やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 インターネットやスマートフォンなどの通信技術の進歩に伴い,人々の生活様式は変化し,昼夜を問わず仕事を行い余暇を楽しんだりする時代となった.しかしその結果,眠りの必要性が軽視され睡眠環境は悪化しつつある.今年(2017),「睡眠負債」がNHKで取りあげられ話題となった.多くの知見から睡眠負債が人々のこころや身体の健康に影響を与えることは明らかであり,睡眠の重要性をあらためて啓蒙するよい機会となった.厚生労働省は健康維持増進,疾病の予防および早期発見の促進などを重要課題としているが,睡眠学が広い範囲で貢献できるところが大きい.今年われわれは,第42 回日本睡眠学会を開催させて頂いた.「心身の調和を保ち,健全な生活を送るためには,自ら良好な睡眠を積極的に創造してゆく必要がある」という思いを込めて「Design of sleep:こころとからだのハーモニー」というテーマとした.
 昨今睡眠学は大きな変換点を迎えている.睡眠機構の神経学的解明が進むなか,オレキシンをはじめとした覚醒維持機構が明らかにされつつあり,そこから新規睡眠薬スボレキサントが生まれた.また睡眠呼吸障害の領域においても在宅検査・治療の波が米国から押し寄せてきている.これらのタイミングで睡眠学の将来を見据えた最新の知見をまとめることは有意義と考える.
 睡眠学は睡眠科学,睡眠医学,睡眠社会学から構成される学際的色彩の濃い学問であり,関連する専門家は医師をはじめ薬剤師,歯科医師,検査技師,看護,心理士,基礎など広範囲の先生方である.本書のコンセプトとして,どの専門家の先生方にもお役立ていただけるような最新情報を掲載するため,基礎から臨床まで様々な領域の専門家にご執筆いただいた.さらに不眠障害から過眠障害,睡眠呼吸障害,概日リズム睡眠障害,睡眠時随伴障害,睡眠時行動障害の診断から治療までを,将来を期待される若手の先生方にもご協力いただいた.
 本書が睡眠学に興味を持つ一般医や研修医の方々にとっても日常臨床にお役立ていただける書物としてご活用頂ければ幸いである.最後に,執筆にご快諾頂いた先生方に感謝申し上げたい.
 2017 年9 月
 編者を代表して
 小曽根基裕(東京慈恵会医科大学精神医学講座)
 序……小曽根基裕
基礎
 1.睡眠と覚醒の基礎研究(本多和樹)
診断基準
 2.ICD-11 では睡眠障害はどう扱われるのか?(三島和夫・本多 真)
睡眠呼吸障害
 3.睡眠施設外検査(OCST)の運用の現状と今後の課題(八木朝子)
 4.睡眠医療における遠隔医療―睡眠呼吸障害を中心に(林田健一)
CPAP
 5. 睡眠時無呼吸症におけるCPAP療法―新しい国際規格ISO 80601-2-70 をもとに(徳永 豊)
外科治療
 6.睡眠呼吸障害に対する外科的治療の最先端(恩田信人・千葉伸太郎)
口腔外科
 7.睡眠呼吸障害に対する歯科の関わり―口腔内装置の最新事情(有坂岳大・外木守雄)
循環器疾患
 8.循環器疾患と睡眠呼吸障害に関する最新の知見(谷津翔一朗・葛西隆敏)
代謝性疾患
 9.糖尿病血糖コントロールと睡眠治療(山田真介・稲葉雅章)
夜間頻尿
 10.夜間頻尿と睡眠障害の関連についての最新の知見(笠原正登・他)
神経疾患
 11. 神経変性疾患(パーキンソン病)にみられる睡眠障害とレストレスレッグス症候群―運動障害疾患にみられる睡眠障害(宮本雅之)
疼痛性障害
 12.頭痛と睡眠―疼痛性疾患における睡眠医療の意義(鈴木圭輔・他)
アレルギー
 13.アレルギー疾患における睡眠障害(千葉伸太郎)
子ども
 14. 小児の閉塞性睡眠時無呼吸,発達障害にみられる睡眠の問題に関する最近の知見(加藤久美)
女性
 15.女性のライフステージと睡眠障害(横瀬宏美・内山 真)
治療
 16.睡眠薬開発の現状と今後の展望(井上雄一)
 17.睡眠薬によるふらつき・転倒のメカニズム(石井正則・他)
 18.作用機序を考慮した新規睡眠薬の使い分け(小曽根基裕・内海智博)
 19.不眠に対する認知行動療法の最先端(山寺 亘)
過眠障害
 20.中枢性過眠症に対する新薬開発の現状(本多 真)
 21.過眠症診療の実際(小野太輔・神林 崇)
睡眠時随伴症
 22.睡眠時随伴症の最新の知見(篠邉龍二郎・眞野まみこ)
 23.睡眠関連てんかんをめぐって(千葉 茂)
概日リズム睡眠障害
 24.概日リズム睡眠障害治療の最先端(渡邊晶子・北島剛司)
精神障害に伴う不眠障害
 25.うつ病における不眠治療の意義(小鳥居 望)
認知症
 26.認知症における睡眠の特徴(新野秀人)
リエゾン
 27.せん妄に睡眠薬は使えるか?(井上真一郎)
産業医学
 28.産業医学における睡眠指導の重要性(高橋正也)
その他
 29.睡眠医療における保健医療の変遷と専門医制度の現状(角谷 寛)