やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 臨床検査医学を構成する各部門はそれぞれが,診断および治療にとって最も貢献しているのは自分であると主張したいかもしれない.
 臨床化学は,診断(病態度の判定)を数量化でき,病勢を定量的に追える部門として,まさにあたるべからざる勢いの時期があった.
 現在は,謙虚に他部門と多角的診断の一部を分担し,治療経過および予後の定量性を支えている.
 しかしながら,臨床化学(一部ではいまだに生化学と呼ぶ人がいるが)はリアルタイムに治療の方向を定め,経過および予後を示すことのできる代表的検査学であることは間違いない.その基礎は直接,化学および分析化学に根ざしており,物理学,物理化学,機械工学,さらには数学の知識が不可欠といってよい.そのうえ,分子生物学,免疫化学,自動化,情報工学の進歩の影響をまともに受け,教師側の理解はもちろん,学生側の学習にも著しいレベルアップが要求されるようになった.
 このため,ときには学生に敬遠されるおそれさえ感ずることがあり,教師側の工夫には並々ならぬものがあるとの余談もある.
 いずれにせよ,本書の旧版は,時代の流れに従って,小部分を書き替え,補筆したりしてはきたものの,臨床化学の進歩に即したものとはいえなかった.いろいろと叱正されてきたにもかかわらず,必ずしも十分な対応ができなかったことには深く反省している.
 今回,強力なる共同執筆者の方がたにご協力いただき,宿願の大改訂を行うことができた.現代臨床化学の動向をふまえた本書は,旧版に比し,内容のレベルが上がったのみならず,より実用的なものとなったと自負したい.
 本来なら,このメンバーで全く新しい版をつくるべきであったのであるが,旧版の形式を利用したのは,教育側のシラバスの全面的改変を避けたこと,旧版の名残りを旧法・原法の記録,保存に値するとみなしたからである.教科書は本来,証明された定説や定法を載せるものとの考えに従ったわけであるが,本書が卒業後,あるいは他部門(会社,研究所を含む)での参考書ともなりうるよう現法の記述も強化してある.
 この点で,初版以来,総論と各論に分け,各論は簡単な物質としての無機質から順次大分子に及ぶ配列は変わっていない.教育にあたっては,総論を中心として,適宜,各論を引用する方式が望ましいのではとも考えられる.他部門と共通する部分はその科目の担当者と連絡をとりつつ教えていただきたい.
 遺伝子(DNA) 診断,遺伝子解析の進歩に伴って,臨床化学がこれらを取り扱うことにやぶさかではないが,他部門との対比,対応が決めにくい現状では,次の課題として,導入することを控えた.この点も含めて,忌憚なき意見をいただければ幸いである.いずれにせよ,本書が multum in parvo(小さな容器に収められた多くの知識)と称せられるよう今後とも努力するつもりである.
 2001年 春 著者を代表して 坂岸良克

 執筆分担一覧
 坂岸良克 第I章1-I〜III,2-VI・VII・IX・X,第II章1-I〜III・VI・VII・X,5-I・II・VI,6-II・III・V〜VII,7-I・III・XII
 田畑勝好 第I章1-IV・VIII・IX,2-IV・V,第II章1-IV・V・VIII・IX,3-I〜VIII,4-I〜III
 北田増和 第I章1-V,2-I〜III,第II章2-I〜III,7-IV・X
 大澤 進 第I章1-VI・VII,2-VIII・XI・XII,5-III〜V,6-I・IV,7-II・XI
 谷島清郎 第I章2-XIII,XIV,第II章4-IV,7-V〜IX,8
 保崎清人 第III章1〜5
 序

第I章 総論
 1.臨床化学と臨床化学分析の成り立ち
  I. 臨床化学とその歴史
  II. 臨床化学分析の特徴
  III. 臨床化学分析の単位
  IV. 分析用器具と洗浄
  V. 誤差の要因と許容限界
  VI. 精度管理
  VII. 正常範囲と基準範囲
  VIII. 分析用試薬
  IX. 検体の取り扱い方
 2.臨床化学分析の原理と方法
  I. 定量法の手順と種類
  II. 分離法とその操作
  III. 容量および重量分析
  IV. 比色法
  V. 炎光光度法と原子吸光分析法
  VI. 電気泳動法
  VII. 屈折率の測定法
  VIII. ガス分析
  IX. 電気化学分析法
  X. 超遠心分離法
  XI. 簡易測定法
  XII. 自動化学分析法
  XIII. 酵素による測定法
  XIV. 免疫化学的測定法
第II章 定量法各論
 1.無機質
  I. 生体と無機質
  II. ナトリウム
  III. カリウム
  IV. カルシウム
  V. マグネシウム
  VI. 鉄
  VII. 銅
  VIII. 塩化物イオン(クロール)
  IX. 無機リン
  X. 炭酸水素イオン(CO↓2↓ 含量)と酸・アルカリ平衡
 2.糖質
  I. 血糖
  II. 糖化タンパクと 1,5-AG
  III. 尿糖
 3.脂質
  I. 血清リポタンパク
  II. トリアシルグリセロール
  III. リン脂質
  IV. 過酸化脂質
  V. コレステロール
  VI. 血中胆汁酸
  VII. 遊離脂肪酸
  VIII. HDL-コレステロール
 4.ホルモン
  I. 17-オキソステロイド(17-OS)
  II. 17-ヒドロキシコルチコステロイド(17-OHCS)
  III. カテコールアミン
  IV. サイロキシン(チロキシン)とTSH
 5.非タンパク性窒素成分
  I. 非タンパク性窒素
  II. 尿素窒素
  III. クレアチンとクレアチニン
  IV. 尿酸
  V. アンモニア
  VI. ビリルビン
 6.タンパク質
  I. アルブミン
  II. Γ-グロブリン
  III. ヘモグロビン
  IV. 総タンパク
  V. タンパク分画
  VI. フィブリノゲン
  VII. 膠質反応
 7.酵素
  I. 臨床酵素
  II. 酸性ホスファターゼ
  III. アルカリ性ホスファターゼ
  IV. アミラーゼ
  V. コリンエステラーゼ
  VI. クレアチンキナーゼ
  VII. Γ-グルタミルトランスフェラーゼ
  VIII. 乳酸デヒドロゲナーゼ(乳酸脱水素酵素)
  IX. ロイシンアミノペプチダーゼ
  X. リパーゼ
  XI. トランスアミナーゼ
  XII. アイソザイムとその検索法
 8.血中薬物濃度の測定
  I. 血中薬物測定の意義
  II. 測定法の種類
  III. 毒物,劇物の測定
第III章 機能検査
 1.消化管機能検査
  I. 胃液検査
 2.肝(胆道)機能検査
  I. タンパク代謝機能検査
  II. 糖質代謝機能検査
  III. 脂質代謝機能検査
  IV. ビリルビン代謝機能検査
  V. 解毒機能試験
  VI. 異物排出機能試験
  VII. 血清酵素検査
 3.膵臓機能検査
  I. 外分泌機能検査
  II. 膵内分泌機能検査
 4.腎機能検査
  I. 腎血流量検査
  II. 糸球体機能検査
  III. 尿細管機能検査
  IV. 腎機能検査における定量法
 5.内分泌機能検査
  I. 下垂体機能検査
  II. 甲状腺機能検査
  III. 副甲状腺機能検査
  IV. 副腎皮質機能検査

 日常検査に使用する各種緩衝液
 臨床化学検査に必要な数値
 分析に利用される主な化合物と分子量
 〈付表-1〉10〜99までの対数表
 〈付表-2〉透過率と吸光度

 索引