やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 戸井雅和
 京都大学大学院医学研究科外科学講座乳腺外科学
 乳癌の診療法は非常に多岐多彩で,癌の生物学的特性,病期,病態,また治療応答性によって用いる診断法,選択する治療法は異なってくる.それだけに最新のコンセンサスを把握しておくことはきわめて重要であり,それらに基づく診療実績が次代においては知識として継承されてゆく.本特集では分子病理診断,病期,治療効果判定,効果予測,画像診断,局所療法,薬物療法,臨床病態別治療などの主項目に関し,当代のエキスパートによる最新のコンセンサスが簡明に,焦点を絞りながら,また今後の展開への示唆も踏まえてまとめられている.
 いずれも日々の臨床に直結し,患者ひとりずつの診療において必須のテーマであると同時に,これからも重要性が増すと思われる課題である.最新のトピックスに関する捉え方や課題の整理・応用にあたって軸になるようなものがみえてくる.進歩を確かめながら今後の方向性を考えるうえで必携のupdateといえる.
 個々の課題における利益,不利益,精度管理,さまざまなcontroversy,臨床的に見逃せないポイントなどが指摘され,最新の知見,とくに新しい技術や治療薬についても触れられている.全体を通してみると,現在の乳癌診療のコンセンサスと課題がみえる.
 最後に,本特集企画の機会をいただいた『医学のあゆみ』誌編集委員会と,多忙な日常の診療や業務の合間に最新の情報をまとめていただいた執筆者の方々に感謝します.
 はじめに(戸井雅和)
最新診断コンセンサス
【診断・治療効果予測】
 1.遺伝性乳がん・卵巣がん症候群におけるBRCA診断(中村清吾)
  ・BRCAとは?
  ・わが国における遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)の特徴
  ・わが国における取組み
  ・アジアにおける取組みとわが国における今後の課題
 2.乳癌検診の現状と今後の展望―次世代の検診システム構築に向けて(石田孝宣・他)
  ・対策型検診と任意型検診
  ・検診の目的
  ・マンモグラフィ検診の現状
  ・乳癌検診の課題と今後の展望
 3.乳癌病期分類―微小転移検索とその臨床的意義(増田慎三)
  ・微小転移の定義と臨床的意義
  ・腋窩リンパ節の微小転移の検出法と臨床的有用性
  ・腋窩リンパ節に関する最近のhot topicsからの考察
  ・骨髄中の微小転移
  ・微小転移診断の今後の展望
 4.マイクロアレイを用いた乳癌subtype分類(直居靖人・野口眞三郎)
  ・Intrinsic subtype分類法の変遷―乳癌を幹細胞から分化の過程に沿って並べるための基礎的研究
  ・Subtype分類と再発予後の関係
  ・Subtype分類と抗癌剤感受性の関係
  ・Subtype分類の日本人乳癌への適用
  ・まとめ
 5.乳癌臨床検体における細胞増殖の評価(笹野公伸)
  ・乳癌臨床検体での細胞増殖動態の検索の流れ
  ・Ki67・MIB1抗体を用いた細胞増殖動態の検索
  ・Ki67免疫組織化学の問題点と限界
 6.組織学的治療効果判定の意義と問題点(堀井理絵)
  ・組織学的治療効果の判定基準
  ・組織学的治療効果判定の意義
  ・組織学的治療効果判定の問題点
 7.術前薬物療法後の予後予測(田中仁寛・大野真司)
  ・術前化学療法
  ・術前内分泌療法
【画像診断】
 8.早期乳癌の診断―乳房MRIの臨床適応(金尾昌太郎)
  ・マンモグラフィ
  ・超音波
  ・乳房MRI
 9.治療効果評価(戸崎光宏)
  ・治療前の腫瘍径計測―超音波vs.MRI
  ・治療後評価―広がり診断
  ・治療効果判定の問題点―RECISTは有効か?
