はじめに
辻 省次
東京大学医学部附属病院神経内科
神経変性疾患は神経難病ともよばれるように,いまだに有効な治療法の確立されていない疾患が多い.分子遺伝学の立場からは,遺伝性神経変性疾患,孤発性神経変性疾患と分けられるが,遺伝性神経変性疾患についてはこの30年の研究の進歩はめざましいものがあり,その多くについて病因遺伝子が同定され,病態機序の解析が進み,治療法の研究も精力的に行われている.一方,孤発性神経変性疾患についてはその発症機構は未解明であったが,次世代シーケンサーの登場による網羅的ゲノム配列解析が可能となり,疾患発症に関与する低頻度アレルの変異を手がかりに急速に発展しつつある.このように,孤発性疾患の発症に関与する遺伝子探索のパラダイムシフト,すなわちこれまでの,common disease-common variants hypothesisからcommon disease-multiple rare variants hypothesisへのパラダイムシフトが注目されるようになってきている.
神経変性疾患では古くから特徴的な封入体の存在が病理学的観察から知られていたが,近年の蛋白の構造解析研究,封入体の主成分の蛋白をコードする遺伝子変異の発見などから,蛋白のmisfolding,品質管理などの面からの研究が大きく発展している.さらに,最近になり,SCA31,SCA36,C9ORF72などのリピート伸長を伴う疾患では核内にRNA fociが形成され,RNA-mediated toxicityという機序が,新しい病態機序として注目されはじめている.
神経変性疾患の分子病態機序の解明が進むことにより,その病態機序に直接介入し,疾患の進行を停止させる,あるいは回復に向かわせるような治療法の研究も大きく発展しており,さまざまな臨床治験が行われるようになってきている.
以上のように,神経変性疾患の病態機序の解明,解明された機序に基づく治療法の実現へとこの分野は大きく発展してきており,本特集では各分野のエキスパートに執筆いただいた.この特集がこの分野の今後のさらなる発展への契機となることを願っている.
辻 省次
東京大学医学部附属病院神経内科
神経変性疾患は神経難病ともよばれるように,いまだに有効な治療法の確立されていない疾患が多い.分子遺伝学の立場からは,遺伝性神経変性疾患,孤発性神経変性疾患と分けられるが,遺伝性神経変性疾患についてはこの30年の研究の進歩はめざましいものがあり,その多くについて病因遺伝子が同定され,病態機序の解析が進み,治療法の研究も精力的に行われている.一方,孤発性神経変性疾患についてはその発症機構は未解明であったが,次世代シーケンサーの登場による網羅的ゲノム配列解析が可能となり,疾患発症に関与する低頻度アレルの変異を手がかりに急速に発展しつつある.このように,孤発性疾患の発症に関与する遺伝子探索のパラダイムシフト,すなわちこれまでの,common disease-common variants hypothesisからcommon disease-multiple rare variants hypothesisへのパラダイムシフトが注目されるようになってきている.
神経変性疾患では古くから特徴的な封入体の存在が病理学的観察から知られていたが,近年の蛋白の構造解析研究,封入体の主成分の蛋白をコードする遺伝子変異の発見などから,蛋白のmisfolding,品質管理などの面からの研究が大きく発展している.さらに,最近になり,SCA31,SCA36,C9ORF72などのリピート伸長を伴う疾患では核内にRNA fociが形成され,RNA-mediated toxicityという機序が,新しい病態機序として注目されはじめている.
神経変性疾患の分子病態機序の解明が進むことにより,その病態機序に直接介入し,疾患の進行を停止させる,あるいは回復に向かわせるような治療法の研究も大きく発展しており,さまざまな臨床治験が行われるようになってきている.
以上のように,神経変性疾患の病態機序の解明,解明された機序に基づく治療法の実現へとこの分野は大きく発展してきており,本特集では各分野のエキスパートに執筆いただいた.この特集がこの分野の今後のさらなる発展への契機となることを願っている.
