やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたって
心筋虚血の臨床検査の来し方行く末
 虚血の滝(ischemic cascade)という言葉があります.虚血が生じた際に,虚血→代謝異常→心室拡張機能障害→心室収縮機能障害→心電図変化→胸痛という順番で異常が起きていくという概念です.この概念は本書冒頭の素晴らしい総説でわかりやすく解説されていますが,最近の急速な検査法の進歩により,「虚血の滝」のすべての段階での異常の評価が可能となっているのが現況です.たとえば,冠動脈病変を診ることに限っても,内腔の影絵をみる従来からの冠動脈造影だけではなく,血管内視鏡で病変そのものをみるという検査や,造影剤の静注だけで冠動脈内腔に加えてプラークなどの動脈壁の情報も提供してくれるマルチスライスCT,さらにより高い解像度で病変を評価しうる血管内エコーなどが注目を集めています.
 これら最新の「画像・生理検査」に加えて,心筋壊死,動脈硬化,プラーク破綻などの指標となる「数多くの検体検査」を網羅し,1冊にまとめあげたのが本書であります.たとえば20年前のこの種の書物と比較していただければ,臨床検査医学の急速な進歩にきっと大驚きされることでしょう.さらに,検査→診断は今や治療と密接に関連している事実をふまえ,「心筋虚血の理解に必要な病理学の基礎知識」および「冠動脈疾患のおもな治療法」の解説を,それぞれ第一線の先生方にお願いしました.
 本書のカバーする範囲はきわめて広範囲であるために,どんなにすごい先生であっても,すべての内容を熟知しておられる方はこの世に存在しないと確信します.本書をぜひ本棚に置かれ,折に触れ日常臨床の参考にされることを願ってやみません.
 それにしても,今から20年後には,この世界,どうなっているのでしょうか?それまで生きているかどうかはわかりませんが,とても楽しみです!

 2004年12月
 東京大学医学部附属病院 検査部 竹中 克
Medical Technology臨時増刊 2004 Vol.32 No.13
虚血性心疾患と臨床検査
発刊にあたって 心筋虚血の臨床検査の来し方行く末 竹中 克
I 虚血による心筋障害のメカニズムを理解する
  浅沼俊彦・別府慎太郎
II 虚血性心疾患の画像・生理検査
 1.冠動脈病変そのものを診る
  冠動脈造影 東邦康智・原 和弘
  血管内エコー 前原晶子
  血管内視鏡 金井正仁・内田康美・東丸貴信
  マルチスライス CT 田辺健吾・羽鳥光晴・原 和弘
 2.負荷をかけて冠狭窄を推し量る
  運動負荷心電図 安喰恒輔
  ドブタミン負荷心エコー 大野忠明・本間 博
  運動負荷心エコー 上嶋徳久・澤田 準
  負荷心筋シンチグラフィ 玉木長良
  負荷心筋コントラストエコー 林 英宰
 3.冠血流動態を測る−太い冠動脈病変と微小血管病変の推定−
  ドプラガイドワイヤとプレッシャーワイヤ 久米輝善・赤阪隆史
  冠動脈ドプラ 那須雅孝
 4.心筋の血流・動き・代謝から心筋viabilityを探る
  低用量ドブタミン負荷心エコー 岩倉克臣
  心筋コントラストエコー(no reflow現象) 岩倉克臣
  心筋シンチグラフィ 玉木長良
  PET 横山郁夫
 5.心筋の電気現象をとらえる
  心電図−虚血性変化− 高澤謙二
  心電図−虚血時の不整脈− 藤野紀之・山下武志
III 虚血性心疾患の検体検査
 1.急性冠症候群の血液検査
  酵素(CK,CK-MB) 高木 康
  ミオグロビン 高木 康
  心臓型脂肪酸結合蛋白(H-FABP) 高木 康
  トロポニン T,トロポニン I 福島正人・清野精彦
  ミオシン軽鎖 福島正人・清野精彦
 2.動脈硬化症の診断マーカー
  ホモシステイン 前畑英介・畠山郁夫・下村弘治
  インスリン抵抗性指数(homeostasis model assessment-insulin resistance:HOMA-IR または homeostasis model assessment-ratio:HOMA-R) 下村弘治
  中性脂肪 中島克行・櫻林郁之介
  レムナント様リポ蛋白コレステロール 中島克行・櫻林郁之介
  高感度 CRP(hs CRP) 中村治雄
  アディポネクチン 火伏俊之・船橋 徹・下村伊一郎
  レプチン 松田守弘・下村伊一郎
  TNF−α 前田法一・下村伊一郎
  PAI-1 藤井 聡
  血液凝固ハ因子 藤井 聡
  血管作動性物質(ANP,BNP,CNP) 五十嵐雅彦
  レニン−アンジオテンシン系 藤田正俊
  small dense LDL 平野 勉
  ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase) 北川文彦・石井潤一・大島久二
  グルタチオンペルオキシダーゼ−1(glutathione peroxidase1,GPx-1) 北川文彦・石井潤一・大島久二
 3.血管内皮機能,血小板と凝固線溶系
  von Willebrand因子(vWF) 東田修二
  組織型プラスミノゲンアクチベータ 岡嶋研二
  組織因子(CD142) 今村隆寿・中村 伸
  接着分子 田中陽子・北島 勲
IV 虚血性心疾患の病理学的基礎知識−破綻しやすい不安定型プラークと安定型プラークの鑑別−
  山田京志・鈴木宏昌・河合祥雄
V 虚血性心疾患の診断プロトコル
  堀江俊伸
VI 虚血性心疾患の治療法
 冠動脈インターベンション(PCI) 寺倉守之・一色高明
 冠動脈バイパス術(CABG) 守月 理・小塚 裕
VII トピックス
 HGF 遺伝子治療 小池弘美・東 純哉・橋弥尚孝・森下竜一
 メタボリックシンドロームに関与する遺伝子と臨床検査 後藤田貴也

 本書で使用されている略語一覧