やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

巻頭言
 このたび,私のもっとも敬愛する荒木康久先生が「生殖補助医療技術学テキスト」を出版されるに際し,その巻頭文の依頼を受けたことは私の望外の喜びとするものであり,荒木先生との長いお付き合いを思うにつれ,非常に感銘を深くいたします.
 先生は岩手大学の農学部で研鑽を積まれ,その後,生殖医療の分野で多くの臨床クリニックを指導されたこの領域の第一人者であり,私が医学部を出ていることから「医と農」の新しい合体で今日まで新しい領域を進めてまいりました.
 先生は,この領域で必要にして欠くことのできない技術指導をわれわれ医の領域に与えられ,現代の生殖医療のなかで光り輝いています.
 したがって,本書を読まれる方にとって,このテキストは現在の生殖医療で問題となっている技術的なトピックスだけでなく,社会的にも高齢化が進むという現代社会の現実を理解することができる重要な指針に溢れています.荒木康久先生という当代随一の名アドバイザーから是非,現代の社会学を学んでほしい.そして生殖医療という分野に多くの方々が希望をもって参加してほしいと願うものです.
 荒木康久先生の指導の下で,次の世代の生殖医療の発展に寄与して下さることを切に祈ります.
 生殖バイオロジー東京シンポジウム代表
 鈴木秋悦

巻頭言
 近年,結婚年齢の上昇や晩産化などに伴い,不妊検査や生殖補助医療(体外受精・顕微授精)を受ける患者数が増加している.生殖補助医療技術(ART)は急速な進歩と発展を遂げており,ART実施施設は2011 年で600 施設を超え,ARTによる出生児数とともに年々増加している.しかし,このART実施施設においてヒト配偶子を取り扱うエンブリオロジスト(胚培養士)の多くが臨床検査技師であるにもかかわらず,臨床検査技師養成施設の教育課程ではARTにかかわる教育・実習が十分確立されていないのが現状である.そのようななか,ARTの第一人者である荒木康久先生は,ART実施施設に勤務するエンブリオロジストの質の向上を目指し,教育に力を注ぎ,多くの施設で実技指導を行いながらARTの発展に多大な貢献をされてきている.
 今回,先生が上梓された「生殖補助医療技術学テキスト」は,生殖医療の基礎知識から最新技術,さらに手技のコツやプロトコールの実際が満載であり,ART実施施設で働くエンブリオロジストはもちろん,将来,エンブリオロジストを目指す臨床検査技師や研究者にも大変参考になる名著と思われる.また,教育現場においても,生殖医療の科目を開講している大学では,次世代のエンブリオロジストの養成に欠かせない教科書である.
 平成25 年4 月にスタートした本学検査技術学科では,臨床検査の専門的知識と技術を応用し,科学的な視野のもと,Scientistとして他分野でも活躍できる臨床検査技師の育成に力を入れている.その1 つとして,「生殖医療技術学」という科目を2 年次後期に開講し,先生には,平成26 年9 月から本学の教授としてこの科目の講義・実習を担当していただいている.「生殖医療技術学」では,両配偶子の発生,受精および受精卵(胚)発生のメカニズムを基礎学問として学び,ヒト生殖医療に貢献するために,その学問を臨床に応用すべき実践技術を習得できるよう授精用顕微鏡システムを2 台設置し,将来,エンブリオロジストとして活躍できるように教育カリキュラムを組んでいる.ART教育に情熱を注ぐ先生から直接教わることができる本学の学生は大変幸せなことである.入学時,将来の仕事の夢として生殖医療分野で働くエンブリオロジストを挙げる学生が大変多くなってきている.
 今後,ヒトの誕生にかかわるエンブリオロジストは,さらにARTに対応するための知識,錬磨された技能,高い倫理性と品位を兼ね備えた技術者であることが要求されるものと思われる.先生の「生殖補助医療技術学テキスト」によって,多くのエンブリオロジスト達が活躍し,ARTの発展に寄与してくれることを期待したい.
 群馬パース大学保健科学部 検査技術学科 学科長
 教授 藤田清貴

