やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

「臨床検査学講座」の刊行にあたって
 1958(昭和33)年に衛生検査技師法が制定され,その教育の場からの強い要望に応えて刊行されたのが「衛生検査技術講座」でありました.その後,法改正およびカリキュラム改正などに伴い,「臨床検査講座」,さらに「新編臨床検査講座」,「新訂臨床検査講座」と,その内容とかたちを変えながら,圧倒的な支持を得つつ,重版・改訂を重ねてまいりました.
 2000(平成12)年4月より,新しいカリキュラムのもとで,新しい臨床検査技師教育が行われることとなり,その眼目である“大綱化”によって,各学校での弾力的な運用が要求され,またそれが可能となりました.「基礎分野」,「専門基礎分野」,「専門分野」という教育内容とその目標とするところは,従前とかなり異なってきております.
 そこで弊社では,この機に「臨床検査学講座」を刊行することといたしました.その目的は,新カリキュラムへの対応です.臨床検査技師という医療職の重要性がますます高まるなかで,“技術“の修得とそれを応用する力の醸成,および“学”としての構築を目指して,より一層の内容の充実を図るべく,新しい執筆者にも加わっていただきました.そして,教育内容に沿ったかたちで有機的な講義が行えるよう,各巻のバランスにも留意しました.
 本講義によって教育された臨床検査技師が社会に大きく受け容れられ,発展されることを願ってやみません.
 多くの方がたからのご意見,ご叱正を賜れば幸甚です.
 2000年春
 医歯薬出版株式会社


 本書は,「臨床検査学講座」の中の一巻として,数学と統計学を取り上げる.
 数学は科学・技術の基礎・根幹をなすものであり,どの方面に進むにしても必要最低限な数学的知識は必須であるし,それに数学的思考方法すなわち,冷静にあらゆる場合を考えて,誰もが納得のいく推理を積み重ねて,飛躍のない結論を出す,ということを身につけなければならない.
 本書では,〈臨床検査への方向〉で必要となる,有効数字の計算,指数対数を取り上げる.また,統計学で必要となる,確率,論証についても述べた.そして,それら全体を結びつけるものとして微分・積分についても頁を割いた.
 統計学が臨床検査に必要なことは言を待たない.本書の後半では統計学を記述した.臨床検査の現場で遭遇する統計学的な問題は,かなり多岐に渡っている.それをすべて細かく述べるとすると,膨大な頁が必要となる.また,本書は,これから臨床検査について学ぼうとする方々を読者としているのだから,いきなり現場の状況をナマの形で書くのは本書の趣旨からはずれたものになる.
 本書では,統計学の基本となる,最低でもこれだけは知っておかなければならない,という項目について記述した.本書で記述した統計学をしっかりと身につけておけば,そして,それを応用しようという柔軟な思考と積極的な態度があれば,現場での問題解決にも役立つはずである.
 本書が,臨床検査技師へ向かう第一歩になっていただければ幸いである.そして,プロとなってから,現場で本書が問題解決に役立てて頂ければ,著者として,これにまさる喜びはない.
 統計の例題は山舘が担当した.そして,全体の統括を井川が行い,総合的な監修をうけもったのが熊坂である.
 本書が出来上がるまでには,医歯薬出版の編集の方々に,大変お世話になった.厚くお礼申し上げる.
 2005年 早春 執筆者を代表して
 井川 俊彦


