やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序文
 本書は,一般社団法人日本作業療法士協会(本協会)が掲げた「人は作業をすることで元気になれる」のスローガンに対して取り組んできた実践の成果である.本書のルーツをたどれば,本協会が2008年から2013年まで取り組んだ研究事業(厚生労働省老人保健健康増進等事業)の試行錯誤の経過の中で得た結果から本協会の監修により,医歯薬出版より「“作業”の捉え方と評価・支援技術」(2011年9月)が発刊したことから始まる.そして,本協会に生活行為向上マネジメントプロジェクトが組織化され,本協会の学術部や教育部などと連携した研究・研修などの多くの事業が取り組まれ,その成果の賜物として2015年には初版である「事例で学ぶ生活行為向上マネジメント」が完成した.その後,本書は多くの作業療法士や学生,他の医療専門職にご愛読していただいた.
 現在でも,本協会では生活行為向上マネジメントの実践事例の蓄積や作業療法士への教育等を通じて,生活行為向上マネジメントの普及と啓発の活動を続けている.今回,初版の内容を読者のためにさらに分かりやすく解説する必要性,それに伴う目次立ての変更や紹介事例の変更が必要と考え,「事例で学ぶ生活行為向上マネジメント 第2版」を発行することとなった.
 本書の構成は,作業と生活行為,生活行為向上マネジメント開発の背景,生活行為向上マネジメントと作業療法,生活行為向上マネジメントの使い方,生活行為向上マネジメントによる連携,事例編(17事例),生活行為向上マネジメントを活用した臨床実習,資料の8項目で構成されている.
 初版との違いは,まず作業と生活行為について解説を行い,生活行為向上マネジメントの背景と現状を紹介することで,作業療法における生活行為向上マネジメントの位置づけが明確になっている点である.また,作業療法士がどのように生活行為向上マネジメントを用いるかを具体な実践事例を通じて紹介をしている点である.事例では,病期(急性期・回復期・生活期),社会保障制度(医療保険や介護保険など),障害分野(身体障害・精神障害・発達障害・老年期障害)など多岐にわたる生活行為向上マネジメントによる実践を紹介している.
 日本作業療法士協会の定義では,「人は作業を通して健康や幸福になる」という基本理念を示し,また作業療法は,「医療,保健,福祉,教育,職業などの領域で行われる,作業に焦点を当てた治療,指導,援助である.」と謳っている.本書がその役割を果たせることを願っている.そして,多くの方々が本書を熟読し,生活行為向上マネジメントを実践していただき「人は作業をすることで元気になれる」という事実を国民に認識してもらう一つのきっかけになることを願うとともに,本書が「人々の幸福と健康の促進」に寄与できることを期待している.
 2020年11月
 編集協力者代表


序文
 本書の前身となる『作業の捉え方と評価・支援技術』は2011年9月に発刊され,すでに4年半の時が過ぎようとしている.この間好評を得て増刷を重ねてきたが,一般社団法人日本作業療法士協会が2008年から2013年まで取り組んできた研究事業(厚生労働省老人保健健康増進等事業)の試行錯誤の経過のなかで発刊された経緯があった.その後,一つのツールとして完成した「生活行為向上マネジメント」を,作業療法士が活用するだけではなく,多くの他職種やご家族など,対象者本人を取り巻くすべての方々とともに取り組めるものとして,誰にでもわかりやすく伝える機会が必要となってきた.その理由は“マネジメント”と表現されているように,生活行為に課題をもつ方々への支援は,誰かが単独で取り組むものではなく,本人の意思を前提としたうえで,多くの方の連携を必要とし,本人も含めた主体的な取り組みにより初めて「本人が望む作業」が実現できるものだからである.その際,最もわかりやすく伝えるためには,実際に支援をした事実を丁寧に表現することが重要であると考え,本書の表題である『事例で学ぶ生活行為向上マネジメント』として発刊するに至ったのである.
 本書の構成は,「生活行為向上マネジメント」の概略,ツールの活用の仕方やコツ,そして作業と生活行為についてわかりやすく紹介し,18の事例を取り上げている.急性期から回復期医療での実践,退院後の地域生活を支えるさまざまな居宅事業や老健や特養などの施設での対応,また,事例は少ないながらも精神科領域での取り組みなど,確実に生活行為向上マネジメントの活用の裾野が拡がっていることを理解することができる.私たちの生活は,その人にとって「意味のある作業」の連続から成り立っている.その人にとって「意味のある作業」を続け,その作業の結果から満足感や充実感をえることで,私たちは健康であることを実感できるという事実が,多くの事例から伝わってくる.