序文
 このたび,群馬パース大学保健科学部の新学科創設にあたり奮闘・献身された藤田清貴教授から「現在の学科規定にないものの,今日の不妊症をとりまく生殖医療の現況を顧みれば,どうしてもこれに関連する基礎を学ぶ必要性を痛感する.それゆえ,当校では臨床検査技師のみならず,看護師,助産師を目指す学生のために生殖補助医療の基礎を学べる特別な時間を確保したい」との強い希望を聞かされた.私自身も生殖補助医療の検査室(ラボ)で勤務してきた経験があり,とても素晴らしい発想だと感銘を受けた.「大学の特徴とするには,相応の教室でも創らなければ先端知識・技術は習得できないのでは?」と申し上げたところ,「近々,大学院も創設し,一般社会人大学院生も学べるような,時代に即した学科を目指して充実させていく」「社会問題化している生殖補助医療技術学なるものを学ばせることに意味がある」との先生の情熱を繰り返し聞かされた.私も同様に思い続けてきた事柄であり,その思いに賛同し,講義・実習指導の拝命を喜んで承諾した次第である.
 本書は,学生諸君が生殖補助医療分野に携わる場合に,いかなる基礎知識が必要かを学ぶことを念頭に著した.したがって,本書は体外受精を中心にした不妊治療にかかわる基本的な知識を整理するための内容にすぎない.生理学,解剖学,発生学などはその道の教科書に譲り,さらに詳しい知識については関連書を参考に理解を深めていただきたいと切望している.
 生殖補助医療技術について学ぶにあたり,本書は基礎編と技術編に分けて記載した.
 基礎編では,日本の不妊治療の概要とそれにかかわるエンブリオロジストの概要を述べた.また,ヒトの配偶子(卵子,精子),受精の仕組み,受精卵(胚)の発生や妊娠に関する基礎的生理学についての最低限必要な知識を記載したが,さらなる知識を整理するためには,それらに関する専門書や参考書を参照しなければならない.技術編では,実際の不妊治療で行われている技術について解説した.特に,卵細胞質内精子注入法(ICSI)について詳述した.将来,この分野に進んだ場合には,基礎編と同様,さらなる知識を深めるために専門性の高い成書を座右に置き,各施設の方法を習得していくことになるであろう.
 医療の世界にかぎらずどの分野にあっても,技術革新は日進月歩であり目を見張るばかりである.本書は生殖補助医療技術の基礎知識,すなわち入門書であることを肝に命じ,常に向上心を高めて知識を吸収していただきたい.
 本書を作成するにあたり,著名な先生方の著書を多数参考にさせていただいた.心からお礼申し上げます.
 平成26 年12 月
 荒木康久
 巻頭言 鈴木秋悦
 巻頭言 藤田清貴
 序文 荒木康久

基礎編
第1章 生殖補助医療とエンブリオロジスト
 生殖補助医療とは
 エンブリオロジスト,胚培養士とは
 ARTに従事するには資格が必要か?
 ART施設は登録しなければならない
 日本と外国の不妊治療数および施設数の比較
第2章 女性生殖器と卵子発生
 女性生殖器
 視床下部─下垂体─卵巣系
 卵子の起源と卵子発生
 有糸分裂と減数分裂
第3章 男性生殖器と精子発生
 男性生殖器
 精巣の構造
 精子の構造
 精子の起源
 精子形成
 精子発生(完成)過程
 視床下部─下垂体─精巣系
第4章 受精のメカニズム
 受精能獲得
 ハイパーアクチベーション
 先体反応
 カルシウムオシレーションと卵子活性
第5章 不妊症とは
 妊娠成立に必要な条件
 男女それぞれの不妊原因
 不妊治療の進め方
第6章 女性の不妊検査
 基礎体温の測定
 子宮卵管造影検査
 フーナーテスト(性交後検査)
 頸管粘液検査
 ホルモンの測定
 経腟超音波検査
 その他
第7章 男性の不妊検査
 男性不妊の原因
 精液検査
 その他の精子機能検査
第8章 体外受精
 ヒト体外受精の幕開け
 体外受精─胚移植
 特殊な受精法
 体外受精の適応
第9章 体外受精・胚移植の実際
 卵巣刺激法
 採卵
 卵子の観察
 精液の採取
 卵子と精子の混合(媒精)
 受精卵(胚)
 受精卵(胚)の分類
 受精卵(胚)の発育過程
 胚の移植時期
 移植方法
 凍結胚の移植
 胚移植後の管理
第10章 体外受精の問題点
 卵巣過剰刺激症候群
 多胎妊娠の発生
 流産率
 先天異常率
 着床前診断,着床前スクリーニング
 提供卵による体外受精
 代理出産
 その他,今後の課題
第11章 染色体の基礎知識
 染色体の形態と分類
 ヒトの染色体
 染色体異常
 不妊症と染色体異常
 卵子の染色体異常
 受精卵(胚)の染色体異常
 流産胎児の染色体異常
技術編
精液検査
 精液量の測定
 精液の液化
 精子数のカウント
 総運動精子数の算出
 精子奇形率
 精子形態検査のための簡便染色法
 精子の形態分類例
精液処理
 密度勾配分離法
精子凍結融解
 精子凍結
 精子融解
胚のハンドリング
 パスツールピペットの作成
 胚の移動
通常の体外受精(conventional─IVF)
 conventional─IVFの手順
ICSIの手技
 材料
 ICSI実施の準備
 ICSI前の確認
 ICSIの実施
 ICSIにおけるトラブルシューティング
Vitrification(Cryotop法)
 使用器具
 試薬
 凍結手順
 融解手順

 索引