はじめに
リハビリテーションの代表的な職種である理学療法士,作業療法士の養成は1963年に国立東京療養所附属リハビリテーション学院で開始された.開設から16年後,1979年に3年制短期大学が金沢大学医療技術短期大学部で設立,1992年に4年制大学が広島大学医学部に設立された.また,理学療法学分野および作業療法学分野の大学院修士および博士課程が設立され,多くの学位取得者がみられるようになった.このように理学療法士,作業療法士のレベルの向上,社会的な役割および認知度が向上するなかで,各専門職と学生は増加している.1994年より理学療法士および作業療法士養成施設が急増し,理学療法士の4年制大学が108校,3年制短期大学が6校,専門学校が149校で合計263校となり,入学定員は13,000名を超えている状況である.作業療法士では4年制大学が71校,3年制短期大学が6校,専門学校が111校で合計188校,入学定員が7,000名を超えている.
養成施設と学生の増加により,養成施設の学生の能力は変化してきた.臨床実習先では知識不足,態度不良などが多く指摘され,評価,治療中に事故を含むトラブルも増加している.学生の傾向としてはストレスに弱い,コミュニケーション能力低下,自主性や積極性のなさなど多くの問題が指摘され,学校教育では学生の生活指導も含めた教育が必要となってきた.教員がこれらに対応するためには,教育学を学ぶことが重要であり,研鑽を続ける必要がある.
理学療法士・作業療法士教育の基準を定めているのが「指定規則」である.「指定規則」は1966年に制定され,その後10年おきに改正されてきた(下表).
1999年以降20年間は改正がない状況であったが,2020年に改正された.20年の間に,医療・福祉などには大きな変化が生じており,評価法,治療法,地域ケアシステムなどの新しい技術・知識などを教育内容に含める必要があることから改正が行われた.おもな改正点は,臨床実習数の増加(18単位から20単位),総単位数93単位から101単位に増加(3,120時間以上),科目および科目内に,画像評価,臨床薬理学,職場管理,職業倫理などが必須となった.また,カリキュラム以外にも,教員および臨床実習指導者の要件が見直された.今までは,教育法を全く勉強しなくても5年以上の経験があれば専任教員になれたが,今後は教育に関する講習会(360時間)などを受講しなければならない.臨床実習指導者は5年以上の経験を有し,2日の講習会を受けなければならないこととなった.また,実習の方法として診療参加型臨床実習が位置づけられた.
実習前の教育においては,共用試験の導入が示唆されている.共用試験は,臨床実習前に,知識・技術・態度に関する試験を実施し,臨床実習の可否を判定する試験である.医学部(社団法人で設立)および薬学部(NPO法人で設立)では以前より共用試験が行われている.理学療法,作業療法でも共用試験機構が立ち上げられている.共用試験にはCBT(コンピュータでの試験),OSCE(客観的臨床能力試験)があり,OSCEは多くの学校で導入されつつある.
以上のことから,リハビリテーションに特化した大学院教育も行われるようになった.国際医療福祉大学の例では対象は病院等の管理者,学校の教員であり,科目は教育者教育原理,教育評価,教育方法,リハビリテーション教育・管理,リハビリテーション管理学,組織論である.教育者・管理者として重要なマネジメントも学ぶ.
教育分野においても,改革が行われている.教員が授業力をつけること,授業設計の作成,教育評価,アクティブ・ラーニングなど,技術的なことが積極的に取り入れられている.
しかし,真の教育とは何かを見直す時期に来ているのではと考える.学生に教育(teaching)するのではなく,育てる,見守る,支持することの重要性をあらためて考えることが必要である.そのために,本書が絶好の機会を与えてくれるものと信じている.
本書は,2020年の指定規則改正に沿って教育学に着目し,理論をわかりやすく解説し実務に活かせるように構成した.理学療法士・作業療法士の新しい教育書ともいえる.
内容は,「自律性を伸ばす学習と教育」「学習者を動機づけ,自律性を高める」「教育の目標を決め,適切に管理する」「教育活動のつくり方」「効果的な教育の設計・実施・評価」「さらに学習・成長を促す手法」「臨床で役立つ人財教育」などである.
