やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修者序

 重症心身障害児の医療福祉が制度化されて30年余りが経過しました.その間,入所施設中心のサービスに,時代の変遷とともに新しい形態のメニューとして,重症児通園事業,在宅重症児支援事業が加わり,重症児者や家族の選択肢が増えることになりました.サービスメニューが点から線,線から面になろうとしていると言えましょう.
 重症児通園事業は,重症児の全ライフサイクルを視野に入れた,サービスの多様性が求められている今日,これに応えようとするものであり,重症児者や家族にとって待望していた新しいサービス形態です.このサービスそのものを充実させるために,療育現場の体験を言語化・体系化した「マニュアル」が必要であるとの意見が多く聞かれるようになりました.そこで,こうした関係者の熱望に応えるために,本書の刊行を企画しました.
 今回,重症児療育の理論面・実践面の権威である,岡田喜篤氏,末光 茂氏,平元 東氏,諸岡美知子氏の編集により,日夜,療育現場で臨床に携わっている多くの執筆者のご協力をいただき,「重症心身障害通園マニュアル」をまとめることができました.
 本書は,重症児通園事業従事者はもとより,広く障害児者問題に関心のある医療・保健・福祉・教育の第一線で活躍されている専門職の方々,研究者,学生のみなさん,そして障害児をもつご家族のみなさんにお読みいただければ幸いです.
 本書によって重症児通園事業が充実し,重症児通園事業を利用されている一人ひとりの方々の満足につながれば幸いです.
 また,本書とともに,重症児施設法制化30周年を記念して発刊されている「重症心身障害療育マニュアル」を併読されれば,重症児療育現場について一層深く理解することができるでしょう.ご一読をお勧めします.
 読者のみなさんのご精進をお祈りし,ご挨拶といたします.
 2000年9月 日本重症児福祉協会理事長 江草安彦
監修者序

第1編 基本的な理解のために―重症心身障害児の通園とは
 第1章 通園事業の生い立ち
  1.平成元年度の重症心身障害児通園事業の創設
  2.平成5年のB型(小規模型)へのモデル事業の拡大
  3.障害者プランと平成8年度からの一般事業化
  4.政策の総括的評価と今後の展望・課題
 第2章 通園事業のあれこれ
 さまざまな通園事業の形態とサービスの実践を見ることの意義
  1.国の制度による通園
   1)A型施設
   2)B型施設
  2.自治体単独の通園
   1)東京都の通園の例/あけぼの学園
   2)分園形式での通園/よつぎ療育園
   3)特別区立の通園/世田谷区立三宿つくしんぼホーム
   4)市町村立の通園/所沢市こあふる
  3.その他の通園形態
   1)A型施設との併設通園施設/「もみの木」
   2)B型施設との併設通園施設/「朋」
   3)通所更生施設として実施している重症者通所/「ゆう」
   4)小規模作業所から身体障害者通所授産施設へ/府中共同作業所
   5)デイサービスとして行っている通園形態/高崎市心身障害デイサービスセンター部
   6)国立療養所内のデイケアルーム/「あかしやの家」
  付 いま,養護学校では:養護学校に在籍する重症児について―生命の輝く教育を目指して
 第3章 通園施設
  1.重症児通園の役割と理念
   1)重症児療育の推移をみる
   2)重症児療育の理念とサービスの多様化
   3)重症児通園事業の役割
  2.対象となる人たち
   1)総合的視点にたった対象者の範囲とは
   2)在宅重症児の変化と通園への期待
   3)対象者の年齢構成・障害程度
  3.手続きと決定の仕組み
   1)国の重症心身障害児通園事業
   2)地方自治体の重症心身障害児通園事業
  4.通園施設として準備するもの
   1)設備面
   2)備品面
  5.医療の確保
   1)重症児の医療の特徴
   2)医療機関との連携のあり方
  6.保護者・家族との協力
   1)就学前幼児通園
   2)養護学校在学中
   3)養護学校卒業後
   4)地域とのかかわりのなかで
   5)施設入所
  7.通園利用者の在宅支援とショートステイ
   1)主な在宅支援の制度
   2)短期入所事業(ショートステイ)
   3)通園利用者の在宅支援の一例
  8.重症児通園と重症児施設との連携-滋賀県でのとりくみ
   1)ブランチ方式での医療をめぐる地域での連携
   2)重症児者医療の専門性と地域での連携
   3)重症児・者通園の役割と地域での生活支援の総合的な連携
   4)地域での新たな連携を模索した動き

