やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序
 看護学生の臨床実習を指導しているなかで,学生のためのテキストを作りたいと思ったことに端を発して,検討を重ね発刊までに数年を要しました.その間に,カリキュラムの改正による実習時間の短縮もあり,これを補足するための,学生が学びやすく看護実践に生かせることを念頭においたテキストとして初版を刊行して,早いもので10年余が経過いたしました.
 発刊当初,本書は,イラストも多く理解しやすいこと,とくに産科と小児科の狭間にある新生児についての記述が豊富であり,今までにないテキストとして新鮮なイメージで受け入れられ,看護学生をはじめ,臨床の指導者,助産師,看護師の多くの方々にご活用いただきました.
 今回第2版を発行するにあたり,いくつかの点をふまえました.まず,初版からの全体構成や「考え方」と「ねらい」は引きつぎつつ,項目を一部整理して,看護実践に役立つよう最新の情報も踏まえてより内容を具体的になるよう修正いたしました.次に,自己学習の助となるよう,アセスメントの一覧表や小見出しでポイントをおさえることができ,また,読み進めるさいにキーワードで理解を深められるように改めました.さらに,褥婦・新生児の特性,母児および家族のサポートシステムやネットワークを理解し,現代の母児を取り巻く社会の変化に応じたナーシングプロセスを展開し,看護実践に役立てられるようにまとめました.加えて,褥婦および家族が活用できる母子保健サービス,社会資源について法律も掲載いたしました.
 近年,医学や看護学の進歩がめざましく生殖医療に関連する技術進歩にともない,生命倫理や看護者の倫理観を問われる場面も増えてきております.本書を活用なされる皆様が,女性ひいては母性の健康について考え,生命の尊厳や自己の母性観,父性観を深めより良い看護を行なうための一助になれば幸いです.多くの皆様のご利用を願うとともに,皆様からの忌憚のないご批判,ご指導をいただきたくお願い申し上げます.
 今般出版にあたり,ご執筆をこころよくお引き受けくださいました諸先生方,改訂にあたり医歯薬出版編集部の心強いご支援があってのことと深謝いたします.
 2006年12月
 編者

序文
 女性をめぐる環境の変化はめざましいものがあります.とくに近年,女性の社会進出に伴い高まる初婚年齢,少産化など新たな問題が出てきています.また,医学,看護学の進歩も著しいものがあります.このような中で,母性看護の果たす役割は大きく,かつ重要であるといえましょう.
 看護学,助産学を学ぶ学生は,今まで以上に多くの知識が要求されるようになるでしょう.学生にとって情報量も多く,かつ学ばなければならないこともたくさんあり,大変なことでもありましょう.限られた時間に必要な知識を身につけることは,多くの困難を伴うものです.そのような中で,本書は学生が学びやすく,しかも実際に役立つことを念頭に編集いたしました.
 本書の特徴は「1.妊娠・分娩」編と同じく,褥婦・新生児の看護に必要な情報をもとに,看護の視点からいかに総合的に判断していくか,その実際にポイントを置いて書いております.とくに,褥婦・新生児のアセスメントは,表としてまとめ,アセスメント項目,判断基準/視点,解釈・分析・統合,介入が理解できるよう工夫しました.また,よりよい経過や適応を目指して援助できるよう,アセスメントの結果として,看護の対象の学習ニーズや予測される問題をあげていることも本書の特徴です.
 産褥期の看護は,妊娠・分娩期の学習より経過がより理解でき,かつ新生児との関わりもあり,楽しい実習でもあるかと思います.じっくり経日的に褥婦および新生児を観察し,良い看護をして欲しいと思います.そのために本書は具体的に,しかも実践に役立つよう書かれています.
 看護のqualityが問われる時代になりつつあります.妊娠,分娩,産褥婦および新生児の看護が,単に身体的な側面ばかりではなく,心理的な側面および家族,地域をも含めた広い視野に立った援助であって欲しいと考えております.「妊娠・分娩」編と同じく,執筆の大部分は看護婦・助産婦があたり,学生に理解でき,かつ必要な内容を網羅していると思っております.
 本書は,看護学生のテキストのみならず,臨床の場で働く看護婦,助産婦および指導にあたる方々の参考書としてもご活用願えると思います.
 多くの方々のご利用を願うとともに,読者諸姉から忌憚のないご批判,ご指導をいただきたいと念願しております.
