やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序
 ヒトゲノムの解読が完了した現在,多くの日本人科学者のノーベル賞受賞に自然科学への関心がたかまって,まさに「生命科学」の時代にあり,そしてポストゲノムの段階に入っている.私たちに直接かかわる医学,医療の研究技術の開発は,急速な発展をとげて,将来医療に従事しようとする皆さんにとって,基礎科目である「生命科学」は巾広い生物学・医学的基礎知識と高度な専門技術が求められる時代となってきている.
 平成13年度に,全国の医学,歯学の共通教育の新カリキュラムの「準備教育モデル,コア,カリキュラム」が提示され,今後の医療系教育の基準として重要視されております.生命科学の基礎としての生物学の教育目標は,科学的・論理的思考力を育て,人間性を磨き,自由で主体的な判断と行動を培うと同時に,生命倫理・人の尊厳を巾広く理解することである.さらに国際化および情報化社会に対応できる能力を養成することをふまえて,科学的思考の基盤や人間生活へのかかわりを教科内容に盛り込むこととした.
 また,高等学校の教育の多様化後,新入生の生物学に対する基礎知識も巾広くなった.本書は,未修得のレベルの学生さんにも理解できるように配慮しながら,内容は幾分,専門的な分野にまで言及して作成したものである.用語は,生命科学の分野で汎用される「岩波生物学辞典第4版」(1996年)を基本用語として使用し,医療系の専門用語は括弧内に提示するようにつとめた.
 本書は,ヒトを中心にした生命の探究の内容を以下の章だてに組み込んだ.―地球生物圏の生物集団から原子・分子のレベルにおける生命体の構成物質,生命の単位としての細胞の構造と機能,個体の構成と機能,生命活動とエネルギー,細胞の増殖の基本からヒトの生殖・配偶子形成,ヒトの遺伝を中心としたメンデルの法則と遺伝情報(DNA)のはたらき,ヒトの染色体と遺伝子および遺伝様式,動物の初期発生の基本からヒトの器官形成,化学進化・原始生命の誕生そしてヒトへの進化,生態系のしくみにおける人間活動と地球環境―.理解しやすいように前著の章だてを大幅に整理し組み換えた.第3版では,形態やその構造の変化を理解してもらうためには図や写真が役立ち,模式図だけでなく光学顕微鏡,電子顕微鏡写真ものせて補足するようにつとめ,また説明も図と対照的に記した.コラムは学習者が広く,深く生物学に触れる参考知見になるようにし,そして各章ごとの目標とするまとめと問題を挙げたので,主体的学習に努めてほしい.
 限られた紙数の中で,生物学の基礎から学び,専門科目の生命科学関連科目を消化することができるように,巻末の参考図書などを利用してさらに理解を深めていってほしい.
 本書を発刊するにあたり,渡辺強三名誉教授(鶴見大),高浜秀樹教授(大分大),木下勉教授(立教大),阿部道生博士(鶴見大),外村晶元教授(東医歯大)からは貴重な写真とご教示をいただいた.その他,多くの内外の高著を参考にさせていただくとともに,写真,図表を引用させていただいた.これらの先生方に心から感謝の意を表する次第である.
 2009年1月
 著者一同

第2版の序
 ヒトゲノムの解読が完了した現在,まさに「生命科学」の時代にあり,そしてポストゲノムの段階に入っている.私たちに直接かかわる医学,医療の研究技術の開発は急速な発展をとげて,将来医療に従事しようとする皆さんには,基礎科目である「生命科学」は幅広い生物学・医学的基礎知識と高度な専門技術が求められる時代となってきている.
 平成13年度に,全国の医学,歯学の共通教育の新カリキュラムの「準備教育モデル・コア・カリキュラム」が提示され,今後の医療系教育の基準として重要視されている.生命科学の基礎としての生物学の教育目標は,科学的・論理的思考力を育て,人間性を磨き,自由で主体的な判断と行動を培うと同時に,生命倫理・人の尊厳を幅広く理解することである.さらに国際化および情報化社会に対応できる能力を養成することをふまえて,科学的思考の基盤や人間生活へのかかわりを教科内容に盛り込むこととした.
 また,高等学校の教育の多様化により,新入生の生物学に対する基礎知識も幅広くなった.本書は,未修得のレベルの学生さんにも理解できるように配慮しながら,内容は幾分,専門的な分野にまで言及して作成したものである.用語は,生命科学の分野で汎用される「岩波生物学辞典第4版」(1996年)を基本用語として使用し,医療系の専門用語は括弧内に提示するよう努めた.
