やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 埜中征哉
 国立精神・神経センター病院
筋疾患(ミオパチー)
 筋疾患の多くは遺伝性のもので,主症状は進行性の筋力低下である.その代表的な疾患に筋ジストロフィーやミトコンドリア病などの代謝性筋疾患がある.ごく一部の疾患を除いて,進行を阻止する有効な治療法はない.
患者のケア・マネジメント
 筋疾患患者の多くは病気が進行すると歩行が不能となり,車いす生活を余儀なくされる.また,呼吸筋や心筋の機能低下による合併症対策が重要である.Duchenne型筋ジストロフィーでは人工呼吸器(とくに非侵襲的人工呼吸器)の普及により,平均寿命が10年ほど延長したという.個々の筋疾患患者に適したリハビリテーション,医療機器の応用で,生命予後は急速に改善している.
根本治療への展望
 患者の生命予後は改善しているとはいえ,寝たきりで,日常生活に全介助が必要な人が多い.やはり,なんとかして筋疾患の根本治療が実現してほしい.現在,どのような研究がなされ,どこまで研究が進展しているか,多くの人が知りたいところである.研究の進展を知ることは,患者・家族に夢と生き甲斐を与えることになる.最近の研究では,遺伝子変異の種類によって治療法も異なる.治療に向けての遺伝子診断の重要性が強調されている.
本企画がめざしたこと
 本企画では代表的な筋疾患のケア・マネジメントから根本治療への展望まで,幅広くカバーするように企画した.この特集はたぶん,患者・家族の方々がお読みになっても役立つところが大きいと思う.さらに臨床医にとっては,この1冊を座右におけば,筋疾患の日常の診療におおいに役立つと確信する.根本治療が単なる夢物語ではなく,実現の直前まできていることを知り,患者・家族だけでなく,医療関係者もおおいに勇気づけられると思う.車いすから自立歩行へ,期待は膨らむ.
 はじめに(埜中征哉)
筋ジストロフィーのマネジメント(Duchenne型を中心に)
 1.Duchenne型筋ジストロフィーの非侵襲的呼吸療法の最新動向(石川悠加)
  ・呼吸療法のパラダイムシフト
  ・スタンダード医療の推奨
  ・非侵襲的呼吸療法の実用に関する課題
  ・非侵襲的呼吸療法の可能性
 2.心不全のマネジメント(田村拓久)
  ・DMDの慢性心不全例
  ・心機能と心筋の評価
  ・慢性心不全の治療と予後
 3.Duchenne型筋ジストロフィーのリハビリテーション(白井幹子・他)
  ・歩行期のリハビリテーション
  ・車いす期のリハビリテーション
  ・臥床期のリハビリテーション
 4.筋ジストロフィー患者に伴う脊柱変形に対するインストゥルメンテーション手術の実際(相晶士・糸満盛憲)
  ・筋ジストロフィー患者に伴う脊柱変形の特徴
  ・脊柱変形の治療方法の歴史
  ・脊柱変形の評価
  ・脊柱変形の手術的治療 
  ・手術方法
  ・出血量と輸血
  ・著者らの手術的治療の実際
  ・代表症例供覧
  ・手術の意義
 5.筋ジストロフィーの摂食・嚥下・栄養マネジメント(DMDを中心に)(野ア園子)
  ・摂食・嚥下障害とは
  ・摂食・嚥下運動のモデル
  ・Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)における摂食・嚥下・栄養障害の病態
  ・摂食・嚥下・栄養障害の対策
 6.ステロイド治療―その有効性,投与法,副作用(小牧宏文)
  ・ステロイド治療研究のレビュー
  ・ステロイド治療の現状と今後の検討事項
  ・ステロイド剤の副作用
  ・日本ではどのように投与を行っていくべきか
  ・ステロイドの作用機序
  ・DMD以外の筋ジストロフィーに対するステロイド治療の効果
先天性筋ジストロフィーのマネジメント
 7.福山型先天性筋ジストロフィーの日常管理(大澤真木子・他)
  ・臨床症状
  ・検査所見
  ・予後
  ・遺伝相談
  ・日常管理上重要な所見
 8.Ullrich型先天性筋ジストロフィー(UCMD)(岡田麻里)
  ・臨床症状
  ・検査所見
  ・筋病理所見
  ・遺伝子変異
  ・疫学
  ・予後
筋ジストロフィーの根本治療をめざして
 【遺伝子治療】
  9.ウイルスベクターを用いた筋ジストロフィーの治療法開発(笠原優子・他)
   ・ベクター開発の現状
   ・筋ジストロフィー治療法開発の試み
  10.Duchenne型筋ジストロフィーに対するエクソン・スキッピング誘導治療(竹島泰弘・松尾雅文)
