やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 臨床現場の看護師を中心とする約30名から組織されている看護診断研究会(Nursing Diagnosis Conference,以下NDC.代表:黒田裕子)は,看護診断に関する事例検討会や研究,そして看護診断セミナーなどの活動を,1993年から18年にわたって継続し実施している.本書はNDCで実践してきた事例検討の積み重ねによって生みだされた成果である.
 この18年の間には,数えてみれば60事例を超える事例検討を継続して行ってきた.事例を検討しながら看護診断の定義や診断指標,関連因子,危険因子の理解が少しずつなされてきたように思う.また,年1回開催しているNDC公開セミナーにおいては,事例を使った看護診断に関するグループ討議において,NDCのメンバーがファシリテータを担当し,参加者主体の事例検討を進めてきた.
 さて,本書の執筆者のほとんどは現場の看護師である.現場で看護師として体験した困難な事例,失敗した事例,成功した事例などからヒントを得ながら,本書執筆にあたっては倫理的な配慮をし(本書収載の事例はすべて架空化している),アセスメントをはじめ,看護診断,NOC,NIC,そして中範囲理論の解説に務めた.
 本書の第1章ではNANDA-I看護診断とともにNOCおよびNICの基本的な解説をしている.看護診断を一から学びたい人,また学びなおしたい人に役立つことだろう.第2章においては6つの事例のNANDA-I看護診断を選定するまでのアセスメントのプロセスを丁寧にたどる.アセスメントにあたっては特定の中範囲理論を用いている.具体例からの中範囲理論の理解にもつながるだろう.第3章は,NANDA-I看護診断,NOC,NICを内蔵した看護支援システムの構築と監査について解説している.現在,現場でNANDA-I看護診断,NOC,NICを導入している方々はもちろんのこと,今後導入したいと考えている方々にも,ぜひ活用していただきたい内容である.
 一方,看護教育でNANDA-I看護診断,NOCおよびNICを教えている方々にも,本書の解説は有効に使っていただけるものと思っている.
 最後に執筆者を代表して,本書の刊行をしていただいた医歯薬出版株式会社に,また社外から本書の編集をたいへん丁寧に粘り強く携わっていただいた新居功三氏に心より感謝したい.
 2011年7月
 黒田裕子
第1章 看護診断の基本
 1.看護診断とは何か(黒田裕子)
  看護診断の起こり
   それはゴードン博士の呼びかけからはじまった
   アメリカでの看護診断の発展
   看護診断の分類構造
  なぜ,看護診断を使う必要があるのか
   看護診断との出会い―筆者の場合
   共通言語としての看護診断
  NANDA-I 看護診断の理解のために
   採択されている看護診断
   身体的な側面の看護診断
   心理・社会・行動・統合的な側面の看護診断
   看護診断をどう理解するか
  NANDA-I 看護診断は積み木でわかる
   積み上げられた結果が看護診断となる
   診断指標で患者の行動を見る
   関連因子を捉える
   看護診断の種類
  NANDA-I 看護診断の開発
   看護診断の根拠レベル
   開発の方向性を示す看護診断の多軸構造
  NANDA-I 看護診断を使った看護過程の展開
   情報収集とアセスメント
   全体像の描写
   看護計画の立案,そして実施,評価へ
 2.看護成果と看護介入(黒田裕子)
  看護成果と看護介入の用語とは
  NOCに分類されている患者成果とは
   患者成果とは何か
   NOCの分類構造
  NICに分類されている看護介入とは
   看護介入とは何か
   NICの分類構造
   NICを臨床で使うための注意点
  看護過程の展開:実施と評価を含めた全貌
  コラム:心理学的ストレス:認知的評価と対処
第2章 看護診断をアセスメント