 本書は生命の起原から生命体の構成物質,生命の単位としての細胞機能,個体の構成と機能,生命活動とエネルギー,細胞の増殖の基本からヒトの配偶子形成,ヒトの遺伝を中心として,メンデルの法則とDNAのはたらき,ヒトの染色体と遺伝子,遺伝様式,初期発生の基本からヒトの器官形成へ,ヒトへの進化,さらに人間活動と地球環境などを中心項目として,理解しやすいように前著の章立てを大幅に整理し組み換えを行った.形態やその構造の変化を理解してもらうためには図や写真が役立ち,模式図だけでなく光学顕微鏡,電子顕微鏡写真ものせて補足するように努め,また説明も図と対照的に記した.コラムは学習者が広く,深く生物学に触れる参考知見になるようにし,そして各章ごとの目標とするまとめと問題を挙げたので,主体的学習に努めてほしい.
 限られた紙数の中で,生物学の基礎から学び,専門科目の生命科学関連科目を消化することができるように,巻末の参考図書などを利用してさらに深めていってほしいと思う.
 本書を発刊するにあたり,渡辺強三名誉教授(鶴見大),西川純雄助教授(鶴見大),高浜秀樹教授(大分大),木下勉教授(関西学院大),外村晶名誉教授(東医歯大),阿部道生博士(鶴見大)からは貴重な写真とご教示をいただいた.その他,多くの内外の高著を参考にさせていただくとともに,写真,図表を引用させていただいた.これらの先生方に心から感謝の意を表する次第である.
 2006年3月
 著者一同

第1版の序
 21世紀に入って,ヒトゲノムの解読がほとんど終了するなど,生命科学,医学,医療の研究や技術の開発は,急速な発展をとげている.そして,医療に携わる者には,いっそうの幅広い生物学や医学的基礎知識と高度な専門技術が求められる時代となってきている.新カリキュラムにおける生命科学の基礎科目の教育目標は,科学的,論理的思考力を育て,人間性を磨き,自由で主体的な判断と行動を培うと同時に,生命倫理や人の尊厳を幅広く理解していくことである.さらに国際化および情報化社会に対応できる能力を養成することである.これらをふまえて,科学的思考の基盤や人間生活へのかかわりを教科内容に盛り込むように努めた.
 生物学の目標であるヒトを含む生物の生命現象の解明は,広く各分野の境界をとりはずした生命科学と呼ばれる学問分野で行われ,その研究成果は基礎医学上の未知の諸問題の解決に貢献し,またわれわれの日常生活にも身近に影響を及ぼしている.このような新時代に医療に従事しようとする皆さんには,今後,人間が多様な生物と釣合いながら,共生していくためにも広い視野をもって生物学の勉学に励んでいただきたい.
 高等学校の教育が多様化されてから,新入生の生物学に対する基礎知識も幅広くなったが,未修得の学生さんにも理解できるように配慮して教科書を作成した.
 本書は生命の起源から生命体の構成物質,生命の単位としての細胞,個体の構成と機能,初期発生,遺伝情報,ヒトの進化などを中心項目として,理解しやすいように前著の章だてを整理し組み換えをおこなった.顕微鏡で観察する時間の少ない皆さんが,形態やその構造の変化を理解するためには図や写真が役立ち,模式図だけではなく電子顕微鏡写真ものせて補足するようにつとめ,説明も図と対照的に記しておいた.また,生物学の各分野の研究について歴史的事実を取り上げたのは,その研究に関わった人達のことをできるだけ知ってもらいたいためである.コラムは学習者が広く,深く生物学に触れるための参考になるように構成した.そして各章ごとの目標とするまとめと問題を提示した.今後とも,多くの方々からのご意見や誤りをご指摘いただければ幸いである.
 限られた紙数の中で,生物学の基礎を学び,生命科学に各関連する専門科目を消化するためには巻末に示した参考図書などを利用してほしい.
 本書を刊行するにあたり,西川純雄助教授(鶴見大学歯学部),高浜秀樹教授(大分大学福祉学部),木下勉教授(関西学院大),外村晶元教授(東医歯大)から貴重な写真とご教示をいただいた.その他,多くの内外の高著を参考にさせていただくとともに,写真,図表を引用させていただいた.また,本書の刊行にあたっては,医歯出版編集部の皆さんに長期間にわたるご尽力とご配慮をいただいた.ここに,これらの方々に心から感謝の意を表する次第である.
