インプラント周囲炎治療(萩原芳幸)
Part 5 口腔内環境の劣化
 1 酸蝕症の病態と臨床対応(北迫勇一)
 2 口腔内環境の劣化に伴う歯列崩壊,補綴装置生存短縮の病態とその対応(佐藤裕二・北川 昇)
Part 6 力のコントロール
 1 力の影響とされる補綴に関連する臨床実態(森本達也)
 2 力の生体への負荷・発現の観点から(川上滋央・皆木省吾)
 3 力学的刺激に対する支持組織の負担様相:受圧の要素の観点から(後藤崇晴・岩脇有軌・市川哲雄)
 4 臨床家の夢見る「力のコントロール」は,はたして実現可能か?(田中恭恵・服部佳功)