やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

訳者のことば
 今回,Cumitechの翻訳を思い立ったきっかけは,2006年の日本臨床微生物学会のワークショップであった.“血液培養“をテーマとして検査技師の方々と発表の準備を進めていくうちに,ワーキンググループの方々から「Cumitechの日本語版があれば……」,という言葉を何度も聞いた.確かに,微生物検査に携わる者にとって,Cumitechはいろいろな面でよりどころになる書籍であり,これまでその日本語版が出ていなかったこと自体不思議なことである.かといって,翻訳に関してASMとの著作権関連の交渉,誰が翻訳するか,出版社の協力は得られるか,といったことを考えたら,じゃあ私達で翻訳して出版しましょう,などと簡単に言えるような状況ではなかった.しかしこの案を,ワーキンググループの1人である日本ベクトン・ディッキンソン株式会社の小林郁夫氏にお話ししたところ,“大切なことなので是非進めてください”と私以上に本気になってしまった.その後も“翻訳の件はどうなっているでしょうか?”と強力なプッシュを受け続けたことが翻訳の原動力となっており,小林氏にはここに改めて感謝の意を表したい.
 私一人では荷が重いので,この件を満田年宏先生にご相談したところ,本書の前半部分の翻訳を快くお引き受けいただき,さらに参考資料を追加してより内容を充実させてはどうかというご提案があった.満田先生の卓見のおかげで,単なる翻訳以上の価値の高いものができたのではないかと感謝している.なおその追加資料については,前述の小林氏とともに,日本ビオメリュー株式会社の横山僚氏に多大なるご協力をいただいた.
 原書をご覧になっていただければわかるように,一冊一冊のCumitechはそれほど内容量は多くない.そのため安易に後半の翻訳を私が受け持ったものの,いったん翻訳を始めると遅々として進まなかった.忙しいということもあったが,いざ翻訳しようと思っても所々にある難解な文章にぶつかると,そこから先へ進めなくなってしまい,自分の語学力や知識のなさを思い知らされた.しかしその不足分を補っていただいたのが,駿河台日本大学病院の西山宏幸氏,中野総合病院の小野恵美氏,および東邦大学医療センター大森病院の村上日奈子氏の3名である.彼らからは,微生物検査のプロとしての立場で,多くのご意見やアドバイスをいただいた.このように本書は多くの方々のご協力を得て完成したものである.
 内容に関しては,誤訳といわれない範囲でわかりやすい表現を目指して翻訳を行ったつもりであるが,もしお気付きの点があれば,今後の改訂を含めて参考にさせていただきたいので,是非ご意見をお寄せいただければ幸いである.
 なお,医歯薬出版株式会社には,私どもの提案を快く受けていただき,スムーズに出版までの道筋を作っていただくとともに,我慢強く出版に至るまでの作業にご尽力いただいたことに感謝申し上げる.
 本書が,臨床検査技師のみならず血液培養に携わる多くの医療従事者にとってなんらかの手助けになれば,私ども関係者にとって多くの喜びである.
 2007年1月
 東京医科大学微生物学講座 主任教授
 松本哲哉