 本協会では「人は作業をすることで元気になれる」というシンプルなスローガンを掲げて取り組んできたが,今後は,生活行為に課題のあるすべての対象者の支援へと拡大し,年齢や性別の違い,行為障害の有無や程度,疾病の種別にかかわらず支援できるマネジメントツールであることを実践から学び,さらに成長させていく必要がある.
 「生活行為向上マネジメント」って何?と問われた際には,本書をお勧めいただければと思う.生活行為向上マネジメントについて誰にでも理解できるテキストとなっている.
 連携を前提としている「生活行為向上マネジメント」であるからこそ,多くの方々に本書を紐解いてもらい「人は作業することで元気になれる」という事実を国民に認識してもらい一つのきっかけとなることを願うとともに,本書がよりよい「本人の望む作業」を支援するために,広く活用されることを期待している.
 2015年6月
 編集協力者を代表して
 一般社団法人日本作業療法士協会常務理事 土井勝幸
 (生活行為向上マネジメント推進プロジェクト担当理事)


第2版の発刊に寄せて
 「事例で学ぶ生活行為向上マネジメント 第2版」を出版できることを心から喜んでいる.本書籍により,生活行為向上マネジメント(MTDLP)による作業療法の実践がさらに普及し国民の健康と幸福に寄与できたら幸いである.発刊にあたり,改めてMTDLP開発の社会的な背景,特徴,本書の活用と今後の方向性について述べる.
 まず,社会的な背景であるが,2001年に世界保健機関(WHO)による国際生活機能分類(International Classification of Functioning,Disability and Health:ICF)が採択され,ICFによる情報交換,健康関連領域での活用と研究が推奨された.ICFは,その対象者を健康状態,心身機能・構造,活動と参加,それに関する障害,背景因子(環境および個人)の側面から相互補完的にとらえる分類と枠組みであり,応用的動作能力と社会的適応能力の向上を図る作業療法との親和性は高いものである.一方,国内においては,インクルーシブ社会の実現を目標とする地域包括ケアシステムが提唱され,その考えに基づく制度設計がなされている.これらを背景として,医療や介護においても,尊厳,人権を基盤においた支援が求められており,とりわけ「活動と参加」の具体的な支援方法の開発が求められた.MTDLP開発の過程においては,さまざまな考え方を踏まえて作成されているが,大きくはこの2つを基軸に作成されている.
 次に,MTDLPの特徴であるが,ICFの枠組みを取り入れた各種書式で構成され,生活機能のなかでも,「活動と参加」への支援を具体的に実践するためのツールである.これにより,利用者主体での個別的な活動と参加への支援が可能となる.また,MTDLPでは,阻害因子の分析,目標設定,支援計画などの工程を利用者と共有する過程が内包されており,これにより利用者のセルフマネジメント能力が向上し自律的な生活の実効性を高めることができる.また,経験の少ない支援者でも,本ツールを使用することで,活動と参加への支援が可能となる.
 本書は,上記の特徴をもつMTDLPによる作業療法の5年間の取り組みの成果が結実したものであり,「作業と生活行為」「生活行為向上マネジメント開発の背景」「生活行為向上マネジメントと作業療法」「生活行為向上マネジメントの使い方」「生活行為向上マネジメントによる連携」「事例編」「生活行為向上マネジメントを活用した臨床実習─教員と臨床実習指導者に向けて─」「資料」から構成されている.事例編では17事例が紹介されており,小児から高齢者まで,また,対象疾患,支援場所も病院,在宅などさまざまな事例である.いずれも,個別事例であるが,活動と参加への具体的な支援を行うときには必ずや多くのことが参考になると確信している.
 MTDLPを協会で普及を始めて8年,地域包括ケアシステムに資する活動と参加への具体的な支援はMTDLPによる作業療法により具体化されつつある.今後は,発達障害,教育,保健,就労等の分野においても活用し,広く,国民にMTDLPによる作業療法を届けていきたい.最後に執筆にあたられた作業療法士の方々,MTDLP研修に携わっていただいている都道府県士会のMTDLP推進委員,真摯に取り組んでいただいている作業療法士の皆様,第2版の機会をいただいた医歯薬出版の編集者,その他関係者の方々に感謝を申し上げる.