はじめに(辻 省次)
神経変性疾患の病態機序の解明
1.Proteinopathyからみた神経変性疾患の病態機序
(貫名信行)
・神経変性疾患におけるproteinopathy
・元祖proteinopathyとしてのプリオン病
・Proteinopathyの異常蛋白質の伝播性
・細胞内異常蛋白質蓄積
2.Omicsからみた神経変性疾患の病態機序
(藤田慶大・岡澤 均)
・結合蛋白質スクリーニングが示す核機能異常
・網羅的RNA・蛋白質発現解析が示す神経変性の選択的病態
・プロテオーム解析が示す共通病態
・インタラクトーム解析と結合蛋白質機能解析が示す共通病態
3.RNA biologyからみた神経変性疾患の病態機序(1) 脊髄小脳失調症31型(SCA31)の病態
(石川欽也・新美祐介)
・次第に明らかになるSCA31の病態
・SCA31の病態仮説
4.RNA biologyからみた神経変性疾患の病態機序(2) 孤発性ALS運動ニューロンにみられるRNA編集低下とTDP-43病理の分子連関メカニズム
(山下雄也・郭 伸)
・RNA editingと筋萎縮性側索硬化症
・TDP-43と筋萎縮性側索硬化症
・RNA editing(RNA編集)とTDP-43
・TDP-43とカルパイン
・TARDBP変異とカルパイン
5.RNA biologyからみた神経変性疾患の病態機序(3) ノンコーディングRNAと神経変性疾患
(河原行郎)
・神経細胞におけるmiRNAの生理的重要性
・神経変性疾患とmiRNA
・神経細胞における長鎖ncRNAの生理的重要性
・神経変性疾患と長鎖ncRNA
・リピート病と長鎖ncRNA
6.RNA biologyからみた神経変性疾患の病態機序(4) リピート伸長とRAN translation
(芦澤哲夫)
・蛋白質に翻訳されない(untranslated)リピートの伸長
・3塩基反復配列(trinucleotide repeat)以外のリピートの伸長
・複数の機序によるリピート伸長の病原性
・読み枠(reading frame)とリピートの伸長
・リピートとRAN-translation
・RAN-translationの病原性
・RAN-translationの機序
7.軸索腫大を伴う遺伝性びまん性白質脳症の臨床と分子病態
(吉田邦広)
・HDLSの歴史的経緯
・HDLSの臨床的特徴
・HDLSの分子病態―CSF1RとDAP/TREM2シグナル伝達系のクロストーク
8.近位筋優位遺伝性運動感覚ニューロパチー(HMSN-P)とTRK-fused gene―運動ニューロン疾患の新しい病態機序
(藤田浩司・他)
・HMSN-Pの臨床的特徴
・分子遺伝学
・神経病理所見
・変異TFG発現細胞におけるTDP-43
・TFGの機能
9.パーキンソン病と多系統萎縮症における遺伝因子
(三井 純)
・Parkinson病
・多系統萎縮症
10.疾患感受性遺伝子からみたAlzheimer病の病態機序
(宮下哲典・桑野良三)
・APOE遺伝子
・連鎖解析からSNP相関解析
・GWAS
・孤発性と家族性ADにまたがるリスク遺伝子と原因遺伝子
・中間表現型を用いたGWAS
11.神経変性疾患におけるエピジェネティクスの関与
(岩田 淳)
・Rett症候群
・HSAN1E
・孤発性神経変性疾患でのエピゲノム異常
・パーキンソン病(PD)におけるエピゲノム異常
神経変性疾患の治療の新しい展開
12.神経変性疾患に対する臨床試験・治験
(勝野雅央・他)
・神経変性疾患に対するdisease-modifying therapy開発の現状
・トランスレーショナルリサーチの課題
・基礎研究の展望
・臨床試験・治験の展望
13.アカデミア主導の臨床開発の拠点とネットワーク
(荒川義弘)
・研究開発において研究者がおもに担うべき事項
・開発拠点の整備と連携体制
・疾患領域別ネットワークと拠点
14.球脊髄性筋萎縮症に対するdisease-modifying therapy
(鈴木啓介・他)
・球脊髄性筋萎縮症(SBMA)とは
・SBMAにおける分子病態メカニズム
・SBMAに対するdisease-modifying therapyの開発に向けた歩み
・バイオマーカーはdisease-modifying therapyの開発にとって不可欠である
15.アカデミア主導による筋萎縮性側索硬化症に対する新規治療法の開発
(青木正志)
・筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態
・SOD1トランスジェニックマウスによる病態解析および再生医療に向けたALSモデル動物の開発