“Cumitech 1C Blood Cultures IV”日本語版の刊行にあたって
 “Cumitech“は“Cumulative Techniques and Procedures in Clinical Microbiology(臨床微生物学的検査における技術と手順の蓄積)”にちなんで名付けられた米国微生物学会出版部(American Society for Microbiology[ASM] Press)の刊行する技術叢書であり,米国臨床検査標準化協会(Clinical Laboratory Standard Institute,CLSI)の発行しているような検査精度管理のための標準(Standard)ではありません.Cumitechは全42冊.本書はそのうちの1冊で,血液培養検査について多くのエビデンスに基づく検査の実施と解釈について解説が加えられています.前版(Cumitech 1b Blood Cultures III)の公開は1997年3月ですから実に8年ぶりの改訂です.改訂に伴い新たに“Cumitech 1C Blood Cultures IV”として2005年1月に刊行されました.
 原文はわずか32頁で,B5判程度で気軽に読めるコンパクトさと,質の高いエビデンスとしての引用文献に現状での理解とコメントが専門家から寄せられています.これまでわが国では敗血症に関する専門書や臨床検査技術の商業誌の特集号は出されていましたが,血液培養検査に関する技術的な標準となる指針やガイドライン,あるいは本書のような技術叢書はこれまで存在しませんでした.
 昨今わが国では,医療の高度化と経営効率の観点から,在宅医療や外来癌化学療法といった血管内留置カテーテルの長期留置の場はもはや院内にとどまっていませんし,体内挿入デバイスに依存しない市中肺炎や腸管感染症,骨髄炎,髄膜炎,関節炎といった深部臓器感染症においても,血液培養検査の重要性は増すばかりです.致死的感染症である菌血症の正確な診断と治療には,確かな臨床能力ならびに検査情報とその解釈が重要です.
 本書の血液採取方法のパートにはこう書かれています.“血管内留置カテーテル・ラインからの採血なら,血管穿刺に伴う患者の余計な疼痛を除くことができると考えるかもしれない.しかし,汚染菌が増殖した場合,(中略)結果的に患者や医療機関に対して損害を与える可能性がある!”.これこそは,プロフェッショナルによる医療のあり方だと,翻訳中に思わず頷いてしまいました.また,いくら血液培養検査が重要とはいえ,採血の際には乳幼児においては循環血液量と採血量のバランスも常に勘案すべき課題です.
 本書が,読者の皆さんの血液培養検査実施における羅針盤となれば幸いです.また近い将来,日本のエビデンスに基づく日本のガイドラインや,日本式Cumitech Blood Culturesにつながることも期待しています.最後に,本書の日本語版の翻訳作業にあたり,ご支援戴いた諸学兄姉の皆様に感謝申し上げます.
 2007年1月
 公立大学法人 横浜市立大学附属病院 臨床検査部 準教授
 満田年宏
 訳者のことば 松本哲哉
 “Cumitech 1C Blood Cultures IV”日本語版の刊行にあたって 満田年宏

血液培養の実施に関する序論と理論
 菌血症と真菌血症の特徴
臨床における血液培養の実施
 培養に推奨される血液量
 血液培養の推奨実施回数
 血液培養実施のタイミング
 別々の血液培養の重要性
 血液培養の限界
血液培養用の検体採取
 皮膚消毒
 血液培養のための血液採取方法
血液培養ボトルの輸送と最初の処理
 血液培養検査に際して患者のベッドサイドを離れる前にチェックすべき項目
 検査室への搬送と検査室内における取り扱いと移動
 ボトルの検査,工程処理手順書と処理の拒否基準
 検査室における血液培養の安全操作
培地と培養法
 培地
 血液と液体培地の比率
 嫌気性菌用血液培養ボトルの使用と培養環境
 血液培養ボトルの培養時間
 市販の利用可能な手動の血液培養システム
 自動化血液培養システム
血液培養ボトルの培養とチェック
 菌検出と陽性血液培養検体の最初の取り扱いに関する一般的な考え方
 自動化血液培養システムの培養時間
 自動化システムを用いない場合の血液培養の培養期間と陽性検体の検出
 陽性血液培養検体からの塗抹標本の鏡検検査
 陽性血液培養の最初の継代培養
 血液培養ボトルからの直接同定と薬剤感受性試験
 血液培養の偽陽性(汚染菌)
 複数菌による菌血症
 血液培養分離菌株の保存
 結果の報告
標準診療プロトコルによるコード化と支払い請求
血管内留置カテーテルへの菌定着による敗血症の検査室診断
通常の培地に発育しない病原体に対して一般に用いられている検出法
 真菌
 バルトネラ
 ブルセラ
 カンピロバクターとヘリコバクター
 レジオネラ
 マイコプラズマ
 レプトスピラ
 抗酸菌
血流感染検出のための分子学的手法
精度管理
精度保証
 検体採取
 患者あたりの培養回数
 1,000患者・日あたりの培養陽性率と培養数
 検査技師の能力と結果の報告
 検査のオーダー,支払い請求と払い戻し
文献

 訳者による参考資料編
 索引