やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 畠 清彦
 癌研究会有明病院化学療法科・血液腫瘍科
 血管新生を標的とする抗体医薬の承認が間近となっている.最近,癌医療の均てん化が盛んに叫ばれているが,具体的に何をするのかが重要である.国や国立がんセンターが行うべき政策は何か,現実に地域癌拠点病院になった施設では何をするか,である.この企画は,医療にかかわるすべての領域の人々に,癌医療,とくに抗癌剤の治療の均てん化のために何をやるべきか,具体的に考える機会をもっていただくことを願って企画した.
 現在の標準治療をできるだけ導入しておくことは,施設の能力・問題点をいまからチェックするにはよいことである.各職種,各施設によって,必要な整備,化学療法のレジメン登録と安全性の担保などがあり,施設によってのアクションプランが異なるが,この別冊が,どのようなことを検討すべきであるのか参考となれば幸いである.
 北朝鮮とモンゴル,アフリカを除くと,日本の新規薬剤の承認は世界の先進国のなかでもっとも遅く,承認が待ちきれずに亡くなった方もおられるであろう.承認を遅くしても罪には問われないからであろう.種々のインフラ整備不十分で,この治療抗体がようやく日の目をみることになった.患者さんのためにも早く,安全に導入されることが望まれる.
 はじめに(畠 清彦)
【Overview】
 1.血管新生を標的とする抗体療法(畠 清彦)
  ・VEGFの役割とその阻害薬
  ・施設内で準備されるべき内容にはなにがあるか?
  ・病理所見と投与の注意点
  ・導入入院での注意点
  ・外来治療への準備(外来治療センターの準備)
  ・施設側における負担の検討の必要性
第1章 Bevacizumab
 2.転移性大腸癌に対する抗体療法―Bevacizumabを中心に(瀧内比呂也)
  ・Bevacizumabの転移性結腸・直腸癌に対するfirst-line療法
  ・Bevacizumabの転移性結腸・直腸癌に対するsecond-line療法
  ・抗EGFR抗体薬Cetuximabとの治療成績―BOND-2試験
  ・おわりに
 3.Bevacizumabを用いた乳癌の治療(徳留なほみ・伊藤良則・畠 清彦)
  ・乳癌とVEGF
  ・Bevacizumabの臨床試験
  ・おわりに
 4.肺癌に対する抗体療法(後藤功一)
  ・抗体療法の分類
  ・Bevacizumab(Avastin(R))
  ・Matuzumab(EMD72000)
  ・Panitumumab(ABX-EGF)
  ・Cetuximab(C225)
  ・Trastuzumab(Herceptin(R))
  ・Pertuzumab(2C4)
  ・おわりに
 5.Bevacizumab使用について外科医のおさえるべき点―Bevacizumab療法における有害事象と外科的処置(植竹宏之・杉原健一)
  ・Bevacizumab療法における有害事象
  ・今後の展望―転移巣切除率向上の可能性
  ・おわりに
第2章 Cetuximab
 6.Cetuximabを用いた大腸癌に対する抗体療法(高張大亮・島田安博)
  ・Cetuximab
  ・海外第II相試験におけるcetuximabの試験成績
  ・海外第III相臨床試験の現況
  ・わが国におけるcetuximabの成績
  ・Cetuximabの有害事象
  ・おわりに
 7.Cetuximabを用いた頭頸部腫瘍に対する抗体療法―頭頸部癌治療における分子標的薬からの新しいアプローチ(藤井博文)
  ・増殖のシグナル伝達と分子標的薬剤
  ・Cetuximabの薬理作用と作用機序
  ・Cetuximabの投与量設定
  ・Cetuximabの毒性
  ・頭頸部癌におけるEGFR
  ・頭頸部癌に対するcetuximabの有効性
  ・Cetuximabの効果予測因子
  ・頭頸部癌に対する他のEGFR関連薬剤
  ・おわりに
第3章 血液腫瘍領域
 8.Gemtuzumab ozogamicin(Mylotarg(R))を用いた急性骨髄性白血病の治療(薄井紀子)
  ・GO単独療法
  ・GOと抗白血病薬との併用療法
  ・現在進行中のGOを用いたAMLの治療法
  ・おわりに
 9.抗CCR4抗体―ベンチからベッドサイドへ(石田高司・上田龍三)
  ・抗CCR4抗体開発の経緯
  ・T細胞性リンパ腫におけるCCR4発現の臨床的意義