   ・Duchenne型/Becker型筋ジストロフィーとジストロフィン遺伝子
   ・アンチセンスオリゴヌクレオチドによるエクソン・スキッピングの誘導治療
   ・神戸大学における治療
   ・臨床における世界での取組み
  11.遺伝子医療に対する患者およびその家族の意識調査(貝谷久宣・野口恭子)
   ・アンケートの対象と方法 ・患者と家族の意識
 【幹細胞治療】
  12.筋ジストロフィーと細胞移植治療―骨髄間葉系細胞からの骨格筋細胞の誘導(出澤真理)
   ・骨髄間葉系細胞とは
   ・筋肉細胞の誘導法
   ・骨格筋への移植
 【リードスルー療法】
  13.リードスルー療法の最前線(松田良一・塩塚政孝)
   ・ゲンタマイシンによるリードスルー
   ・PTC124によるリードスルー
   ・ネガマイシンによるリードスルー
   ・リードスルー薬物の経皮投与
   ・リードスルー療法以外の薬物療法
 【抗マイオスタチン療法】
  14.抗マイオスタチン療法(砂田芳秀)
   ・マイオスタチン:骨格筋量の抑制性調節因子
   ・マイオスタチンの生合成と活性化,細胞内シグナル伝達機構
   ・抗マイオスタチン抗体による筋ジストロフィー治療
   ・多様なマイオスタチン阻害戦略
代謝性ミオパチーの治療:現状と未来
 15.Pompe病(糖原病II型)―酵素補充療法の現状と診断方法および病態研究における進歩(福田冬季子・杉江秀夫)
  ・酵素補充療法
  ・Pompe病の診断
  ・Pompe病の二次的な病態(autophagic buildup)と治療抵抗性に関する研究
 16.ミトコンドリア病の治療戦略(後藤雄一)
  ・ミトコンドリア異常の多様性
  ・治療予防法の戦略
 17.脂質代謝異常によるミオパチー(門間一成・他)
  ・全身性原発性カルニチン欠乏症(CDSP)
  ・極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症
  ・MADD(multiple acyl-CoA dehydrogenase deficiency)
ミオパチーの臨床と研究の最新トピックス
 【肢帯型筋ジストロフィー】
  18.肢帯型筋ジストロフィーの心障害(林 由起子)
   ・LGMD1A
   ・LGMD1B
   ・LGMD1C
   ・LGMD2A,2B,2H
   ・LGMD2C-2F
   ・LGMD2G
   ・LGMD2J
   ・LGMD2I,2K,2 L,2 M,2N
   ・X-LGMD
 【縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー】
  19.縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーの治療法開発(西野一三)
   ・DMRVの臨床病理学的特徴
   ・原因遺伝子と遺伝子変異
   ・分子病態
   ・モデル動物の作製
   ・治療法開発に向けて
   ・臨床試験に備えて考えるべきこと
 【筋強直性ジストロフィー】
  20.筋強直性ジストロフィーの診療(大矢 寧)
   ・筋強直性ジストロフィーの臨床診断
   ・咀嚼・嚥下障害
   ・消化管の機能低下
   ・手指の筋力低下や変形
   ・歯科的問題と齲歯の多発
   ・多様な歩行障害
   ・著しい換気障害
   ・耐糖能低下
   ・肥満や高脂血症
   ・白内障や兎眼
   ・コミュニケーション障害
   ・眠気
   ・不整脈や心筋障害
   ・胆道系の障害
   ・その他の合併症
   ・経過観察の大切さ
   ・先天性筋強直性ジストロフィー
   ・遺伝カウンセリング
  21.筋強直性ジストロフィーの治療戦略(石浦章一)
   ・リピート RNAに結合するスプライシング因子
   ・DM筋でのスプライシング異常
   ・新しい治療法
 【炎症性ミオパチー】
  22.炎症性ミオパチー―難治例の治療をめぐる諸問題(松原四郎)
   ・筋炎の症状
   ・合併病態
   ・筋炎の診断
   ・DMとPMの治療と難治化の原因
   ・DMとPMの難治例の治療対策
   ・IBMをめぐる問題
   ・難治例のマネージメントのまとめ

 ・サイドメモ目次
  非侵襲的陽圧人工呼吸または非侵襲的陽圧換気療法(NIVまたはNPPV)
  器械による咳介助(MI-EまたはMAC)
  咳の最大流量(CPF)
  ヘテロプラスミーとホモプラスミー