 一般社団法人日本作業療法士協会会長
 中村春基
 序文
 第2版の発刊に寄せて
0 作業と生活行為
 1―保健医療福祉の変化
 2―作業療法の変化
 3―作業
 4―作業的公正を実現する社会
1.生活行為向上マネジメント開発の背景
 1―介護保険と自立への取り組み
 2―老人保健健康増進等事業への取り組み
 3―生活行為向上マネジメントの開発の経緯
 4―生活行為向上マネジメントを通して期待されたこと
2.生活行為向上マネジメントと作業療法
 1―理学療法士及び作業療法士法と日本作業療法士協会
 2―生活行為向上マネジメントの理論的位置づけ
 3―生活行為と生活行為の障害
 4―生活行為向上マネジメント実践の軸となる考え方
3.生活行為向上マネジメントの使い方
 1―生活行為向上マネジメントのプロセス
 2―「生活行為聞き取りシート」の使い方
 3―「興味・関心チェックシート」の使い方
 4―「生活行為向上マネジメントシート」の使い方
 5―2つの生活行為申し送り表の使い方―「生活行為申し送り表」と「医療への生活行為申し送り表」
 6―演習事例
4.生活行為向上マネジメントによる連携
 1―生活行為向上マネジメント活用のための制度理解
 2―地域包括ケアシステムへの活用
5.事例編
 Case 1 医療・回復期
  家事動作という役割の再獲得につながったAさん
 Case 2 医療・回復期
  長年の闘病生活であきらめていた趣味活動,調理の再開を果たし,生活を再構築できたBさん
 Case 3 医療・回復期
  妹,友人,多職種の協力で教会でのお祈りと自宅復帰ができたCさん
 Case 4 医療・回復期
  フラダンスへの参加が継続的な生活変化につながったDさん─多職種・家族・仲間によるチーム支援
 Case 5 医療・回復期
  娘たちと同居することが契機となり,セルフケアや家事動作の自立につながったEさん
 Case 6 医療・回復期
  家族の不安を解消し,在宅復帰および趣味活動が可能となったFさん
 Case 7 医療・急性期
  職場復帰に向け急性期から書字機能獲得に取り組んだGさん
 Case 8 医療・生活期
  「復職したい」の思いに向けて支援したHさん─右片麻痺・軽度高次脳機能障害者に対する外来作業療法での取り組み
 Case 9 介護・通所リハ
  「サロンへの参加」を目標として地域復帰が可能となったIさん
 Case 10 介護・通所リハ
  「妻の買い物を手伝う」という役割の再開を通して,生活空間の拡大に至ったJさん
 Case 11 介護・訪問リハ
  MTDLPによって思い出の地の散策を実現し,訪問リハ卒業に至った長期利用者のKさん
 Case 12 医療・医療観察法病棟
  医療観察法病棟を退院し,やりがいのある土木建設の仕事に就いたLさん
 Case 13 小児・発達障害
  幼稚園の運動会での跳び箱運動に向けた精神運動発達遅滞の年長児Mくんへの介入
 Case 14 介護・介護老人福祉施設
  趣味活動であった外出,読書,カラオケを通じて生活意欲に変化がみられたNさん
 Case 15 医療・生活期
  外出を目標としてライフワークのボランティア活動を継続できたOさん
 Case 16 障害福祉・通所リハ
  ギャンブル以外の趣味をみつけ,独居生活継続が可能となったPさん
 Case 17 介護・訪問リハ
  できるだけ介護保険サービスに頼らず夫婦で支えあいの生活を目指したQさん
6 生活行為向上マネジメントを活用した臨床実習―教員と臨床実習指導者に向けて―
 1―生活行為向上マネジメントがなぜ臨床実習に活用できるのか
 2―作業療法参加型臨床実習について
 3―作業療法参加型臨床実習での実習指導の行い方
 4―学内教育でのポイント
 5―生活行為向上マネジメントを臨床実習でどう活用するか
 6―臨床実習指導の実際
7.資料
 資料1 生活行為聞き取りシート
 資料2 興味・関心チェックシート
 資料3 生活行為アセスメント演習シート
 資料4 生活行為向上プラン演習シート
 資料5 生活行為向上マネジメントシート
 資料6 生活行為課題分析シート
 資料7 生活行為申し送り表
 資料8 医療への生活行為申し送り表

 関係者一覧
 索引