 1995年1月
 編者
I.産褥期の看護
I-1 産褥経過の判断に必要な情報
 1.情報を得るために必要な知識(加藤)
  1 産褥期と褥婦
    産褥期とは 褥婦とは 産褥復古とは
  2 全身の変化
    体温 脈拍 血圧 呼吸 血液 排泄 体重 皮膚
  3 性機能の復古
   1)ホルモン動態
    蛋白ホルモン
     hCG hPL FSH プロラクチン ステロイドホルモン エストロゲン プロゲステロン 6 副腎皮質ホルモン
   2)月経周期と排卵の復古
    月経周期の復古 排卵の復古
  4 生殖器の復古
    卵巣
    卵管
    子宮
     子宮底の長さ(高さ) 子宮の重量 子宮内膜 子宮頚部 子宮緊張度
    悪露
  5 産褥感染と細菌
    産褥性器はなぜ感染が起きやすいか 大腸菌 ブドウ球菌 レンサ球菌
  6 乳房の構造と泌乳のメカニズム
    乳房の構造
    母乳分泌のメカニズム
    乳汁の成分
     初乳 成乳
    母乳哺育の意義
    母乳栄養の利点
  7 褥婦の心理的変化
    褥婦の心理 母性意識の形成・発展と母親役割取得過程 母性への心理的適応
 2.情報と情報収集のための技術(加藤)
    妊娠中の情報の活用
  1 健康診査による情報
    観察と聴取 子宮復古の観察手順
  2 情報を得るために必要な技術
   1)子宮底測定
    目的 方法
   2)褥婦とのコミュニケーションの技術
    メッセージの交換とゴールの共有 「働きかけ」による問題の解決 「働きかけ」の原則
I-2 産褥経過を判断するポイント
  1 産褥経過の判断(加藤)
   1)産褥期の生理的変化
   2)産褥期の健康生活
  2 褥婦のアセスメント(加藤)
    褥婦の健康状態のアセスメント
I-3 産褥期における褥婦および家族の意思決定への支援
 1.褥婦(和田)
   1)復古促進のためのセルフケアへの支援
    生理的な復古現象を促進 感染の予防 全身状態の回復を促進
   2)母親役割取得への支援
    母親役割の取得 育児行動の学習 哺育の確立に向けて
 2.家族(和田)
   1)父親役割取得への支援
    父親役割の取得 育児行動の学習
   2)家族形成への支援
    家族の役割の再統合 同胞役割の取得 祖父母役割の取得 事例―家族形成への支援
 3.ソーシャルサポート(和田)
   1)母児に適応される法的保護・諸制度
    母子保健手帳の交付
    出産・出生にかかわる届出
     出生届 出生証明書 低出生体重児の届出 死産届
    母子保健に関する行政サービス
     新生児・乳児に対する検査 健康診査 保健指導 訪問指導 産後ケア事業
    働く女性に対する法定保護
    経済的支援
     出産に関するもの 育児に関するもの 乳幼児の公費負担医療
   2)母子に関する社会資源
     保健施設 児童福祉施設 行政機関 子育て支援サービス 民間におけるサービス
I-4 産褥期の健康課題の支援と評価
 1.支援の方向性(村上)
 2.看護技術(村上)
  1 復古への支援
   1)子宮復古の促進
     子宮底の高さ 子宮の硬さ 悪露の性状
    子宮復古不全の注意点
   2)出産後の離床
    離床時の注意点
   3)産褥体操
    産褥体操プログラム 産褥体操を開始する際の注意点
  2 感染防止への支援
   1)清潔への支援
    シャワー浴 外陰部の清潔 乳房の清潔
   2)感染徴候の観察
     子宮内感染 創部感染 尿路感染
  3 産褥期の不快症状への支援
   1)痛み
    後陣痛 縫合部痛
   2)脱肛(痛)
   3)排尿障害(尿意の低下,残尿感)
   4)便秘
   5)下肢の浮腫
  4 母乳育児への支援
    授乳前の確認事項
   1)授乳時の支援
    授乳の方法 哺乳量測定 母乳不足の見分け方
   2)乳房ケア
  5 母子関係確立への支援
   1)母子相互作用
   2)母子同室
   3)母親役割獲得の促進
  6 育児技術修得への支援
   1)抱き方と寝かせ方