・肝細胞増殖因子(HGF)の髄腔内持続投与による新しい治療法の開発
・臨床試験に向けた霊長類を用いた安全性試験
・ALS患者に対する第I相試験
16.アルツハイマー病に対する根本治療薬
(宮川統爾・他)
・Aβ免疫療法
・γ-secretase活性制御薬
・BACE1阻害薬
・Aβ凝集阻害薬
・Tau関連薬
・今後の展望
17.Niemann-Pick病C型の神経症状の治療
(大野耕策)
・Niemann-Pick病C型を疑う臨床症状
・Niemann-Pick病C型の診断
・ミグルスタット(ブレーザーベス(R))の治療効果
・Niemann-Pick病C型患者の医療的ケア
18.シャペロン療法―飲んで効く脳障害の治療法
(檜垣克美・難波栄二)
・シャペロン療法開発の歴史
・シャペロン療法の原理
・分子シャペロンとシャペロン療法
・GM1-ガングリオシドーシス
・GM1-ガングリオシドーシスのシャペロン化合物の開発
・シャペロン化合物の試験管内・培養細胞における効果
・モデルマウスでの実験
・シャペロン療法の現状と今後
19.副腎白質ジストロフィーに対する造血幹細胞移植
(松川敬志)
・副腎白質ジストロフィーの表現型
・副腎白質ジストロフィーの診断
・副腎白質ジストロフィーに対する造血幹細胞移植
・大脳型副腎白質ジストロフィーに対する造血幹細胞移植
20.家族性アミロイドポリニューロパチー
(関島良樹・池田修一)
・家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)に対する肝移植
・FAPの発症機序に基づいた新規治療
21.Crow-Fukase症候群―病態と治療
(桑原 聡)
・疾患の概要
・疫学と病態
・症状・診断
・治療法の変遷
・自己末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法
・サリドマイド療法
・抗VEGFモノクローナル抗体
・今後の展望
サイドメモ
ADAR2とGluA2Q/R部位
アンチセンス鎖
Nasu-Hakola病(NHD)
ゲノムワイドな有意水準
エピゲノム
Disease-modifying therapy
リュープロレリン酢酸塩
医師主導治験
リソソーム病
TTR四量体の不安定性とFAP
ジフルニサル
神経変性疾患の病態機序の解明
1.Proteinopathyからみた神経変性疾患の病態機序
(貫名信行)
・神経変性疾患におけるproteinopathy
・元祖proteinopathyとしてのプリオン病
・Proteinopathyの異常蛋白質の伝播性
・細胞内異常蛋白質蓄積
2.Omicsからみた神経変性疾患の病態機序
(藤田慶大・岡澤 均)
・結合蛋白質スクリーニングが示す核機能異常
・網羅的RNA・蛋白質発現解析が示す神経変性の選択的病態
・プロテオーム解析が示す共通病態
・インタラクトーム解析と結合蛋白質機能解析が示す共通病態
3.RNA biologyからみた神経変性疾患の病態機序(1) 脊髄小脳失調症31型(SCA31)の病態
(石川欽也・新美祐介)
・次第に明らかになるSCA31の病態
・SCA31の病態仮説
4.RNA biologyからみた神経変性疾患の病態機序(2) 孤発性ALS運動ニューロンにみられるRNA編集低下とTDP-43病理の分子連関メカニズム
(山下雄也・郭 伸)
・RNA editingと筋萎縮性側索硬化症
・TDP-43と筋萎縮性側索硬化症
・RNA editing(RNA編集)とTDP-43
・TDP-43とカルパイン
・TARDBP変異とカルパイン
5.RNA biologyからみた神経変性疾患の病態機序(3) ノンコーディングRNAと神経変性疾患
(河原行郎)
・神経細胞におけるmiRNAの生理的重要性
・神経変性疾患とmiRNA
・神経細胞における長鎖ncRNAの生理的重要性
・神経変性疾患と長鎖ncRNA
・リピート病と長鎖ncRNA
6.RNA biologyからみた神経変性疾患の病態機序(4) リピート伸長とRAN translation
(芦澤哲夫)
・蛋白質に翻訳されない(untranslated)リピートの伸長
・3塩基反復配列(trinucleotide repeat)以外のリピートの伸長
・複数の機序によるリピート伸長の病原性
・読み枠(reading frame)とリピートの伸長
・リピートとRAN-translation
・RAN-translationの病原性
・RAN-translationの機序
7.軸索腫大を伴う遺伝性びまん性白質脳症の臨床と分子病態
(吉田邦広)
・HDLSの歴史的経緯