執筆者は,教育学の専門家に加えて,学校教育,臨床実習教育に携わっている理学療法士・作業療法士の教員である.本書は,教員,臨床実習指導者のみならず,臨床家や養成校学生にも大変有益である.新たな理学療法士・作業療法士教育の幕開けに貢献できれば幸いである.
最後に,本書の企画,編集をしていただいた医歯薬出版編集部に感謝する.
丸山仁司
リハビリテーションの代表的な職種である理学療法士,作業療法士の養成は1963年に国立東京療養所附属リハビリテーション学院で開始された.開設から16年後,1979年に3年制短期大学が金沢大学医療技術短期大学部で設立,1992年に4年制大学が広島大学医学部に設立された.また,理学療法学分野および作業療法学分野の大学院修士および博士課程が設立され,多くの学位取得者がみられるようになった.このように理学療法士,作業療法士のレベルの向上,社会的な役割および認知度が向上するなかで,各専門職と学生は増加している.1994年より理学療法士および作業療法士養成施設が急増し,理学療法士の4年制大学が108校,3年制短期大学が6校,専門学校が149校で合計263校となり,入学定員は13,000名を超えている状況である.作業療法士では4年制大学が71校,3年制短期大学が6校,専門学校が111校で合計188校,入学定員が7,000名を超えている.
養成施設と学生の増加により,養成施設の学生の能力は変化してきた.臨床実習先では知識不足,態度不良などが多く指摘され,評価,治療中に事故を含むトラブルも増加している.学生の傾向としてはストレスに弱い,コミュニケーション能力低下,自主性や積極性のなさなど多くの問題が指摘され,学校教育では学生の生活指導も含めた教育が必要となってきた.教員がこれらに対応するためには,教育学を学ぶことが重要であり,研鑽を続ける必要がある.
理学療法士・作業療法士教育の基準を定めているのが「指定規則」である.「指定規則」は1966年に制定され,その後10年おきに改正されてきた(下表).
1999年以降20年間は改正がない状況であったが,2020年に改正された.20年の間に,医療・福祉などには大きな変化が生じており,評価法,治療法,地域ケアシステムなどの新しい技術・知識などを教育内容に含める必要があることから改正が行われた.おもな改正点は,臨床実習数の増加(18単位から20単位),総単位数93単位から101単位に増加(3,120時間以上),科目および科目内に,画像評価,臨床薬理学,職場管理,職業倫理などが必須となった.また,カリキュラム以外にも,教員および臨床実習指導者の要件が見直された.今までは,教育法を全く勉強しなくても5年以上の経験があれば専任教員になれたが,今後は教育に関する講習会(360時間)などを受講しなければならない.臨床実習指導者は5年以上の経験を有し,2日の講習会を受けなければならないこととなった.また,実習の方法として診療参加型臨床実習が位置づけられた.
実習前の教育においては,共用試験の導入が示唆されている.共用試験は,臨床実習前に,知識・技術・態度に関する試験を実施し,臨床実習の可否を判定する試験である.医学部(社団法人で設立)および薬学部(NPO法人で設立)では以前より共用試験が行われている.理学療法,作業療法でも共用試験機構が立ち上げられている.共用試験にはCBT(コンピュータでの試験),OSCE(客観的臨床能力試験)があり,OSCEは多くの学校で導入されつつある.
以上のことから,リハビリテーションに特化した大学院教育も行われるようになった.国際医療福祉大学の例では対象は病院等の管理者,学校の教員であり,科目は教育者教育原理,教育評価,教育方法,リハビリテーション教育・管理,リハビリテーション管理学,組織論である.教育者・管理者として重要なマネジメントも学ぶ.
教育分野においても,改革が行われている.教員が授業力をつけること,授業設計の作成,教育評価,アクティブ・ラーニングなど,技術的なことが積極的に取り入れられている.
しかし,真の教育とは何かを見直す時期に来ているのではと考える.学生に教育(teaching)するのではなく,育てる,見守る,支持することの重要性をあらためて考えることが必要である.そのために,本書が絶好の機会を与えてくれるものと信じている.
本書は,2020年の指定規則改正に沿って教育学に着目し,理論をわかりやすく解説し実務に活かせるように構成した.理学療法士・作業療法士の新しい教育書ともいえる.
内容は,「自律性を伸ばす学習と教育」「学習者を動機づけ,自律性を高める」「教育の目標を決め,適切に管理する」「教育活動のつくり方」「効果的な教育の設計・実施・評価」「さらに学習・成長を促す手法」「臨床で役立つ人財教育」などである.
