やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序 何がみえるだろう―耳穴の魅力ー
 耳介は何にみえるだろうか.ヒトの耳介は機能がだいぶ退化し,集音のパーツとしかみなされていない.しかし,少し視点を変えると,耳介は胎児を逆さまにした形であり,人体の各器官が投影される小宇宙のようにみえてくる.
 フランスの医師Dr.Paul Nogierは,来院した患者の何人かから耳介のある部位を焼灼する伝承療法を試みて,腰痛や坐骨神経痛が治ったという話を聞く.このことがヒントになって,「耳介には胎児が逆さまに投影されている」と考えるに至り,42耳穴を定め,1957年に《Treatise of Auriculotherapy》を発表した.
 この西洋伝承医療を土壌に発芽した耳介反射刺激療法は,中国で花を咲かせた.中医学の古典書籍では,耳介は経脈を通じて五臓六腑と切っても切れないつながりがあると記載されている.それにより中国では,Dr.Paul Nogierの耳介理論に中医学の要素を加え,90耳穴を示し,耳穴案とした.
 1987年,第3回WHO/WPRO経穴標準化の国際会議では,その90耳穴から43耳穴に番号を付け,異議があった36耳穴は耳穴名は表記するが,番号付けに至らず,残りの11耳穴は採用されなかった.いわゆるWHO/WPROの国際標準耳穴(仮案)は,このように東西伝承医療の融合により生まれたものである.
 耳穴の臨床は実に百家争鳴,百花斉放を呈している.欧米医療機関では,耳穴は鎮痛,薬物依存症にも治療効果があると報告されている.中国では耳穴での鍼麻酔から様々な臨床治療にまで応用されている.しかしながら,耳穴臨床に関するEBMに基づいたRCT論文や基礎研究の報告は,期待するほど多くない.
 本書は,臨床耳穴に重心を置き,WHO/WPRO標準耳穴や耳介に関する体表解剖をイラストで示した.臨床編ではこれまでの耳穴臨床を反映し,その処方を漏れなく編集した.ただし耳穴の臨床診断に関する内容は,今後のさらなる臨床研究を期待しながら割愛した.
 最後に,医歯薬出版の竹内 大氏の心労に対して,謝意を表したい.

 2014年 啓蟄
 王 暁明
 豊洲にて
 序 何がみえるだろう−耳穴の魅力
 本書の使い方
第1章 耳穴の基礎
  1.耳穴の由来
  2.耳介への臓器配置
  3.耳介の名称
  4.耳介の区分
  5.外耳断面
  6.耳介の軟骨と筋肉
  7.耳介の動脈
  8.耳介の感覚神経支配
  9.耳介のリンパ節
第2章 耳穴の部位
  1.耳垂部
  2.対珠部
  3.耳珠部
  4.耳甲介腔部
  5.耳輪脚部
  6.耳甲介舟部
  7.三角窩部
  8.対輪部
  9.対輪上脚と対輪下脚部
  10.舟状窩部
  11.耳輪部
  12.耳背部
  13.耳穴全体図
  14.WHO/WPRO:耳介名称の略号
  15.WHO/WPRO:番号付の43耳穴
  16.WHO/WPRO:番号のない36耳穴
第3章 耳穴の臨床
 全身にみられる症候
  1.倦怠感
  2.冷え症(ほてり・のぼせ)
  3.高血圧と低血圧
  4.食欲不振
  5.肥満とやせ
  6.発疹とそう痒(かゆみ)
 精神・神経系の症候
  7.頭痛,顔面痛
  8.顔面麻痺
  9.不安状態,うつ傾向
  10.不眠
  11.不随意運動
  12.視床痛
  13.幻肢痛
 呼吸・循環系の症候
  14.かぜ症候群
  15.咳嗽,痰,喘息
  16.動悸,息切れ
  17.胸痛,いびき
 消化・泌尿・内分泌系の症候
  18.胸やけ,げっぷ
  19.悪心・嘔吐
  20.腹痛
  21.下痢,便秘
  22.排尿障害
  23.性欲減退
  24.糖尿病
  25.バセドウ病
 整形外科・スポーツ障害の症候
  26.頸椎症候
  27.肩関節・胸郭の症候
  28.肘関節の症候
  29.前腕の症候
  30.手関節の症候
  31.腰痛
  32.腰下肢痛
  33.大腿・膝関節・脛骨の症候
  34.下腿の症候
  35.足関節の症候
 産婦人科の症候
  36.月経異常,月経困難症,月経前緊張症
  37.帯下・外陰そう痒・外陰痛,乳汁漏出・乳房痛
  38.妊娠悪阻,妊娠中毒症,妊娠腰痛と坐骨神経痛
  39.更年期障害
 眼・耳鼻咽喉・歯の症候
  40.めまい,耳鳴,難聴
  41.眼の症候
  42.鼻閉と鼻汁,咽喉症候,歯痛
 健康増進
  43.乗り物酔い
  44.薬物依存症,ニコチン依存症,アルコール依存症
 耳穴療法のまとめ
  45.鎮痛・鎮静,解熱,抗炎・抗過敏・止痒作用
  46.脳機能,自律神経,血圧調整作用
  47.内分泌,呼吸・循環機能調整作用
  48.泌尿・生殖・女性生理機能調整作用
  49.耳鍼麻酔
第4章 耳穴のテクニックと禁忌症
 耳穴の診察法
  1.視診
  2.触診
  3.耳穴の電気抵抗測定法
  4.耳穴の選択法
 耳穴の治療法
  5.ハリの刺入法
  6.電気パルスの刺激法
  7.刺絡法
  8.置鍼法
  9.貼付け法
  10.レーザー照射法
 禁忌と過誤
  11.耳穴臨床の禁忌症・不良反応・過誤

 付.東洋医学の証
  1.六淫証 2.気血津液証 3.臓腑の証 4.痺証 5.主要参考図書

 索引