やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 わが国で病院感染が大きい問題となって10年以上が経過した.その間スタンダードがないまま,現場は混乱したが,真剣な取組みが熱心に行われた.そして,多くの素晴らしい感染管理の本も出版された.
 しかしながら,施設間の知識,技術そして感覚の格差は未だに激しいのが現状である.感染管理に携わる一人として,もう少しだけでも何とかできないかと微力ながらいつも考えている.欧米やわが国のシステム化されている施設と同じようには,わが国のすべての病院では実践できない.制限がありながらも施設に応じた対策が自信を持ってできれば,現場の悩みは少しでも解消できるかもしれない.
 今回,私達は市立芦屋病院で実際に行っている対策をまとめた.内容は理想的といえるようなものでは断じてない.しかし,今の私達の病院で,コンセンサスが得られて実践している内容である.マニュアルが完全に遵守されているとも思っていないが,内容の一部でもどこかの施設のお役に立てるのなら幸いです.ご意見,ご批判を頂ければ尚,感謝いたします.
 2001年5月 編者 三宅寿美

本書の特徴と利用方法

 1.本書は,感染の基礎知識から具体的な感染予防対策までを,当院で使用しているマニュアルの内容を取り入れながら解説したものです.
 2.各項目の解説は,簡明な記述を心がけるとともに,理解を助けるイラストを適宜配置しました.
 3.多くの施設からご質問をいただく点については,QandAの形でもくじの最後に参照頁を示し,内容の検索ができるようにしました.
 4.各項目の文中に出てくる消毒薬は当院で使用しているものを掲載しています.
 5.MRSAについては,その問題の大きさから詳細な記述を心がけました.
 6.カードとしての特徴から項目ごとのまとまりを重視したため,対策内容が複数項目で重なる部分があります.
 7.必要に応じてone point欄として囲み記事を掲載しました.
 8.本書はバインダーによるシステム手帳方式のため,自由に組み合わせて,また必要な部分を抜き出して活用するなど,多目的に利用することができるよう工夫されています.
I.感染の基礎知識
 感染とは (岩崎)
 滅菌と消毒 (松崎)
 サーベイランス (三宅)
II.基本的な感染対策
 手洗い (木戸)
 環境整備 (加治佐)
 消毒 (落)
 S.P.(スタンダードプリコーション) (阿部)
 隔離
  (1)感染隔離 (田村)
  (2)無菌室の管理 (田村)
III.主な病院感染対策
 MRSA (池田・三宅)
 呼吸器感染 (中島)
 尿路感染
  (1)膀胱留置カテーテル (野崎)
  (2)導尿法 (野崎)
 創傷感染,術後感染(SSI) (中島)
 血流感染(BSI) (中島)
 小児の感染 (中島)
 高齢者の感染 (中島)
 疥癬 (中島)
 腸管感染症(下痢,食中毒) (中島・三宅)
 セラチア (三宅)
IV.職業感染対策
 血中ウイルス感染 (野崎)
 誤刺傷感染 (野崎)
 HIV陽性患者感染 (野崎)
 結核感染 (秀)
 健康診断 (秀)
 予防接種 (秀・三宅)
V.中央材料室の感染対策 (松崎・三宅)
 中央材料室の感染対策
VI.分娩室,新生児室の感染管理 (田中)
 分娩室の感染管理
 新生児室の感染管理
VII.感染症新法 (原)
 感染症新法
VIII.感染対策委員会 (松崎・三宅)
 感染対策委員会
IX.災害時の感染管理 (吉本)
 災害時の感染管理
X.その他の感染対策
 外来での感染対策 (秀)
 救急外来での感染対策 (秀)
 内視鏡室の環境と消毒の実際 (落)

 *参考文献一覧

こんな疑問に出会ったら(50音順)
 ・一般病棟で結核患者が発生したときは
 ・隔離室などのスリッパは必要か
 ・加齢による感染リスクは
 ・環境と生体に使用する消毒薬の適応は
 ・感染経路別感染予防対策は
 ・感染症室の清掃は
 ・感染発生の要因は
 ・結核患者の早期発見が感染防止をするには
 ・下痢症状のある患者が入院したときは
 ・抗菌剤の適正使用はどうするか
 ・呼吸器具の管理はどうするか
 ・誤刺傷をしたときの対応は
 ・サーベイランスの意義は
 ・殺菌灯つきロッカーは有効か
 ・消毒薬の正しい使用方法は
 ・消毒薬噴霧は有効か
 ・職員の健康診断の必要性は
 ・スタンダードプリコーションとは
 ・接触感染隔離の換気はどうするか
 ・手洗いをしそこないやすい部位は
 ・手袋はいつ使用するか
 ・日常清掃の基本は
 ・尿路留置カテーテルの日常管理は
 ・粘着マットは必要か
 ・無菌室の清掃は
 ・滅菌と消毒の違いは
 ・リネンの処理は
 ・BSI(血流感染)の定義は
 ・MRSA隔離解除の判断は
 ・MRSA隔離の基準は
 ・MRSA患者退院後の清掃はどうするか
 ・MRSA患者の移動をどうするか
 ・MRSA患者の入浴はどうするか
 ・MRSA患者のリネンの扱いは
 ・MRSA患者を総室で看るときはどうするか
 ・MRSAの患者への説明はどうするか
 ・MRSA病室の環境整備は
 ・N95マスクの使用方法は
 ・SSI(術後感染)の定義は