  ・新しい機能画像―MRスペクトロスコピー
  ・治療効果予測―FDG-PET vs.MRスペクトロスコピー
  ・早期効果予測の適切なタイミング
最新治療コンセンサス
【外科・放射線治療】
 10.センチネルリンパ節生検とリンパ節転移診断の将来(津川浩一郎)
  ・腋窩マネジメントの変遷とセンチネルリンパ節生検
  ・画像診断によるリンパ節転移診断
 11.非浸潤性乳管癌の局所治療(照屋なつき・岩瀬拓士)
  ・適切な切除範囲の設定
  ・設定した切除範囲の確実な切除
  ・完全切除の保証
  ・リンパ節に対する局所治療
  ・乳房温存術後の追加治療
 12.乳癌の腋窩治療―現状と今後の展望(杉江知治)
  ・腋窩リンパ節転移の意義
  ・センチネルリンパ節陰性の取扱い
  ・センチネルリンパ節陽性の取扱い
  ・腋窩手術省略の可能性
 13.術前化学療法施行例の外科治療―乳房温存療法,センチネルリンパ節生検の実際(木下貴之)
  ・術前化学療法と乳房温存療法
  ・当院での術前化学療法後乳房温存療法の実際
  ・術前化学療法とセンチネルリンパ節生検
  ・術前化学療法後センチネルリンパ節生検法
  ・術前化学療法後センチネルリンパ節生検法の海外での成績
 14.乳房再建の適応と選択―根治とQOLの両立のために(寺尾保信)
  ・医師からみた適応
  ・患者からみた適応
  ・再建方法の選択
  ・インプラントによる乳房再建
  ・自家組織移植による乳房再建
 15.原発性乳癌に対する放射線療法―その役割とあらたな知見(山内智香子)
  ・乳房温存療法における放射線療法
  ・進行乳癌に対する乳房切除術後放射線療法
 16.両側乳癌の治療―両側乳癌のリスクファクターと対側の予防的乳房切除術の問題(川端英孝)
  ・両側乳癌の定義
  ・転移性乳癌との鑑別
  ・両側乳癌の頻度
  ・両側乳癌の予後
  ・両側乳癌のリスクファクター
  ・対側の予防的乳房切除の役割
  ・同時両側乳癌の治療
  ・異時両側乳癌の治療
【薬物療法】
 17.乳癌ホルモン療法のUpdate 2012(岩瀬弘敬)
  ・乳癌ホルモン療法薬
  ・術前内分泌療法
  ・術後内分泌療法
  ・進行・再発乳癌の内分泌療法
 18.抗HER2療法の現状(澤木正孝・岩田広治)
  ・抗HER2療法の最新知見
  ・現在治験中の抗HER2 療法
 19.新規チューブリン阻害剤としてのNab-パクリタキセルとエリブリン―新規チューブリン阻害剤の有用性(青儀健二郎)
  ・Nab-パクリタキセルの開発と臨床試験
  ・エリブリンの開発と臨床試験
  ・2剤の副作用と留意点
  ・両剤の今後の展開
 20.mTOR阻害薬による乳癌治療(伊藤良則)
  ・薬剤耐性克服
  ・臨床的有用性
 21.血管新生阻害療法の現状と展望(井上 将・佐治重衡)
  ・血管新生
  ・血管新生阻害薬
  ・今後の展望
【転移】
 22.脳転移を有する患者の治療―現状と展望(内海裕文・清水千佳子)
  ・乳がんにおける脳転移の危険因子
  ・予後
  ・症状管理
  ・手術,放射線療法
  ・化学療法
  ・今後の展望
 23.骨転移の制御(上田亜衣・他)
  ・骨転移の成立
  ・ビスホスホネート(BP)の構造と作用機序
  ・BPの抗腫瘍効果
  ・クロドロネート(Clo)を使った臨床試験
  ・ゾレドロン酸を使った臨床試験
  ・デノスマブ(Deno)

 サイドメモ目次
  ・J-STARTの進捗状況
  ・マイクロアレイ
  ・ER陽性早期乳癌における細胞増殖動態と化学療法の適応
  ・病理学的完全奏効(pCR)
  ・乳癌のサブタイプ
  ・EUSOBIガイドライン
  ・MRスペクトロスコピーで観察される代謝物質
  ・温存乳房内再発
  ・ハルステッド理論とフィッシャー理論
  ・脂肪移植による乳房再建
  ・主治医選択治療(TPC)