やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたって

 わが国の糖尿病患者は約 700 万人に達し,耐糖能異常者は 680 万人と推定されると報告されて久しく,糖尿病の医療費も年々増加し,最新の情報によるとついに 1 兆円をこえたとのことです.糖尿病が代表的な生活習慣病として位置付けられたことを,私たち医療従事者は厳粛に受け止め,具体的な対策を立てて実行してゆく時を迎えています.
 糖尿病の対策は発症を未然に防ぐことですが(一次予防),不幸にして発症した場合は二次予防,すなわち「合併症の発症を防ぐためにどうあるべきか」を患者自身が認識することにあるといわれます.臨床検査技師を含むすべての医療従事者は,共同歩調をとりながら根拠に基づいた具体的な教育や指導を行う役割を担っているのです.つまり,医療従事者が直接的に役立つのはこの二次予防の段階といえます.
 日進月歩の医療の場においては,糖尿病に関する新しい知見を得て日常の臨床検査業務に携わることが重要です.本臨時増刊では,糖尿病の病態と発症のメカニズム,診断の進め方,さらに糖尿病合併症の診断と検査などかなりのページ数をさいて詳細に解説されています.糖尿病は血管の病気といわれるように,細小血管障害のみならず大血管障害,すなわち動脈硬化性疾患についても注目を浴びており,臨床検査の役割を診断と結びつけて大局的にとらえて説明されています.初学者にもわかりやすく,別項の関連検査項目と対比させることにより学習効果が期待できます.一方,糖尿病の遺伝子診断の分野についても,単一遺伝子疾患や SNPs を用いた関連解析で同定された遺伝子多型などについて,新しい情報を取り入れて説明してあり,遺伝子診断を理解するうえで有用です.
 さらに本誌の特徴は,糖尿病に関する生理学的検査,検体検査の内容を 1 冊にまとめた点にあります.2000 年より「糖尿病療養指導士」の認定試験が行われ,臨床検査技師についてはこれまで 580 人以上の合格者を輩出しています.試験内容は実に広範囲で,糖尿病の知識や指導各論についても幅広い理解が必要です.検体検査に従事する技師も,糖尿病に関する生理学的検査の内容や意義について正しい知識を得なければなりません.
 糖尿病療養指導はその資格を取得することが到達目的ではありませんが,1 つの過程として位置付けられます.巻末には認定試験のポイントや自験例のレポート内容についても述べられており,これから受験される方々には参考書として活用していただけると思います.また,実際に日常的に糖尿病療養指導を行っている 9 施設の技師の方々に執筆をお願いし,チーム医療情報の最先端を紹介していただきました.これからの検査技師は,専門知識の習得はもちろん,チーム医療のなかで果たす役割を明確に認識しておくことが重要です.本誌がその一助となり皆様のお役に立てることを願ってやみません.
 2002 年 11 月
 東京都済生会中央病院 臨床検査科
 高加国夫
I 巻頭カラーイラスト
 よくわかる糖尿病の病態と発症メカニズム 鹿住 敏・芳野 原

II 糖尿病診断の進め方
 スクリーニング 村田和也
 病型診断 古田雅彦
 コントロール状態の評価 石井昌俊

III 糖尿病診断のための検査法
 血糖 瀧本順三郎
 75g経口グルコース負荷試験 嶋田昌司
 尿糖 豊田充宏
 インスリン(IRI) 上野芳人
 C-ペプチド 上野芳人
 インスリン抵抗性−インスリン抵抗性指数(HOMA-R)の応用− 下村弘治・前畑英介
 グリコヘモグロビン 永峰康孝
 グリコアルブミン 永峰康孝
 1,5-アンヒドロ-D-グルシトール 森下芳孝
 ケトン体 八木浩志
 抗GAD抗体 山内俊一
 抗膵ランゲルハンス島細胞質抗体 石田俊彦
 IA-2抗体 内潟安子
 抗インスリン自己抗体 内潟安子

IV 糖尿病の遺伝子診断
 大澤春彦・大沼 裕・牧野英一

V 糖尿病合併症の診断と検査
 1.糖尿病腎症の診断の進め方 明石實次
  尿蛋白 塚本恵美子・伊藤機一
  微量アルブミン 舛方栄二
  尿沈渣 米山正芳
  クレアチニン・クリアランス 松田ふき子
  NAG 村瀬冨美子
  尿中IV型コラーゲン 川端絵美子・油野友二・西村泰行
 2.糖尿病網膜症の診断の進め方 江内田 寛・石橋達朗
  眼動脈エコー 椿森省二
 3.糖尿病神経障害の診断の進め方 加藤宏一・中村二郎
 (1)自律神経検査
  電子瞳孔検査 斉藤三代子
  サーモグラフィ 芝田宏美
  発汗反応検査(交感神経機能) 高畠外美子
  心電図R-R間隔変動係数(CVR-R) 横田 進
  ヘッドアップ・チルト試験 岡本恵助
 (2)末梢神経検査
  腱反射 高橋良当
  振動覚 高橋良当
  痛覚検査 高橋良当
  運動神経伝導検査 斉藤江美子
  感覚神経伝導検査 斉藤江美子
  F波測定 片山雅史
 4.動脈硬化性疾患の診断の進め方
 伴野祥一・宇都木敏浩・大山良雄
 (1)高脂血症のための検査 藤田誠一・片山善章
 (2)末梢循環障害
  頸動脈超音波検査 松下陽子
  下肢動脈エコー 浅岡伸光
  大動脈脈波速度(PWV) 石郷景子
  API 石郷景子
 (3)虚血性心疾患
  心電図 土居忠文
  ホルター心電図 土居忠文
  トレッドミル負荷試験 土居忠文
  冠動脈造影 西村直己
 (4)脳血管障害
  脳波検査 藤元佳記
  MR検査 菅野彰剛

VI 糖尿病療養指導と臨床検査の役割
 予防医学分野への参入 金内弘志
 チーム医療のなかでの臨床検査の役割 今里孝宏
 糖尿病患者に対する検査指導 内田芳雄・松山澄子・大橋正治・早川明子
 糖尿病教育入院における臨床検査技師の役割−チーム医療を目指して− 金澤美千代・須郷秋恵
 糖尿病患者の大血管障害の超音波診断 岡田トモ子
 血糖自己測定器を用いた血糖コントロールの現状 岡山安幸
 糖尿病チーム医療への参画 直本拓己・佐藤伊都子・百田まり・大籔智奈美・岡野好江・五百蔵守・向井正彦・熊谷俊一
 チーム医療のなかの検査技師 杉山祝子・中塔辰明
 妊婦と糖代謝 高松由美子

VII 自己血糖測定の指導方法
 田中久晴

VIII 「糖尿病療養指導士」資格取得へ向けて
 森本一至

付 セルフアセスメント
 高加国夫