第2編 実際におこなわれていること―提供されるサービス
 第1章 医療的対応
  1.通園施設からみた医療についての基本的な考え方
   1)どの程度の医療的対応が必要か
   2)通園施設における医療体制の考え方
   3)家族(保護者)の同意と情報交換
   4)通園施設に必要な医療機器
  2.日常の健康管理
   1)重症児・者における「健康」とは
   2)健康状態観察のポイント
   3)健康状態のチェック項目と留意点
   4)健康管理上の通園施設内環境整備
  3.感染症の予防と対策
   1)通園施設で問題となる感染症
   2)予防接種についての考え方
  4.救急蘇生
   1)救急時の対応
   2)心肺蘇生のABC
  5.よくみられる症状と対応
   1)運動,姿勢保持の意味とその対応
   2)呼吸に問題がある通所者への対応
   3)食事や水分摂取が困難な通所者への対応
   4)排泄に問題がある通所者への対応
   5)体温調節がうまくいかない通所者への対応
   6)情緒・行動面に問題がある場合
   7)睡眠に問題がある通所者への対応
   8)てんかん発作への対応
   9)高齢化に伴う問題と対応
  6.特別な配慮(医療的ケア)が必要な場合
   1)医療的ケアとは
   2)経管栄養
   3)気管切開
   4)経鼻咽頭エアウェイ
   5)吸引
   6)人工肛門(ストーマ)
  7.リハビリテーション
   1)基本的な考え方
   2)理学療法
   3)作業療法
   4)言語療法
   5)芸術療法
 第2章 日常生活支援
  1.生活環境への配慮
   1)ハード面を中心に
   2)ソフト面の大切さ
  2.身の回閧フ世話
   1)衣類の着脱
   2)食事
   3)排泄
   4)入浴
   5)移動
  3.日中活動への取り組み
   1)メンバーの実態
   2)活動のねらいと内容
   3)日常プログラム
   4)特別プログラム
  4.行事
   1)行事の意義と視点
   2)実践の要領

第3編 豊かな在宅生活のために―在宅支援のあれこれ
 第1章 短期入所事業(ショートステイ)
  1.重症心身障害児施設への短期入所
   1)障害児・者短期入所事業
   2)重症心身障害児施設の短期入所受け入れの実際
  2.国立療養所・重症心身障害児病棟への短期入所
   1)国立療養所の重症心身障害児病棟は長期措置の委託病床だけか
   2)在宅の重症児にはどんな支援が必要か
   3)国立療養所では現在どのような支援サービスがあるのか
   4)緊急時などに国立療養所の短期入所の利用方法は
   5)短期入所が国立療養所・重症心身障害児病棟にもたらすもの
 第2章 障害児・者地域療育等支援事業
  1.事業成立の経過
  2.事業の具体的中身
  3.事業の成果と課題
  4.事業の今後と展望
 第3章 訪問看護
  1.障害者訪問看護ステーション
   1)沿革
   2)訪問看護ステーションの機構と機能
   3)在宅重症児対象訪問看護ステーションの問題点
   4)訪問看護ステーションの今後の役割と展望
  2.自治体による重症児訪問看護事業
   1)東京都の在宅重症心身障害児(者)訪問看護事業
   2)事業の概要
   3)訪問看護事業の現状
   4)在宅重症児訪問看護の果たす役割
 第4章 障害者のためのホームヘルプサービス
  1.ホームヘルプサービスへの期待
  2.ホームヘルプサービスの沿革
  3.ホームヘルプサービスの目的と実施主体
  4.ホームヘルパーの要件などと派遣対象
  5.ホームヘルプサービスの内容
  6.ホームヘルパーの利用方法と利用者の費用負担
  7.関連機関との連携・協力
 第5章 各種の福祉サービス
  1.障害者手帳
   1)身障手帳
   2)療育手帳
  2.福祉制度・サービスの利用と現状
   1)手当制度,年金など
   2)税金・公共料金の減免
   3)医療
   4)補装具の交付・修理,重度身体障害者日常生活用具の給付
   5)交通費割引・助成など
   6)その他制度・サービス
   7)福祉制度・サービスの現状
  3.生活支援センター
   1)相談支援事業の制度化
   2)「生活支援センター」の広がり
   3)支援センターによる援助の実際
   4)支援センターの今後の展開と方向
   5)「支援センター」が今後の地域生活支援のキーワードに

資料
 1 重症心身障害児(者)通園事業実施要綱
 2 重症心身障害児(者)通園事業実施施設一覧
 3 障害児(者)地域療育等支援事業実施施設一覧

索引

コラム
 ・重症児・者A型およびB型通園施設の「配置基準」について
 ・重症心身障害児・者通園事業を2カ所(A型・B型)受託して
 ・安心して学校に通えるために
 ・呼吸障害の種類と原因
 ・嚥下機能の発達
 ・神経因性膀胱
 ・介護者の健康を守るために 腰痛症とその予防
 ・父母の高齢化をめぐって

表紙デザイン=小川さゆり