 1.外傷性脊髄損傷の患者の看護診断―急性期の事例(石橋ひろ子 石原喜代美 榊 由里 岡村奈緒美 佐藤照江 大沼扶久子 山口真有美 海津真里子)
  〈領域9:コーピング/ストレス耐性〉のアセスメント
   「レジリエンスの過程」「危機理論」の適用
  全体像描写のための関連図の作成
  全体像の描写
  健康問題に対する反応をNANDA-I 看護診断で表現する
  看護成果(NOC)と看護介入(NIC)
 2.特発性間質性肺炎の患者の看護診断―慢性期の事例(照沼 理 塩屋浩一 原靜子 大久保理恵 佐藤奈穂)
  〈領域9:コーピング/ストレス耐性〉のアセスメント
   「心理学的ストレス・コーピング理論」の適用
  全体像描写のための関連図の作成
  全体像の描写
  健康問題に対する反応をNANDA-I 看護診断で表現する
  看護成果(NOC)と看護介入(NIC)
 3.高齢の乳がん患者の看護診断―終末期(緩和ケア)の事例(依田安代 宮城智賀子 益田亜佐子 中野由美子)
  〈領域10:生活原理〉のアセスメント
  〈領域9:コーピング/ストレス耐性〉のアセスメント
   フロイトの「自我の防御機制」の適用
  全体像描写のための関連図の作成
  全体像の描写
  健康問題に対する反応をNANDA-I 看護診断で表現する
  看護成果(NOC)と看護介入(NIC)
 4.統合失調症の患者の看護診断―精神神経科の事例(横山秀司 前川恭子 五藤陽子)
  〈領域5:知覚/認知〉のアセスメント
  〈領域13:成長/発達〉のアセスメント
   エリクソンの「発達理論」の適用
  〈領域6:自己知覚〉のアセスメント
  全体像描写のための関連図の作成
  全体像の描写
  健康問題に対する反応をNANDA-I 看護診断で表現する
  看護成果(NOC)と看護介入(NIC)
 5.ハイリスク妊婦の看護診断―母性領域の事例(上澤悦子)
  妊婦E氏の経過
  〈領域9:コーピング/ストレス耐性〉のアセスメント
   アギュララの「危機理論」の適用
  〈領域8:セクシュアリティ〉のアセスメント
  〈領域7:役割関係〉のアセスメント
   ロイの「適応看護モデル」の適用
  〈領域10:生活原理〉のアセスメント
   「ローカス・オブ・コントロール理論」の適用
  全体像描写のための関連図の作成
  全体像の描写
  健康問題に対する反応をNANDA-I 看護診断で表現する
  看護成果(NOC)と看護介入(NIC)
 6.急性糸球体腎炎の患児の看護診断―小児領域の事例(齊藤珠美 原靜子 柳谷博幸 中藤三千代)
  〈領域13:成長/発達〉のアセスメント
   エリクソンの「発達理論」の適用
  〈領域9:コーピング/ストレス耐性〉のアセスメント
  〈領域7:役割関係〉のアセスメント
  全体像描写のための関連図の作成
  全体像の描写
  健康問題に対する反応をNANDA-I 看護診断で表現する
  看護成果(NOC)と看護介入(NIC)
第3章 NANDA-I 看護診断・NOC・NICを用いた看護支援システムの構築と監査
 1.看護支援システムの構築(中藤三千代)
  システムの構築に向けて
  ベンダ企業との関係とNNN使用時の手続き
  NNNシステム化の実際
   入院時初期情報の入力
   全体像の描写
   NNNの選択
  システム構築後の円滑な運用のために
   新入職員への教育
   指導者の配置と支援
 2.看護記録の監査法(中野由美子)
  NNNと監査
  監査とは
   医療監査
   保健診療における監査
   施設内部で行う自主監査
   監査の対象となる記録
  看護記録の監査とは
   看護記録監査の目的
   看護記録監査における倫理的配慮
  NNN監査とは
   形式的監査と質的監査
   自主監査と他者監査
   NNN監査の目的
  NNN監査の実際
   監査チェックリストの作成
   監査の場
   監査の指導者育成
   監査の継続と効果
   NNN監査の課題

 ●看護診断を提案する方法(古川秀敏 下舞紀美代)
 索引