序
著者は1979年に,テキサス大学サンアントニオ校リハビリテーション医学科で臨床フェローの研修を行った.そこでは外来診療のなかで神経伝導検査と針筋電図による電気診断学が圧倒的に大きな割合を占めていたが,これらの臨床検査手技は日本では経験していなかった.5つの外来診察室にはMedelec社製のMS-6筋電図機器が備え付けられていた.この機器を使い,自分の左上下肢を被検肢として記録電極を置き,右手にもった刺激器で末梢神経を刺激して誘発電位を導出することによって神経伝導検査を自習した.針筋電図も同様に,自分の上下肢を被検肢として,針電極の刺入部位を学習した.
1980年にアイオワ大学神経内科電気生理学部門に移り,臨床フェローを継続することができた.これには,米国海軍病院でのローテーティングインター,サンアントニオ校での臨床フェローを修了しており,さらに木村 淳先生のご尽力が大きく,アイオワ州医師会からの免許証をもらうことができた.ここでは午前中の脳波検査,午後からの針筋電図検査,夕方から山田 徹先生のもとで多発性硬化症をはじめとした神経疾患の体性感覚誘発電位,脳幹聴覚誘発電位,視覚誘発電位の臨床応用を行った.とりわけ,木村先生の研究されていた顔面神経障害に対する電気的瞬目反射(アイオワ大学では,ポントグラムpontogram―脳幹橋部の病変検索ができることからこのように呼ばれていた)を学ぶことができた.
1981年からは新潟県立六日町病院リハビリテーション科に勤務した.ここでは新潟大学から整形外科医の先生方が派遣されており,手の外科で扱う絞扼障害の電気診断学の依頼が多く,局在性神経障害の症例を十二分に経験することができ,学位論文を書くこともできた.透析専門医,内科,外科からは意識障害など中枢性神経系症例の脳波や誘発電位の依頼が多く,アイオワ大学で学んだ中枢性神経系の電気生理学的検査の知識を生かすことができた.
本書は,神経伝導検査を学習しようと思っている初学者が,著者が行ったように,自分の左上下肢を被検肢として,末梢神経刺激による誘発電位導出を自習できるように,第1部では写真入りで記録電極設置部位や刺激部位を掲載した.第1部第5章では帝京大学神経内科の畑中裕己先生の症例を借用した.
第2部の波形分析は,導出された波形から基礎にある病態が脱髄か軸索変性かの鑑別を行うものである.また,末梢神経学では針筋電図所見の解釈を割愛することができず,第2部第2章の「針筋電図の基礎」の項目に,5症例の針筋電図を掲載することにした.日本光電工業社製のEMGPlayerソフトについて開発者の佐野 仁氏,藤田吉之氏,さらに木村 淳先生の使用許可をいただいた.また第2部第1章のギラン・バレー症候群の波形は千葉大学神経内科の桑原 聡先生の論文から全面的に借用した.
第3部では,著者がこれまで経験した症例を掲載した.これらの症例は,毎年開催される日本臨床神経生理学会,筋・末梢神経電気診断技術向上委員会が主催する「医師のための筋電図・神経筋電気診断セミナー」や慶應大学リハビリテーション医学教室が主催する「臨床筋電図・電気診断学講習会」で著者が講演しているものである.
文献は巻末に記載しているが,本書で使用した図表については主に西村書店から発行している著者が翻訳した教科書から改変して利用したものが多い.また,第1部第3章「顔面神経の伝導検査」,第2部第3章「神経変性と再生」で掲載した図は,『顔面神経麻痺のリハビリテーション(医歯薬出版)』から引用している.
本書が神経伝導検査や筋電図を学ぼうと志している人々の一助となれば望外の喜びである.
2012年7月
栢森良二
著者は1979年に,テキサス大学サンアントニオ校リハビリテーション医学科で臨床フェローの研修を行った.そこでは外来診療のなかで神経伝導検査と針筋電図による電気診断学が圧倒的に大きな割合を占めていたが,これらの臨床検査手技は日本では経験していなかった.5つの外来診察室にはMedelec社製のMS-6筋電図機器が備え付けられていた.この機器を使い,自分の左上下肢を被検肢として記録電極を置き,右手にもった刺激器で末梢神経を刺激して誘発電位を導出することによって神経伝導検査を自習した.針筋電図も同様に,自分の上下肢を被検肢として,針電極の刺入部位を学習した.
1980年にアイオワ大学神経内科電気生理学部門に移り,臨床フェローを継続することができた.これには,米国海軍病院でのローテーティングインター,サンアントニオ校での臨床フェローを修了しており,さらに木村 淳先生のご尽力が大きく,アイオワ州医師会からの免許証をもらうことができた.ここでは午前中の脳波検査,午後からの針筋電図検査,夕方から山田 徹先生のもとで多発性硬化症をはじめとした神経疾患の体性感覚誘発電位,脳幹聴覚誘発電位,視覚誘発電位の臨床応用を行った.とりわけ,木村先生の研究されていた顔面神経障害に対する電気的瞬目反射(アイオワ大学では,ポントグラムpontogram―脳幹橋部の病変検索ができることからこのように呼ばれていた)を学ぶことができた.
