やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたって
 正確な検査データを得るには,検体が正しく採取され,適切に保管・搬送されなくてはなりません.検体が検査室に届くまでには,臨床検査技師のみならず医師,看護師などさまざまな人々がかかわります.このため,検体の採取・取り扱いにおける注意点をこれらの方々に伝え,検体の品質を管理することも検査室の重要な役割です.
 2014(平成26)年に改正された「臨床検査技師等に関する法律」によれば,2015(平成27)年4 月から,臨床検査技師が診療の補助として,「採血」に加え一部の検体を採取できるようになります.検体採取の段階から積極的にかかわることで,検査精度のさらなる向上が期待され,患者さんに対する臨床検査技師の認知度が向上していくことでしょう.
 本書では,臨床検査技師が業務のなかでしばしば遭遇する,不適切な採取方法や取り扱いで生ずる問題事例を集めました.検体が採取されて検査室に届くまでの過程で,「何をしてはいけないのか」「なぜしてはいけないのか(理由)」「どうすればよいのか(適切な対処法)」のエッセンスが詰まっています.また,実際にあった事例,不適切な検体取り扱いが検査値に影響を及ぼした具体的なデータ,さらには検査不適検体で検査せざるをえない場合の対処法など,テーマに合わせ有意義な情報を豊富に盛り込んでいます.
 この本は,検体の採取と取り扱いにかかわるすべての医療スタッフに向けて編集しました.知識を整理し,新人や関連職種の方々を教育する目的で幅広くご活用いただけるよう願っています.
 最後に,本書の企画にあたり,項目の立案・検討にご尽力いただきました先生方,また,ご多忙のなかご執筆くださいました先生方に,心より感謝を申し上げます.
 2014 年12 月
 月刊『Medical Technology』編集委員会を代表して
 昭和大学横浜市北部病院 臨床病理診断科 教授 木村 聡
 発刊にあたって……木村 聡

1章 血液検査
 1 採血管は使用順序を守らないとダメ!……大西宏明
 2 ヘパリンが混入しやすい部位で採血してはダメ!……佐藤真由美
 3 採血は規定量を守らないとダメ!……野木岐実子・島津千里・川杉和夫・古川泰司
 4 β−トロンボグロブリン,血小板第4 因子測定の採血では,強い駆血を行ってはダメ!……小野佳一・金子 誠
 5 ヘマトクリット55% 超の患者では,凝固採血時にクエン酸量を補正しないとダメ!……野々部亮子・金子 誠
 6 TATやSFなどの鋭敏なマーカーは速やかに採血を終了しないとダメ!……野木岐実子・島津千里・川杉和夫・古川泰司
 7 シリンジ採血をしたら,分注前に放置してはダメ!……藤井喜栄子・諏訪部 章
 8 血液検査用の採血管に入れた血液を生化学検査用の採血管に移してはダメ!……田村孝子
 9 採血後の採血管を,低温・高温下に置いてはダメ!……田村孝子
 10 分析前や外部委託前には,検体が凝固していないかをチェックしないとダメ!……田村孝子
2章 生化学・免疫血清検査
 1 血中薬物濃度測定用検体は血清分離剤入りの真空採血管で採取してはダメ!……宮城博幸
 2 点滴している腕から採血してはダメ!……山崎家春
 3 血中薬物濃度測定のための血液採取では,中心静脈カテーテルによるルート採血はダメ!……中川央充
 4 採血時に駆血帯を巻いたまま採血部位を叩いてはダメ!……山崎家春
 5 採血時に使っているゴム手袋で,不用意にキャップや採血管の口に触れてはダメ!……上杉里枝・河口勝憲
 6 LDH(LD)アイソザイム測定用の検体を冷蔵保存してはダメ!……石川仁子・前川真人
 7 LDL-C の測定では検体を冷蔵で長期保存してはダメ!……杉内博幸
 8 アンモニアの測定では検体を室温放置してはダメ!……佐藤真由美
 9 遊離脂肪酸(FFA,NEFA)の測定では検体を室温に放置してはダメ!……渡部俊之・根間敏郎・武城英明
 10 クリオグロブリン検査では採血管を冷やしてはダメ!……石嶺南生
 11 ICG 検査を行う場合,採血管を光照射下に放置してはダメ!……宇佐美陽子
