やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 「人体の内部を視る」という試みには長い歴史があり,紀元1世紀・ローマ時代のポンペイ遺跡から肛門鏡・子宮鏡と思われる医療器具が発掘されている.現代の内視鏡の原型といえるものは,1805年にドイツの医師ボッチニによって製作された“導光器“とされる.1853年にはフランスの医師デソルモが尿道や膀胱を観察する器具を製作し,“エンドスコープ(内視鏡)”と名付けた.その後1901年,ドイツの泌尿器科医・ニッツェが集光用レンズと反射鏡を利用した膀胱鏡を開発し,体腔内を観察する試みは大きな注目を集めるようになった.
 内視鏡の技術を飛躍的に発展させたのは,1950年に日本で開発された胃カメラである.当時の日本は胃癌による死亡が多く,早期診断が喫緊の課題となっていた.すでに口から挿入し胃の中を覗くタイプの胃鏡が発明されていたが,消化器を突き破る事故が多発しており,侵襲性が低く診断精度の高い新たな検査機器が切望されていた.そこで東京大学附属病院分院の宇治達郎氏は,オリンパス光学工業(当時)とともに胃カメラの開発に取りかかり,苦節の末に完成させた.その後も医師・研究者による改良が進められ,いまや診断・治療に欠かせない医療機器となっている.
 内視鏡技術は日進月歩で発展を続けており,3D内視鏡,内視鏡手術支援ロボット,共焦点レーザー内視鏡(CLE),AIによる内視鏡診断支援システムなど続々と新しい技術が開発されている.さらに,5Gに代表される通信技術の進歩により,遠隔地からの内視鏡検査が現実のものとなった.これにより医療格差の解消や,患者の負担軽減につながると期待されている.
 本特集では,消化器内科,消化器外科,産科婦人科,呼吸器,循環器,神経,泌尿器の7つの領域に分け,最新の内視鏡技術の進歩を総合的にまとめた.本特集を通じて内視鏡医学の現状と展望について深く理解し,日々の診療に活用いただければ幸いである.
 2023年9月
 編集部
消化器内科
 (企画:田中信治)
 頭頸部・食道癌に対する内視鏡診断と治療における進歩と展望(堅田親利・他)
 胃・十二指腸腫瘍に対する診断・治療の進歩と今後の展望(水谷浩哉・他)
 胃・十二指腸非腫瘍性疾患における内視鏡診断の進歩と展望(鎌田智有)
 小腸病変に対する内視鏡診断・治療の進歩と今後の展望(壷井章克・他)
 大腸腫瘍に対する内視鏡診断・治療の進歩と今後の展望(豊嶋直也・斎藤 豊)
 胆・膵腫瘍に対する内視鏡診断・治療の進歩と今後の展望(南 裕人・他)
 胆・膵良性疾患に対する内視鏡診断・治療の進歩と今後の展望(谷坂優樹・良沢昭銘)
 内視鏡的全層切除術・縫合法および粘膜下層内視鏡の最新の進歩─“内視鏡的外科手術(A-FES)”への道程(井上晴洋)
消化器外科
 (企画:坂井義治)
 手術機器の進歩が切り拓いた現在の内視鏡外科および今後の展望(二宮繁生・猪股雅史)
 内視鏡外科手術における遠隔手術・教育の進歩(奥谷浩一・他)
 胸部食道癌に対する内視鏡下手術の進歩─ロボット支援食道切除・胃管再建術(小熊潤也・他)
 胃癌に対する内視鏡手術の進歩(小M和貴)
 大腸癌に対する内視鏡手術の治療戦略と今後の展望(井川勇人・絹笠祐介)
 低侵襲肝切除─腹腔鏡およびロボットを用いたアプローチ(加藤悠太郎)
 膵臓を対象とした内視鏡手術の進歩(渡邉雄介・他)
産科婦人科
 (企画:大須賀 穣)
 子宮鏡手術の新たな展開(齊藤寿一郎)
 骨盤臓器脱に対する腹腔鏡手術とロボット支援手術の現状(平池 修)
 子宮内膜症における内視鏡手術(竹林明枝・他)
 子宮体癌の内視鏡手術─ロボット支援手術を含む(寺井義人)
 子宮頸癌の内視鏡手術─現状と将来展望(京 哲)
呼吸器
 (企画:川村雅文)
 中枢気道病変の診断(内村圭吾)
 個別化医療を見据えた末梢肺病変の気管支鏡診断(島雄太)
 超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)─肺門・縦隔病変に対するアプローチ(立原素子)
 呼吸器診療におけるクライオの位置づけ(丹羽 崇)
 呼吸器領域における低侵襲手術の歴史と実際(須田 隆)
 気管支鏡治療(中島崇裕)
循環器
 (企画:上田恭敬)
 急性冠症候群の病態と不安定プラーク(國分裕人・他)
 冠動脈ステント留置後の血管反応(石原隆行)
 大動脈内視鏡が示唆する新しい疾患概念(小嶋啓介)
 生体内肉眼病理としての血管内視鏡(臺 和興・塩出宣雄)
神経
 (企画:木内博文)
 神経内視鏡を用いた水頭症の手術(中島 円)
 内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術の進歩と展望(田原重志)
 内視鏡下キーホール手術(渡邉 督)
 神経内視鏡による脳血管障害の外科治療(吉岡秀幸・木内博之)
泌尿器
 (企画:武中 篤)
 尿路結石に対する最新の内視鏡治療(海野 怜・安井孝周)
 わが国における新規手術支援ロボットの導入とその特徴(森實修一・武中 篤)
 泌尿器科におけるロボット支援手術の現状(日向信之)
 前立腺肥大症に対する最新の低侵襲的外科治療(舛森直哉)
 尿路上皮癌に対する光力学診断を用いた尿路内視鏡手術(三宅牧人・藤本清秀)

 次号の特集予告

 サイドメモ
  画像強調観察(IEE)
  膵液瘻の診断とgrade分類
  胃内容排出遅延
  新規デバイス
  大動脈内視鏡による所見の理解は,画像(静止画)で十分なのか
  “生命の根源物質”5-アミノレブリン酸塩酸塩(5-ALA)