執筆者は,教育学の専門家に加えて,学校教育,臨床実習教育に携わっている理学療法士・作業療法士の教員である.本書は,教員,臨床実習指導者のみならず,臨床家や養成校学生にも大変有益である.新たな理学療法士・作業療法士教育の幕開けに貢献できれば幸いである.
最後に,本書の企画,編集をしていただいた医歯薬出版編集部に感謝する.
丸山仁司
はじめに
本書の構成と使い方
理論編
1章 リハビリテーション専門職の教育の特徴
(堀本ゆかり)
1 時代が変わる
2 「教育力」は武器になる
確認ワーク
2章 自律性を伸ばす教育と学習
(鶴田利郎)
1 人間の発達と学習
2 成人学習の特徴
3 なぜ成人教育が大切か
4 “教える”という仕事
確認ワーク
3章 学習者を動機づけ,自律性を高める
(寺田佳孝)
1 アメとムチ
2 内からの意欲を高める
3 学習意欲を高めるための工夫
4 自ら学ぶ力を育てる
確認ワーク
4章 教育の目標を決め,適切に管理する
(寺田佳孝)
1 教育目標を意識し,適切かつ明確に決める
2 教育目標を分類する
3 教育目標から学習活動を設計する
4 教育目標を運営する
確認ワーク
5章 教育活動のつくり方
(寺田佳孝・鶴田利郎・小野田 公)
1 「導入・展開・まとめ」という教育活動の基本
2 発問を使いこなそう
3 協同学習
4 ICTを利用した教材・道具
確認ワーク
応用編
6章 効果的な教育の設計・実施・評価
(堀本ゆかり・鶴田利郎)
1 臨床での教育者の役割を理解する
2 臨床教育を設計する
3 教育・指導を評価する
確認ワーク
7章 さらに学習・成長を促す手法
(堀本ゆかり・小野田 公・藤本 幹)
1 自立を促すティーチング・コーチング
2 ストレスマネジメント
3 自己理解・他者理解
4 成長を妨げるハラスメント
5 学びにくさへの支援
確認ワーク
8章 臨床で役立つ人財教育
(堀本ゆかり)
1 キャリア教育
2 教育研修
3 教育研究
確認ワーク
資料 リハビリテーション教育をとりまく背景(森田正治)
索引
本書の構成と使い方
理論編
1章 リハビリテーション専門職の教育の特徴
(堀本ゆかり)
1 時代が変わる
2 「教育力」は武器になる
確認ワーク
2章 自律性を伸ばす教育と学習
(鶴田利郎)
1 人間の発達と学習
2 成人学習の特徴
3 なぜ成人教育が大切か
4 “教える”という仕事
確認ワーク
3章 学習者を動機づけ,自律性を高める
(寺田佳孝)
1 アメとムチ
2 内からの意欲を高める
3 学習意欲を高めるための工夫
4 自ら学ぶ力を育てる
確認ワーク
4章 教育の目標を決め,適切に管理する
(寺田佳孝)
1 教育目標を意識し,適切かつ明確に決める
2 教育目標を分類する
3 教育目標から学習活動を設計する
4 教育目標を運営する
確認ワーク
5章 教育活動のつくり方
(寺田佳孝・鶴田利郎・小野田 公)
1 「導入・展開・まとめ」という教育活動の基本
2 発問を使いこなそう
3 協同学習
4 ICTを利用した教材・道具
確認ワーク
応用編
6章 効果的な教育の設計・実施・評価
(堀本ゆかり・鶴田利郎)
1 臨床での教育者の役割を理解する
2 臨床教育を設計する
3 教育・指導を評価する
確認ワーク
7章 さらに学習・成長を促す手法
(堀本ゆかり・小野田 公・藤本 幹)
1 自立を促すティーチング・コーチング
2 ストレスマネジメント
3 自己理解・他者理解
4 成長を妨げるハラスメント
5 学びにくさへの支援
確認ワーク
8章 臨床で役立つ人財教育
(堀本ゆかり)
1 キャリア教育
2 教育研修
3 教育研究
確認ワーク
資料 リハビリテーション教育をとりまく背景(森田正治)
索引