1981年からは新潟県立六日町病院リハビリテーション科に勤務した.ここでは新潟大学から整形外科医の先生方が派遣されており,手の外科で扱う絞扼障害の電気診断学の依頼が多く,局在性神経障害の症例を十二分に経験することができ,学位論文を書くこともできた.透析専門医,内科,外科からは意識障害など中枢性神経系症例の脳波や誘発電位の依頼が多く,アイオワ大学で学んだ中枢性神経系の電気生理学的検査の知識を生かすことができた.
本書は,神経伝導検査を学習しようと思っている初学者が,著者が行ったように,自分の左上下肢を被検肢として,末梢神経刺激による誘発電位導出を自習できるように,第1部では写真入りで記録電極設置部位や刺激部位を掲載した.第1部第5章では帝京大学神経内科の畑中裕己先生の症例を借用した.
第2部の波形分析は,導出された波形から基礎にある病態が脱髄か軸索変性かの鑑別を行うものである.また,末梢神経学では針筋電図所見の解釈を割愛することができず,第2部第2章の「針筋電図の基礎」の項目に,5症例の針筋電図を掲載することにした.日本光電工業社製のEMGPlayerソフトについて開発者の佐野 仁氏,藤田吉之氏,さらに木村 淳先生の使用許可をいただいた.また第2部第1章のギラン・バレー症候群の波形は千葉大学神経内科の桑原 聡先生の論文から全面的に借用した.
第3部では,著者がこれまで経験した症例を掲載した.これらの症例は,毎年開催される日本臨床神経生理学会,筋・末梢神経電気診断技術向上委員会が主催する「医師のための筋電図・神経筋電気診断セミナー」や慶應大学リハビリテーション医学教室が主催する「臨床筋電図・電気診断学講習会」で著者が講演しているものである.
文献は巻末に記載しているが,本書で使用した図表については主に西村書店から発行している著者が翻訳した教科書から改変して利用したものが多い.また,第1部第3章「顔面神経の伝導検査」,第2部第3章「神経変性と再生」で掲載した図は,『顔面神経麻痺のリハビリテーション(医歯薬出版)』から引用している.
本書が神経伝導検査や筋電図を学ぼうと志している人々の一助となれば望外の喜びである.
2012年7月
栢森良二
序
第1部 基礎技術編
第1章 上肢の伝導検査
1 複合筋活動電位の記録電極設置部位の確認
2 正中神経のSNAPとCMAPの導出
感覚線維伝導検査
運動線維伝導検査
肘刺激
伝導速度の算出
遠位部伝導速度の算出
正中神経伝導検査のステップアップへの挑戦
正中神経の解剖
3 尺骨神経の手関節と肘刺激によるSNAPとCMAP
感覚線維伝導検査
運動線維伝導検査
肘刺激
基準値
尺骨神経伝導検査のステップアップへの挑戦
尺骨神経の解剖
技術的コメント
4 浅橈骨神経
SNAP導出
技術的コメント
母指から導出されるSNAP
橈骨神経の解剖
橈骨神経伝導検査のステップアップへの挑戦
第2章 下肢の伝導検査
1 腰神経叢
大腿神経
伏在神経
外側大腿皮神経
2 腰仙骨神経叢
坐骨神経
脛骨神経
内側足底神経
外側足底神経
総腓骨神経
第3章 顔面神経の伝導検査
1 直接反応によるCMAP
2 電気的瞬目反射
第4章 後期応答
1 H反射の導出
2 F波
3 A波
4 多発ニューロパチー
第5章 神経筋接合部の伝導検査
1 シナプス後疾患
2 シナプス前疾患
第6章 その他の神経伝導検査
1 副神経の伝導検査
2 横隔神経の伝導検査
第2部 誘発電位の波形分析の基礎
第1章 神経伝導の基礎
1 静止膜電位
2 イオンチャネル
3 活動電位
4 不応期
5 活動電位の伝導
6 容積導体電位
7 近傍電場電位と遠隔電場電位
8 神経線維の分類
9 誘発電位のパラメータ
10 誘発電位パラメータへの影響因子
11 刺激強度と誘発電位の閾値
12 脱髄と交差刺激
13 生理的持続時間依存性位相相殺現象
14 脱髄による波形変化
15 軸索変性による波形変化
16 活動電位の異常と臨床症状
17 絞扼性神経障害と脱髄性神経障害
無症候性DMニューロパチーの診断
ギラン・バレー症候群の伝導検査
第2章 針筋電図の基礎
1 運動単位
2 針筋電図
3 随意収縮時の活動
4 動員パターンと大きさ原理
5 運動単位電位とパラメータ
6 安静時の活動