  ・T細胞性腫瘍においてCCR4の発現が予後不良因子となるのはなぜか
  ・抗体の作用機序―ADCC活性の重要性
  ・ADCC活性を増強するアプローチ
  ・CCR4を分子標的とする新規抗体療法の開発
  ・Treg制御薬剤としての抗CCR4抗体
  ・おわりに
 10.Diffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)に対するR-CHOP療法(横山雅大)
  ・CD20抗原
  ・リツキシマブとは
  ・DLBCLに対するR-CHOP療法
  ・おわりに
 11.放射性同位元素を用いたCD20抗体療法―Radioimmunotherapy(RIT)(渡辺 隆)
  ・RITの第I/II相試験
  ・Rituximab不応性FLに対するRIT
  ・わが国でのRIT第I相試験
  ・FL患者に対する初期治療としての131I-tositumomab(Bexxar(R))によるRIT
  ・RIT後の治療関連性骨髄異形性症候群または急性骨髄性白血病
  ・RIT後出現する抗マウス抗体
  ・CHOP療法先行後のRIT
  ・RITの自家造血幹細胞移植+大量化学療法への応用
  ・今後のRITの問題点
 12.Calicheamicin抱合,ヒト化抗CD22モノクローナル抗体(inotuzumab ozogamicin)(小椋美知則)
  ・ヒト化抗CD22モノクローナル抗体(inotuzumab ozogamicin)の基礎
  ・臨床試験
  ・おわりに
 13.抗体療法の耐性機序―抗CD20抗体リツキサン耐性克服の試み(照井康仁・畠 清彦)
  ・CD20分子
  ・リツキサンの作用と抵抗性
  ・おわりに
第4章 Trastuzumab
 14.Trastuzumabを用いたHER2陽性胃癌に対する抗体療法(土井俊彦)
  ・受容体型チロシンキナーゼ
  ・HER2
  ・胃癌における開発
  ・おわりに
 15.乳癌に対するtrastuzumab治療―術後補助療法を中心に(坂東裕子・戸井雅和)
  ・トラスツズマブの基礎,作用機序
  ・臨床試験の成績
  ・トラスツズマブの心毒性
  ・トラスツズマブの耐性
  ・おわりに
第5章 あらたな抗体療法とその課題
 16.骨転移に対する抗体療法―RANKL抗体(denosumab)(高橋俊二)
  ・骨転移の機序
  ・RANKLの発見とその機能
  ・骨転移とRANKL
  ・骨転移の薬物治療
  ・ヒト型化RANKL抗体(denosumab)の開発
  ・RANKL抗体(denosumab)の副作用
  ・おわりに
 17.抗体療法との併用効果が期待される低分子化合物(田村研治)
  ・分子標的薬の種類と併用
  ・ベバシズマブとエルロチニブ併用の臨床試験
  ・その他の進行中の試験―期待される組合せ
  ・おわりに
 18.がん薬物療法専門医が知るべき抗体医薬の有害事象(三嶋裕子)
  ・共通する副作用
  ・Rituximab(リツキサンィ)(CD20モノクローナル抗体,適応:CD20陽性悪性リンパ腫)
  ・Trastuzumab(ハーセプチンィ)(抗Her2抗体,適応:Her2抗体陽性乳癌,胃癌で臨床試験中)
  ・Bevacizumab(アバスチンィ)〔VEGF抗体,適応:大腸癌(臨床試験中)〕
  ・Ibritumomab(ゼバリンィ)(90Y-CD20抗体,適応:再発性,難治性低悪性度CD20陽性悪性リンパ腫)
  ・Cetuximab(Erbitux(R))〔抗EGFR抗体:C225,適応:転移性大腸癌(臨床試験中)〕
  ・Gemtuzumab(Mylotarg(R))(CD33抗体,適応:再発性急性骨髄性白血病)
  ・おわりに
第6章 その他TOPICS
 19.診断群分類からみた抗体医薬の使用―リツキシマブ包括評価の変遷(木村文彦)
  ・包括評価の算定方法
  ・抗体医薬使用時の包括評価
 20.学生・研修医など,臨床腫瘍専門医をめざす医師にとっての抗体医薬の基礎知識(山崎知子)

 ・サイドメモ目次
  転移巣切除(metastasectomy)
  上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)
  急性前骨髄球性白血病(APL)に対するGO療法
  ヨード131(131I)とイトリウム90(90Y)
  抗PTHrP抗体
  EGFRやVEGFRの種類と下流のカスケード