3章 輸血検査
 1 輸血検査用の検体は分離剤入り採血管で採取してはダメ!……栗林智子
 2 血液型検査用の検体と交差適合試験用の検体は別々に採血しなくてはダメ!……小野 智・菊地正美・川畑絹代・安田広康
 3 寒冷凝集素症候群が疑われる患者の輸血検査検体を,室温で採血してはダメ!……花田大輔
 4 検体が不足している時,同一患者のものであっても血漿と血清を混ぜてはダメ!……栗林智子
 5 ウイルス感染者の自己血を,非感染者用保冷庫に保管してはダメ!……菊地正美・小野 智・川畑絹代・安田広康
 6 赤血球製剤は室温に放置してはダメ!……八木良仁
 7 濃厚血小板を振盪せずに放置してはダメ!……藤本昌子
 8 新鮮凍結血漿(FFP)は熱湯で解凍してはダメ!……八木良仁
4章 一般検査
 1 尿が出ない患者さんにお茶を勧めてはダメ!……脇田 満
 2 採尿方法を守らないとダメ!……福田嘉明
 3 細胞数算定用の髄液検体にはヘパリンを添加してはダメ!……大田喜孝
 4 細胞数算定用の髄液検体や体腔液検体は,できるだけ早く検査室に届けないとダメ!……石山雅大
 5 採取後の尿を長時間放置してはダメ!……福田嘉明
 6 便中ヘモグロビン検査では,採便後の容器を室温に放置してはダメ!……岡田茂治
5章 微生物検査
 1 抗菌薬を投与してから検体を採取してはダメ!……幸福知己
 2 使用期限切れの検体採取容器を使用してはダメ!……名倉理教
 3 原虫や寄生虫の検出には,検体量が十分ないとダメ!……藤田拓司
 4 検体に消毒薬が混入してはダメ!……大濱真伸
 5 唾液がたくさん混入した喀痰はダメ!……樫山誠也
 6 嫌気性菌感染を疑う検体は,嫌気性菌専用容器で提出しないとダメ!……宇都宮孝治
 7 細菌検査用検体は病理組織検査用の固定液が入った容器で提出してはダメ!……田中裕人
 8 培養検体をティッシュやラップで直接包んで提出してはダメ!……古畑健司
 9 百日咳菌やClostridium difficile,O-157 などの培養を目的とした検体は,
 スワブで提出してはダメ!……市村佳彦
 10 細菌検査用検体を室温で長時間放置してはダメ!……山田幸司
 11 赤痢アメーバを疑う糞便検体は冷蔵保存してはダメ!……李 相太
6章 遺伝子関連検査
 1 遺伝子検体は,手袋とマスクを着けて取り扱わなくてはダメ!……長田 誠
 2 DNA,RNA 検査用の血液はヘパリン入り採血管で採ってはダメ!……長田 誠
 3 ヒト遺伝子関連検査を外注する際には必ず専用容器を使用し,指定の条件で提出しなくてはダメ!……中條聖子
 4 RNA 検体を室温で長時間放置してはダメ!……大星 航・行正信康・上野一郎
 5 病原体核酸検査では,HIV,HCVは室温で6 時間以上,HBVは室温で24 時間以上放置してはダメ!……行正信康・大星 航・上野一郎
7章 病理・細胞診検査
 1 検体採取時に力を加えすぎてはダメ!……濱川真治
 2 むやみに検体に割を入れすぎてはダメ!……小川勝成・有廣光司
 3 細胞診検査でアルコール固定を行う場合,細胞を乾燥させてはダメ!……本田勝丈
 4 未固定の組織を乾燥させてはダメ!……鈴木俊紀
 5 細胞診,ギムザ染色用の細胞の乾燥はゆっくり行ってはダメ!……山口知彦
 6 採取された胆汁,膵液は室温に放置してはダメ!……福田 淳
 7 体腔液検体は目的に合わせて保存しなくてはダメ!……坂根潤一・河野亜衣・齋藤幸枝・尾上隆司・倉岡和矢
 8 生理食塩水に検体を浸漬して保存または運んではダメ!……鳥居良貴
 9 古いホルマリンを使用してはダメ!……田代 広
 10 検体を小さな瓶に無理やり押し込んでホルマリン固定してはダメ!……島田直樹
 11 濾紙に貼り付けた複数の検体を同一の瓶に入れてはダメ!……川ア辰彦
 12 所属リンパ節を郭清せず,脂肪組織で覆われたまま提出してはダメ!……平田勝啓
 13 検体提出時には臨床情報も伝えなくてはダメ!……浅野 敦
 14 固定容器は明るいところ,日の当たるところに置いてはダメ!……丸川活司