やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2 版の序
 2012 年に本書の初版が出版されてから6 年の月日が経ちました.その間読者の皆様の支持を受けて第8 刷まで発行できたことは望外の喜びです.作業療法の養成校の教科書として,病院・リハビリテーションセンター,施設の作業療法士,他職種の皆様の毎日の臨床場面でのテキストとしてご愛用いただけた結果だと感謝申し上げます.
 この6 年間で,作業療法の原点である「作業」「人は作業を行うことで健康になれる」の理論と実践のキーワードは広く認知され使用されるようになりました.
 超高齢社会を迎え,介護保険制度が定着し地域リハビリテーションの必要性に対応するべく,作業療法を実践する場も病院から在宅・施設・地域へと急速に変わってきました.その結果,診療報酬と在院日数は減少しています.
 2014 年のWFOT横浜学会では,北欧・カナダ・欧州において生活支援のための作業活動が提唱され,作業活動が文化や企業に影響を与え,「作業遂行能力評価法と介入方法」が実践されていることが広く知られることとなりました.その結果,いっそう作業活動への回帰が加速しました.また,ICFの「活動」「参加」の用語と分類は医療保健福祉分野で周知されています.日本作業療法士協会が原案をつくり国の施策となってきた生活行為向上マネジメント(Management Tool for Daily Life Performance:MTDLP)については,「対象者と作業活動のマッチング」で生活支援の活動目標を対象者と支援者の共同作業で定め,その活動を行う介入方法が講習会を通じて普及してきています.
 これらの時代的背景と「作業科学」研究の広がりで,作業を実践する技術としての作業活動が重視されてきました.
 第2 版では,初版をもとに必要に応じて修正する方式で,本の統一性を保つため次のように内容を刷新・整理しました.「第1 章 作業活動総論」では,授業で作業活動実習を行う重要性を追加執筆しました.また,最近の作業活動の方向やMTDLPの視点を追加しました.「第2 章 作業活動各論」では,全体の見直しに加えて近年新たに登場した道具や物品の紹介,作業分析,治療効果(身体的側面,精神的側面),段階づけ(対象者への助言・指導を含む)などの項目について可能なかぎり整理・修正をしました.執筆者の先生方には,作業活動の種目によっては必ずしもすべてを修正することが難しいにもかかわらず対応していただき,敬意を表します.
 本書第2 版は作業療法の変化を加味したうえで養成校における教科書,病院,そして今後重要になる地域リハビリテーションセンター・地域包括支援センターの作業療法士・他職種のテキストとしてご愛用いただけるものとして世に送り出します.
 編集や貴重なアドバイスをいただきました医歯薬出版の皆様にお礼申し上げます.
 2018 年10 月
 監修者 古川 宏


第1 版の序
 「人は作業を行うことで健康になれる」は作業療法の理論と実践のキーワードです.ヒポクラテスの時代から病気や外傷の回復のために作業,運動,レクリエーション,趣味活動を治療的な意味で行ってきました.先人は経験的にこの作業活動がもつ身体的・感情的な治療的効果と達成感を認めていたからこそ,何千年も作業活動を使った治療を行ってきたわけです.
 近代になってから作業活動のもつその治療的側面を医療のなかで専門に行う作業療法・作業療法士が誕生しました.作業療法の原点は,「作業」を使うことです.筆者の学生時代は「作業分析,作業の治療的応用」の重要性こそが作業療法の本質であるとの教育を受けました.臨床場面で作業を使った治療を実践してきた欧米の教員から繰り返し「作業療法,作業療法士の本質は作業である」との指導を受けました.当時教科書として使用した欧米の作業療法書も「作業の意味」「作業の治療的な使い方」「具体的な作業を使った実践活動」に満ちていました.
 しかし,時代の流れにともない,世界の作業療法が「作業療法の治療的理論」を追求するなかで「作業」の概念のあいまいさ,目に見える効果判定のあいまいさの解消のため,理学療法的な筋・骨の回復の生理学的効果に偏り,感覚統合理論,認知神経心理学的アプローチが主流をなし,作業を使わない作業療法へと向かう傾向になりました.最近では診療報酬と在院日数の減少などの外部要因でますます「作業を使わない作業療法」「理学療法的な作業療法」が増えています.
 一方では,高齢化,障害の多様化・重複化,認知症と地域リハビリテーションの必要性,介護保険制度の実施などにより,病人・障害者・高齢者が病院での作業療法から在宅・地域施設での作業療法へとシステム移行するケースも多くなりました.その時代的背景と作業療法の本質である「作業科学」研究の広がりや,QOL,ICF,COPMなど生活支援のための作業活動の「作業遂行能力評価法と介入方法」が作業療法で重要な命題となっています.しかし,長期間にわたる「作業軽視」の結果,作業を実践する技術としての作業技術学の各論の運動,手工芸,芸術,知的作業,ADL・IADL,文化・年中行事,グループ活動,趣味活動,その他を作業療法で治療的に実践した経験をもち,教えることのできる作業療法士が少なくなってしまいました.
 本書では,作業活動を重視して長い間実践・指導してきたベテランの作業療法士に,本人の得意種目であり他の作業療法士・学生・当事者に指導した経験のある作業技術について執筆いただきました.その作業の治療的意味,作業の対象者,文章と図を見ればすぐ現場で使用できる親切な作業手順,作業療法士としての工夫,補助具,注意事項,種目によっては症例報告も含めていただいています.どの執筆者も丁寧に作品を作り,写真に写しながら原稿を完成させてくださいました.執筆者の先生方に敬意を表します.
 本書は,養成校における「作業活動学」「作業技術学実習」の教科書として,また病院・施設の作業療法士・他職種の座右の書として,自信をもって推薦できる本になりました.最後に,出版のチャンスを与えてくださりご尽力いただいた医歯薬出版の皆様にお礼申し上げます.
 2012 年3 月
 監修者 古川 宏
1章 作業活動総論
 1 作業と作業療法(古川 宏)
 2 臨床場面での作業活動の支援(野田和恵)
 3 作業遂行過程における評価(藤原瑞穂)
 4 個人作業,集団作業の特徴と効果(四本かやの)
2章 作業活動各論―基本的作業活動種目
 1 革細工(谷合義旦)
 2 木 工(長尾 徹)
 3 銅板細工(長尾 徹)
 4 木版画(大喜多 潤)
 5 陶 芸(古川節子・藤本絢子)
 6 籐細工(古川節子・藤本絢子)
 7 紙細工(野田和恵)
 8 アンデルセン手芸(大瀧 誠)
 9 タイルモザイク(大西 満)
 10 七宝焼き(大西 満)
 11 絵 画(梶田博之)
 12 音 楽(山崎郁子)
 13 編み物・スプールウィービング(森川孝子)
 14 織 物(森川孝子)
 15 刺繍・刺し子(森川孝子)
 16 組みひも(内田智子)
 17 マクラメ(内田智子)
 18 パソコン(細谷 実)
 19 ゲーム(中前智通)
 20 園 芸(堀口雅雄)
 21 散歩・ハイキング(塚原正志)
 22 スポーツ(車いすバスケットボール)(大庭潤平)
 23 家事(調理)(加藤雅子)
 24 家事(育児)(加藤雅子)
 25 ブランコ・トランポリン(感じる遊び)(中島 綾)
 26 ごっこ遊び(演じる遊び)(中島 綾)
 27 年中行事(梶田博之)

 付:国家試験過去問題
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