・HDLSの臨床的特徴
・HDLSの分子病態―CSF1RとDAP/TREM2シグナル伝達系のクロストーク
8.近位筋優位遺伝性運動感覚ニューロパチー(HMSN-P)とTRK-fused gene―運動ニューロン疾患の新しい病態機序
(藤田浩司・他)
・HMSN-Pの臨床的特徴
・分子遺伝学
・神経病理所見
・変異TFG発現細胞におけるTDP-43
・TFGの機能
9.パーキンソン病と多系統萎縮症における遺伝因子
(三井 純)
・Parkinson病
・多系統萎縮症
10.疾患感受性遺伝子からみたAlzheimer病の病態機序
(宮下哲典・桑野良三)
・APOE遺伝子
・連鎖解析からSNP相関解析
・GWAS
・孤発性と家族性ADにまたがるリスク遺伝子と原因遺伝子
・中間表現型を用いたGWAS
11.神経変性疾患におけるエピジェネティクスの関与
(岩田 淳)
・Rett症候群
・HSAN1E
・孤発性神経変性疾患でのエピゲノム異常
・パーキンソン病(PD)におけるエピゲノム異常
神経変性疾患の治療の新しい展開
12.神経変性疾患に対する臨床試験・治験
(勝野雅央・他)
・神経変性疾患に対するdisease-modifying therapy開発の現状
・トランスレーショナルリサーチの課題
・基礎研究の展望
・臨床試験・治験の展望
13.アカデミア主導の臨床開発の拠点とネットワーク
(荒川義弘)
・研究開発において研究者がおもに担うべき事項
・開発拠点の整備と連携体制
・疾患領域別ネットワークと拠点
14.球脊髄性筋萎縮症に対するdisease-modifying therapy
(鈴木啓介・他)
・球脊髄性筋萎縮症(SBMA)とは
・SBMAにおける分子病態メカニズム
・SBMAに対するdisease-modifying therapyの開発に向けた歩み
・バイオマーカーはdisease-modifying therapyの開発にとって不可欠である
15.アカデミア主導による筋萎縮性側索硬化症に対する新規治療法の開発
(青木正志)
・筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態
・SOD1トランスジェニックマウスによる病態解析および再生医療に向けたALSモデル動物の開発
・肝細胞増殖因子(HGF)の髄腔内持続投与による新しい治療法の開発
・臨床試験に向けた霊長類を用いた安全性試験
・ALS患者に対する第I相試験
16.アルツハイマー病に対する根本治療薬
(宮川統爾・他)
・Aβ免疫療法
・γ-secretase活性制御薬
・BACE1阻害薬
・Aβ凝集阻害薬
・Tau関連薬
・今後の展望
17.Niemann-Pick病C型の神経症状の治療
(大野耕策)
・Niemann-Pick病C型を疑う臨床症状
・Niemann-Pick病C型の診断
・ミグルスタット(ブレーザーベス(R))の治療効果
・Niemann-Pick病C型患者の医療的ケア
18.シャペロン療法―飲んで効く脳障害の治療法
(檜垣克美・難波栄二)
・シャペロン療法開発の歴史
・シャペロン療法の原理
・分子シャペロンとシャペロン療法
・GM1-ガングリオシドーシス
・GM1-ガングリオシドーシスのシャペロン化合物の開発
・シャペロン化合物の試験管内・培養細胞における効果
・モデルマウスでの実験
・シャペロン療法の現状と今後
19.副腎白質ジストロフィーに対する造血幹細胞移植
(松川敬志)
・副腎白質ジストロフィーの表現型
・副腎白質ジストロフィーの診断
・副腎白質ジストロフィーに対する造血幹細胞移植
・大脳型副腎白質ジストロフィーに対する造血幹細胞移植
20.家族性アミロイドポリニューロパチー
(関島良樹・池田修一)
・家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)に対する肝移植
・FAPの発症機序に基づいた新規治療
21.Crow-Fukase症候群―病態と治療
(桑原 聡)
・疾患の概要
・疫学と病態
・症状・診断
・治療法の変遷
・自己末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法
・サリドマイド療法
・抗VEGFモノクローナル抗体
・今後の展望
サイドメモ
ADAR2とGluA2Q/R部位
アンチセンス鎖
Nasu-Hakola病(NHD)
ゲノムワイドな有意水準
エピゲノム
Disease-modifying therapy
リュープロレリン酢酸塩
医師主導治験
リソソーム病
TTR四量体の不安定性とFAP
ジフルニサル