第3章 神経変性と再生
1 骨格筋と表情筋の相違
2 表情筋の役割
3 ヘルペス顔面神経炎
4 神経変性
5 顔面神経における軸索断裂と神経断裂の鑑別
6 神経突起の指向性と回復時間
7 顔面神経麻痺の臨床的評価
8 顔面神経麻痺の機能予後と回復曲線
第3部 臨床から学ぶ
第1章 正中神経障害
1 手根管症候群
2 円回内筋症候群
3 前骨間神経症候群
4 腕神経叢炎
第2章 尺骨神経障害
1 肘部尺骨神経障害
2 ギヨン管症候群
第3章 橈骨神経障害
1 土曜日の夜の麻痺
2 松葉杖麻痺
3 後骨間神経症候群
4 手錠麻痺
5 橈骨神経麻痺の治療
6 手の変形の鑑別
第4章 腕神経叢障害
1 腕神経叢損傷
2 分娩麻痺
3 リュックサック麻痺
4 胸郭出口症候群
第5章 下肢の神経障害
1 下垂足の鑑別
2 ALSの電気診断基準
3 ダッシュボード損傷
4 後足根管症候群
5 腰神経叢損傷と大腿神経障害
6 腰部脊柱管狭窄症
付録CD-ROM 筋電図波形の読み方
参考文献
索引
付録CD-ROMの使い方……巻末
第1部 基礎技術編
第1章 上肢の伝導検査
1 複合筋活動電位の記録電極設置部位の確認
2 正中神経のSNAPとCMAPの導出
感覚線維伝導検査
運動線維伝導検査
肘刺激
伝導速度の算出
遠位部伝導速度の算出
正中神経伝導検査のステップアップへの挑戦
正中神経の解剖
3 尺骨神経の手関節と肘刺激によるSNAPとCMAP
感覚線維伝導検査
運動線維伝導検査
肘刺激
基準値
尺骨神経伝導検査のステップアップへの挑戦
尺骨神経の解剖
技術的コメント
4 浅橈骨神経
SNAP導出
技術的コメント
母指から導出されるSNAP
橈骨神経の解剖
橈骨神経伝導検査のステップアップへの挑戦
第2章 下肢の伝導検査
1 腰神経叢
大腿神経
伏在神経
外側大腿皮神経
2 腰仙骨神経叢
坐骨神経
脛骨神経
内側足底神経
外側足底神経
総腓骨神経
第3章 顔面神経の伝導検査
1 直接反応によるCMAP
2 電気的瞬目反射
第4章 後期応答
1 H反射の導出
2 F波
3 A波
4 多発ニューロパチー
第5章 神経筋接合部の伝導検査
1 シナプス後疾患
2 シナプス前疾患
第6章 その他の神経伝導検査
1 副神経の伝導検査
2 横隔神経の伝導検査
第2部 誘発電位の波形分析の基礎
第1章 神経伝導の基礎
1 静止膜電位
2 イオンチャネル
3 活動電位
4 不応期
5 活動電位の伝導
6 容積導体電位
7 近傍電場電位と遠隔電場電位
8 神経線維の分類
9 誘発電位のパラメータ
10 誘発電位パラメータへの影響因子
11 刺激強度と誘発電位の閾値
12 脱髄と交差刺激
13 生理的持続時間依存性位相相殺現象
14 脱髄による波形変化
15 軸索変性による波形変化
16 活動電位の異常と臨床症状
17 絞扼性神経障害と脱髄性神経障害
無症候性DMニューロパチーの診断
ギラン・バレー症候群の伝導検査
第2章 針筋電図の基礎
1 運動単位
2 針筋電図
3 随意収縮時の活動
4 動員パターンと大きさ原理
5 運動単位電位とパラメータ
6 安静時の活動
第3章 神経変性と再生
1 骨格筋と表情筋の相違
2 表情筋の役割
3 ヘルペス顔面神経炎
4 神経変性
5 顔面神経における軸索断裂と神経断裂の鑑別
6 神経突起の指向性と回復時間
7 顔面神経麻痺の臨床的評価
8 顔面神経麻痺の機能予後と回復曲線
第3部 臨床から学ぶ
第1章 正中神経障害
1 手根管症候群
2 円回内筋症候群
3 前骨間神経症候群
4 腕神経叢炎
第2章 尺骨神経障害
1 肘部尺骨神経障害
2 ギヨン管症候群
第3章 橈骨神経障害
1 土曜日の夜の麻痺
2 松葉杖麻痺
3 後骨間神経症候群
4 手錠麻痺
5 橈骨神経麻痺の治療
6 手の変形の鑑別
第4章 腕神経叢障害
1 腕神経叢損傷
2 分娩麻痺
3 リュックサック麻痺
4 胸郭出口症候群
第5章 下肢の神経障害
1 下垂足の鑑別
2 ALSの電気診断基準
3 ダッシュボード損傷
4 後足根管症候群
5 腰神経叢損傷と大腿神経障害
6 腰部脊柱管狭窄症
付録CD-ROM 筋電図波形の読み方
参考文献
索引
付録CD-ROMの使い方……巻末