   2)環境調整
   3)衣服の着脱とおむつの当て方
   4)沐浴
  7 退院に向けての支援
   生活行動
    活動 栄養 清潔 家族計画 産褥健診 法的支援と社会資源
  8 新たな家族の構築に向けての支援
    父親役割獲得への支援 上子(兄や姉)への対応
 3.評価の視点(村上)
I-5 産褥期に予測される問題と支援
 1.不快症状(加藤)
  1)排尿障害
    原因 症状 母体に及ぼす影響 〈判断のポイント〉 援助 予防
  2)縫合部痛
    原因 症状 母体に及ぼす影響 〈判断のポイント〉 援助 予防
 2.正常からの逸脱(加藤)
  1)子宮復古不全
    原因 症状 母体に及ぼす影響 〈判断のポイント〉 援助
  2)産褥熱
    原因 病型分類 症状 母体に及ぼす影響 〈判断のポイント〉 援助
  3)産褥尿路感染症
   (1)膀胱炎
    原因 症状 母体に及ぼす影響 〈判断のポイント〉
   (2)腎盂腎炎
    原因 症状 母体に及ぼす影響 〈判断のポイント〉 援助
  4)乳腺炎
   (1)うっ滞性乳腺炎
    原因 症状
   (2)急性化膿性乳腺炎
    原因 症状 母体に及ぼす影響 〈判断のポイント〉 援助
  5)貧血
    原因 症状 母体に及ぼす影響 〈判断のポイント〉 援助
  6)マタニティ・ブルーズ
    原因 症状 母体に及ぼす影響 〈判断のポイント〉 援助
  7)静脈瘤
    原因 症状 母体に及ぼす影響 〈判断のポイント〉 援助
  8)痔核
    原因 症状 母体に及ぼす影響 〈判断のポイント〉 援助
 3.特別な支援を要する褥婦(加藤)
  1)帝王切開後の褥婦の援助
   帝王切開の頻度 帝王切開の適応と要約 帝王切開への偏見 援助
  2)双胎児の育児(多胎児出産後の援助)
   入院中の援助
  3)先天異常をもつ児の出産や子どもを亡くした母親への援助
   援助
  4)不妊治療後,挙児を得た褥婦への援助
   不妊治療後の妊産婦の心理 分娩・産褥期の問題点
II.新生児の看護
II-1 新生児の経過判断に必要な情報
 1.情報を得るために必要な知識(深川)
  1 新生児の定義・分類
   1)新生児とは
   2)新生児期の定義
    世界保健機関(WHO)の定義 国際産婦人科学会(FIGO)の定義
   3)新生児の分類
    在胎期間からみた新生児分類 出生体重からみた新生児分類 在胎週数と出生体重からみた新生児分類 成熟度からみた新生児分類
  2 新生児の胎外生活への適応過程
   1)呼吸確立
    自発呼吸 出生直後の呼吸器の変化 新生児の呼吸の特徴 アプガースコア
   2)新生児循環確立
    胎児循環 出生直後の循環器の機能的変化 出生児の循環器の組織的変化および適応生理 新生児循環
   3)体温維持
    胎児の体温 出生の体温変化 新生児の体温維持
   4)成熟度
    成熟度の評価 出生児の在胎週数の推察 行動評価・意識レベル 睡眠
   5)生活適応過程
  3 新生児の生理的特徴
   1)呼吸
    鼻呼吸,腹式呼吸 不規則な呼吸のリズム 呼吸数の正常値・評価
   2)循環
    心拍数 心拍数の正常値・評価 血圧 血液の状態
   3)体温
    生後4〜8時間で安定 新生児の熱喪失の機序 体温の正常値・評価
   4)体液バランスと排尿作用
    体液バランス 排尿
   5)消化,吸収
    吸啜・嚥下反射と消化管の働き 排便 栄養素の吸収
   6)ビリルビン代謝(生理的黄疸)
    ビリルビンの産生 ビリルビンの代謝と肝機能 新生児生理的黄疸の発現
   7)感染防御力
    母体,母乳から受ける免疫グロブリン 免疫産生能
   8)原始反射
    新生児にみられる自発運動
   9)感覚機能
    視覚 聴覚 嗅覚,触覚
  4 新生児の身体的特徴
   1)身長・体重
    身長と姿勢 体重
   2)皮膚
    皮膚の色と状態
   3)頭部
    頭蓋の大きさと状態
   4)頭面
    眼,鼻,口,耳の状態
   5)胸部
    胸郭・胸囲 魔乳
   6)腹部