第1章 数と式の計算
 I.数の計算
  1-数の体系
  2-四則演算
 II.指数と対数
  1-指数
  2-対数
 III.有効数字
  1-誤差
  2-数の表示
 IV.数式の展開と因数分解
  1-式の展開
  2-式の因数分解
第2章 方程式と不等式
 I.等式
 II.1次方程式
 III.連立1次方程式
  1-代入法
  2-加減法
 IV.2次方程式
  1-2次方程式の解
  2-解と係数の関係
 V.不等式
  1-不等式の性質
  2-1次不等式
  3-2次不等式
第3章 関数
 I.関数の定義
 II.1次関数
 III.2次関数
 IV.指数関数
 V.対数関数
 VI.三角関数
  1-孤度法
  2-一般角
  3-三角関数の定義
 VII.関数の合成,平行移動
  1-関数の合成
  2-関数のグラフの平行移動
第4章 論証
 I.命題
  1-否定
  2-連言
  3-選言
  4-含意
  5-トートロジー
  6-同値
 II.推論
  1-必要条件,十分条件
  2-逆,裏,対隅
  3-推論法則
 III.数学的帰納法
  1-原理
  2-実例
第5章 行列
 I.定義
  1-零行列
 II.行列の演算
  1-相当
  2-和
  3-スカラー倍
  4-差
 III.行列の積
  1-積
  2-積に関する法則
  3-零因子
 IV.逆行列
  1-単位行列
  2-逆行列
  3-連立1次方程式
 V.行列式
  1-1次行列式の定義
  2-2次行列式の定義
  3-n次行列式の定義(n≧3)
  4-行列式の性質
  5-行列式の展開
  6-クラメルの公式
 VI.固有値
  1-固有値と固有ベクトル
  2-固有値の応用
第6章 微分
 I.極限
  1-関数の極限
  2-定数eの定義
  3-重要な極限値
  4-連続関数
 II.導関数
  1-微分係数
  2-導関数
  3-逆三角関数の微分
  4-高次導関数
 III.微分の応用
  1-平均値の定理
  2-マクローリン展開
  3-関数の極値
 IV.偏微分
  1-2変数関数
  2-偏導関数
  3-全微分
  4-高次偏導関数
  5-合成関数の偏微分
  6-2変数関数の極値
第7章 積分
 I.不定積分
  1-原始関数
  2-基本公式
  3-置換積分法と部分積分法
  4-有理関数の積分
 II.定積分
  1-定積分の定義
  2-定積分の基本性質
  3-微分積分学の基本定理
  4-広義積分
 III.積分の応用
  1-面積
  2-曲線の長さ
 IV.重積分
  1-2重積分の定義
  2-2重積分の基本性質
  3-累次積分
  4-変数変換
第8章 微分方程式
 I.微分方程式と解
 II.変数分離形
  1-変数分離形
  2-同次形
 III.1階線形微分方程式
  1-1階線形微分方程式
  2-ベルヌーイの微分方程式
第9章 順列・組合せと確率
 I.順列と組合せ
  1-順列
  2-重複順列
  3-組合せ
  4-重複組合せ
 II.確率の基礎概念
  1-標本空間と事象
  2-事象の関係性
 III.確率の定義と性質
  1-数学的確率
  2-公理的確率
 IV.条件付き確率と事象の独立性
  1-条件付き確率
  2-事象の独立性
 V.ベイズの定理
第10章 記述統計
 I.統計データの種類
 II.度数分布
  1-階級と度数,度数分布表
  2-度数分布の視覚化
 III.データの特性値
  1-代表値
   [1]平均
   [2]メディアン
   [3]モード
  2-散布度
   [1]分散と標準偏差
   [2]不偏分散
   [3]その他の散布度
第11章 確率変数と確率分布
 I.確率変数と確率分布の定義
  1-確率変数の定義
  2-離散型確率変数の確率分布
  3-連続型確率変数の確率分布
 II.確率変数の特性値
  1-確率変数の期待値(平均)と分散・標準偏差の定義
  2-確率変数の期待値と分散の性質
  3-確率変数の標準化
 III.確率変数の独立性
  1-確率変数の独立性の定義
  2-独立な確率変数の性質
 IV.代表的な確率分布
  1-2項分布
  2-ポアソン分布
  3-正規分布
   [1]正規分布の線形変換と標準化
   [2]正規分布の再生性
 V.中心極限定理と正規近似
  1-中心極限定理
  2-2項分布の正規近似
 VI.標本分布
  1-母集団分布と標本分布
  2-標本平均の分布
  3-その他の重要な標本分布(χ2分布,t分布,F分布)
   [1]χ2分布
   [2]t分布
   [3]F分布
第12章 相関と回帰
 I.相関関係
 II.共分散と相関係数
 III.回帰直線
第13章 推定
 I.母集団と標本
 II.点推定
 III.区間推定
 IV.母平均の区間推定
  1-母分散が既知のとき
  2-母分散が未知のとき
 V.母分散の区間推定
  1-母平均が既知のとき
  2-母平均が未知のとき
 VI.母比率の区間推定
第14章 検定
 I.検定
  1-検定の原理
  2-帰無仮説,対立仮説と2種の過誤
  3-片側検定,両側検定
  4-検定の手順
 II.母平均の検定
  1-母分散が既知のとき
  2-母分散が未知のとき
 III.母分散の検定
  1-母平均が既知のとき
  2-母平均が未知のとき
 IV.平均値の差の検定
  1-母分散が既知のとき
  2-母分散が未知だが,等しいことは既知のとき
  3-母分散が未知で異なるとき
 V.等分散の検定
 VI.比率の検定
 VII.適合度の検定
 VIII.独立性の検定

問題回答
付表
索引