やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 石井芳樹
 獨協医科大学呼吸器・アレルギー内科
 人間にとって眠ることがいかに大切なことであるかはいうまでもない.眠りが障害されれば生体には重大な問題が起こる.この眠りが障害される疾患である睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)は,単に睡眠障害に起因する居眠り運転などの交通事故や労働災害ばかりでなく,生体にさまざまな悪影響を及ぼしていることが明らかとなってきた.軽症でもSASを放置すると高血圧をはじめ脳血管障害や冠動脈疾患などの合併症を伴う可能性がある.また,SASを伴う体質そのものが肥満に関連した生活習慣病と深く関連しており,耐糖能異常や脂質代謝異常などメタボリックシンドロームの病態をもつことがわかってきた.このような観点からSASは全身疾患としてとらえて治療する必要がある.SASの診療には,呼吸器内科医,神経内科医,内分泌内科医,循環器内科医,耳鼻咽喉科医,口腔外科医,小児科医など,さまざまな専門医が関与しており,それぞれの立場からの知見を合わせた集学的な協力体制が必要である.
 本特集はSASを全身疾患としてとらえて対処すること,関連する各科のそれぞれの観点からの最新の考え方を一同に集積することによって多角的な見地からSASを診療できることを目標として編集した.また,SASの診療を最前線で扱う睡眠クリニックや職場での労働衛生対策の実際についても記載していただいた.本特集が最新のSASの理解と最善の治療に役立つものとなることを期待する.
はじめに(石井芳樹)
第1章 概念
 1.睡眠時無呼吸症候群の概念と病態生理(飛田 渉)
  ・SASの概念
  ・無呼吸のタイプ
  ・無呼吸の発生機序
  ・無呼吸による病態生理と臨床像
  ・増悪因子
  ・病態生理学的な見地からの閉塞型無呼吸の治療
  ・おわりに
第2章 疫学
 2.睡眠時無呼吸症候群の疫学(高崎雄司・吉田浩幸・金子泰之)
  ・調査方法に関する問題点
  ・OSASの発生率
  ・病態
  ・おわりに
第3章 病態
 3.神経疾患と睡眠時無呼吸症候群(宮本雅之・平田幸一・宮本智之)
  ・脳血管障害
  ・高次脳機能障害―認知機能障害との関連
  ・錐体外路系疾患―Parkinson病と多系統萎縮症
  ・神経筋疾患
  ・頭痛
  ・てんかん
  ・おわりに
 4.耳鼻咽喉,口腔領域疾患と睡眠時無呼吸症候群(千葉伸太郎)
  ・睡眠呼吸障害の重症度に影響を与える要因
  ・睡眠呼吸障害患者における上気道疾患の合併
  ・睡眠呼吸障害患者における鼻呼吸障害の影響
  ・睡眠呼吸障害患者における顎顔面形態の影響
  ・おわりに
 5.肥満・内分泌疾患と睡眠時無呼吸症候群(鈴木崇浩・木村 弘)
  ・肥満と閉塞型睡眠時無呼吸症候群
  ・OSASを引き起こす内分泌疾患
  ・アディポサイトカインと OSAS
  ・内臓脂肪蓄積と OSAS
  ・肥満と無呼吸低呼吸イベントにおける低酸素血症
  ・動脈硬化とOSAS
 6.呼吸器疾患と睡眠呼吸障害(川原誠司・赤星俊樹・赤柴恒人)
  ・睡眠時の呼吸生理
  ・慢性閉塞性肺疾患(COPD)と睡眠呼吸障害
  ・肺結核後遺症と睡眠呼吸障害
  ・気管支喘息と睡眠呼吸障害
  ・間質性肺疾患と睡眠呼吸障害
  ・その他の呼吸器疾患と睡眠呼吸障害
  ・おわりに
 7.循環器疾患と睡眠時無呼吸症候群―睡眠呼吸障害の評価および治療の重要性(阪野勝久・塩見利明)
  ・高血圧
  ・肺高血圧・肺血栓塞栓症
  ・不整脈
  ・虚血性心疾患
  ・心不全
  ・おわりに
 8.小児期の睡眠呼吸障害(神山 潤)
  ・小児の睡眠中の呼吸の特徴
  ・小児の睡眠時無呼吸
  ・小児の閉塞性睡眠時無呼吸症候群
  ・おわりに
 9.睡眠時無呼吸症候群に伴う液性因子の異常(榊原博樹)
  ・OSASによる内分泌異常
  ・OSASと呼吸障害・睡眠障害と炎症性サイトカイン
  ・SASとインスリン抵抗性・メタボリックシンドローム
  ・おわりに
第4章 診断
 10.睡眠呼吸検査(岡村城志・大井元晴)
  ・睡眠時呼吸障害の種類
  ・睡眠時呼吸検査の種類
 11.閉塞性睡眠時無呼吸症候群診断における画像診断の意義―CT,MRIの有用性(小田真琴・高島雅之・友田幸一)
  ・検査
  ・おわりに
 12.閉塞性睡眠時無呼吸症候群の鑑別診断(井上雄一・八木朝子)
  ・どのような疾患が鑑別対象になるのか
  ・おわりに
第5章 治療
 13.睡眠時無呼吸症候群に対する CPAP療法(陳 和夫)
  ・CPAPの有効性
  ・CPAPの開始基準
  ・CPAPの効果11)
  ・NCPAPのコンプライアンス4,17)
  ・nCPAPの副作用と対症法4,11,17).
  ・NCPAPと bilevel PAP
  ・おわりに
 14.口腔装置を用いたポスト・シーパップ療法(河野正己)
  ・いびきのメカニズム
  ・セファログラムによる病因診断
  ・歯科的治療法
  ・ORAP以外の治療法
  ・おわりに
 15.睡眠時無呼吸症候群の外科的治療―耳鼻科医の観点から(中山明峰)
  ・小児症例
  ・成人症例
 16.睡眠時無呼吸症候群における薬物療法(巽 浩一郎)
  ・薬物療法の位置づけ
  ・肥満に対する薬物治療1-4)
  ・傾眠に対する薬物治療6-8)
  ・鼻閉に対する薬物療法
  ・睡眠時無呼吸症候群を引き起こす誘因に対する薬物療法17-20)
  ・睡眠時無呼吸症候群の合併症に対する薬物療法
  ・睡眠パニック障害に対する薬物療法1)
  ・無呼吸・低呼吸に対する呼吸刺激薬を使用した薬物療法
第6章 予後
 17.睡眠時無呼吸症候群の予後―心血管リスクと生命予後に関するエビデンス(櫻井 滋)
  ・睡眠時無呼吸症候群の死亡率と心血管リスク
  ・治療的介入が予後に及ぼす影響
  ・その他の予後悪化因子
  ・おわりに
付章 その他・TOPICS
 18.職域における睡眠時無呼吸症候群対策(新島邦行・森本泰夫)
  ・職域における SASスクリーニング
  ・SASに対する労働衛生管理
  ・おわりに
 19.睡眠クリニックの現状と役割および方向性(斎藤恒博)
  ・“睡眠クリニック”
  ・受診者の特徴
  ・睡眠ポリグラフ検査の実績
  ・他施設との連携
  ・健康保険給付
  ・役割と方向性

●サイドメモ目次
 用語解説
 心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy:CRT)と睡眠呼吸障害
 低呼吸(hypopnea)の定義
 CPAP治療後も日中の過度の眠気が残存する原因
 パニック障害
 覚醒反応と予後
 睡眠障害と産業事故
 安全衛生委員会