    腹部の状態と臍帯
   7)外陰,殿部
    男児外陰の特徴 女児にみられる新生児月経 殿部の状態
   8)四肢
    四肢の特徴
 2.情報と情報収集のための技術(深川)
   リスク因子の観察評価
  1 全身状態の経過観察
   1)出生直後の観察
    観察のポイント1 観察のポイント2
   2)移行期の観察
    観察のポイント
   3)退院までの観察
    観察のポイント
  2 情報を得るために必要な技術
   1)バイタルサイン測定
    目的 方法 手順
   2)身体計測
    目的 方法 手順 〈正常値・評価〉
   3)検査の介助
    (1)尿検査
     目的 方法 〈正常値・評価〉
    (2)血清ビリルビン検査
     目的 方法 毛細血管採血法 末梢静脈血採血法 〈正常値・評価〉
    (3)血糖検査
     目的 方法
    (4)マス・スクリーニング(先天性代謝異常症)
     目的 方法 手順
II-2 新生児の経過を判断するポイント
  1 新生児の健康状態の判断(深川)
   1)呼吸確立
   2)循環
    心拍(脈拍) 血圧
   3)体温調節
   4)栄養(体重の判断)
    体重減少率の判断 体重復帰異常の判断 体重増加の判断 前日との体重差の判断(1日以内の体重変動)
   5)消化の判断
    哺乳時 消化機能
   6)老廃物(排便・排尿)の判断
  2 新生児のアセスメント(深川)
    移行期(生後24時間)の新生児のアセスメント 移行期以降の新生児のアセスメント
II-3 新生児期の健康への援助と評価
 1.援助の方向性(今津)
 2.援助技術(今津)
  1)抱き方と寝かせ方
   留意点 方法
  2)おむつ交換
   目的 留意点 方法
  3)授乳
   留意点 方法
  4)沐浴
   目的 留意点 禁忌 方法
  5)母親への沐浴指導
   目的 留意点 方法
  6)臍処置
   目的 留意点 方法
  7)眼処置
   目的 留意点 方法
 3.評価の視点(今津)
   胎外生活への適応ができたか
II-4 新生児に予測される問題と逸脱時の援助
 1.正常(生理的範囲内)からの逸脱の予防(今津)
  1)低体温の予防
   低体温とは
   新生児の体温の特徴
   援助
    低体温の予防・保温対策 保育器内での対応
  2)栄養
    新生児の栄養の重要性 新生児の栄養摂取の特徴と問題点
   (1)母乳栄養
    必要量の判断 排泄の判断
   (2)ビタミンK欠乏性出血症の予防
  3)感染症の予防
    新生児感染症の特徴 感染経路と感染防止策
 2.新生児の健康問題の判断と正常(生理的範囲内)からの逸脱時の援助(今津)
  1)新生児仮死
   新生児仮死とは 評価法 新生児への影響 援助 蘇生の準備 蘇生法 〈蘇生時の観察のポイント〉
  2)心雑音
   機能性心雑音と器質性心雑音 〈判断のポイント〉
  3)チアノーゼ
   中心性チアノーゼと末梢性チアノーゼ 〈判断のポイント〉
  4)黄疸
   日本人の新生児生理的黄疸
   治療開始基準
   黄疸の種類
    核黄疸(ビリルビン脳症) 早発黄疸 遷延性黄疸 閉塞性黄疸 〈判断のポイント〉 光線療法(phototherapy)施行時の看護 準備 方法 手順 留意点
  5)新生児低血糖症,高血糖症
   判断基準 低血糖の予防
  6)発熱
   〈判断のポイント〉
  7)嘔吐
   生理的嘔吐(経過をみるだけで自然に改善するもの) 病的な嘔吐(治療を必要とするもの) 〈判断のポイント〉
  8)腹部膨満
   〈判断のポイント〉
  9)貧血症,多血症
   貧血症の判断 多血症の判断
  10)感染症
   (1)B型肝炎ウイルス感染の予防
   (2)B型溶連菌(GBS)
   (3)梅毒
   (4)HTL(HTLV-1)成人T細胞白血病
   (5)クラミジア結膜炎
   (6)カンジダ症
  11)神経発達障害の判断
   意識障害 神経発達障害
  12)聴覚の検査
   新生児聴覚スクリーニング検査

 資料
 文献一覧
 索引