 2001年4月
 著者一同
 はじめに
第1章――生命を支える物質
 I.生体を構成する元素
 II.細胞を構成する物質
  1―水
  2―タンパク質
  3―炭水化物(糖質)
  4―脂質
  5―核酸
   [1]DNA
   [2]RNA
  6―無機物(無機塩類)
  まとめと問題
第2章――生命の単位
 I.細胞の構造と機能
  1―ウイルス
  2―原核細胞
  3―真核細胞
   [1]細胞膜(原形質膜,形質膜,生体膜)
   [2]核
   [3]小胞体
   [4]ゴルジ装置(体)
   [5]リソソーム(水解小体)
   [6]ミトコンドリア
   [7]色素体
   [8]細胞骨格
   [9]中心体と線毛
  まとめと問題
  コラム―細胞構造の観察
  コラム―生物の多様性と分類(種と学名)
第3章――ヒトの体の構成と機能
 I.体の構成と機能
  1―組織
   [1]上皮組織
   [2]結合組織
   [3]筋組織
   [4]神経組織
  2―器官とその機能
 II.内部環境の調節
  1―恒常性
  2―体液と循環器系
   [1]体液
   [2]心臓と血液循環
  3―神経系による調節
   [1]神経細胞
   [2]神経系の種類
  4―内分泌による調節
   [1]ホルモンによる生体機能の調節
   [2]内分泌器官とホルモン
 III.生体の防御(免疫)
  1―免疫系を担う細胞
  2―自然免疫
  3―獲得免疫
   [1]体液性免疫
   [2]細胞性免疫
   [3]MHC,抗体,T細胞受容体(TCR)の多様性
  まとめと問題
  コラム―体液[血液]
  コラム―リガンドと受容体
  コラム―抗体遺伝子の多様性獲得
第4章――生命活動とエネルギー
 I.酵素
  1―基質特異性
  2―温度・pHの影響
  3―基質濃度と反応速度
  4―補助因子
  5―酵素反応の調節
 II.共通のエネルギー源
 III.光合成
  1―光化学反応・電子伝達系
  2―カルビン・ベンソン回路
 IV.呼吸
  1―嫌気呼吸
  2―好気呼吸
   [1]クエン酸回路
   [2]電子伝達系
  まとめと問題
第5章――細胞の増殖・生殖細胞の形成
 I.細胞周期
  1―間期
  2―細胞周期の調節
  3―分裂期
   [1]体細胞分裂
   [2]減数分裂
 II.ヒトの配偶子形成
  1―精子形成
  2―卵形成
  まとめと問題
  コラム―キアズマと遺伝子組換え
第6章――遺伝―ヒトを中心に
 I.メンデルの法則
  1―メンデルの法則の要約と当時の遺伝についての考え方
  2―遺伝子型とパネットの方形
  3―メンデル以降に発見された遺伝現象
 II.遺伝情報と形質の発現
  1―遺伝子の本体
  2―DNA・RNAのはたらき
   [1]遺伝情報
   [2]DNAの複製
   [3]RNA
   [4]遺伝暗号
   [5]タンパク質合成
 III.ヒトの染色体と遺伝子
  1―ヒトの染色体
  2―ヒトの遺伝子
  3―形質の発現における遺伝子と染色体の役割
 IV.ヒトの遺伝性疾患の分類と発生頻度
  1―染色体異常疾患
   [1]常染色体異常
   [2]性染色体異常
  2―単一遺伝子形質
   [1]ABO血液型の遺伝
   [2]フェニルケトン尿症
   [3]血友病
  3―多因子遺伝形質
  4―ミトコンドリア遺伝形質
  5―ゲノムの刷り込み
   [1]配偶子形成過程での刷り込み
   [2]発生過程での刷り込み―X染色体不活性化
  6―遺伝子変異,染色体異常,ゲノムの刷り込みなどが複合して発症する疾患
   [1]隣接遺伝子症候群
   [2]悪性腫瘍細胞の発生
   [3]性の分化異常
  まとめと問題
  コラム―遺伝用語のあいまいさ
  コラム―配偶子形成過程でのゲノムの刷り込みの重要性
  コラム―三毛猫の遺伝学
第7章――受精・発生・分化
 I.生殖
 II.受精
  1―精子の侵入
  2―多精拒否
  3―精子と卵の融合と接合子形成
 III.発生・分化のしくみ
  1―割球
  2―胞胚形成から胚葉形成
   [1]中期胞胚変(遷)移
   [2]母性胚性変(遷)移
  3―器官形成
  4―アポトーシス,プログラム細胞死
  まとめと問題
  コラム―両生類卵表面の変化
  コラム―動物の方向用語
第8章――ヒトの初期発生
 I.受精卵から個体へ
  1―卵割と初期胚
  2―胚盤胞(胞胚)の形成と着床
  3―内細胞塊の分化と胚葉の形成
  4―胚葉の分化
   [1]外胚葉の分化
   [2]神経堤(冠)
   [3]中胚葉の分化
   [4]内胚葉の分化
  5―子宮粘(内)膜と胎盤
   [1]脱落膜
   [2]胎盤の構造と機能
  6―胎児の成長と発育
   [1]第I期:前胚子期
   [2]第II期:胚子期
   [3]第III期:胎児期
  まとめと問題
  コラム―神経堤の分化
  コラム―遺伝子工学から生体組織工学
  コラム―出生前診断
第9章――ヒトへの進化
 I.化学進化
 II.生命の誕生
 III.生命システムの進化
 IV.進化の事実と証拠
  1―分類学・形態学的な研究
  2―比較発生学的な研究
  3―比較生理学,生化学的な研究
 V.進化とその要因
  1―進化のしくみ
 VI.ヒトの進化
  1―アウストラロピテクス属(猿人)
  2―ホモ属
  3―ヒトの特徴
  まとめと問題
  コラム―ヒトと類人猿の染色体
  コラム―mtDNAと人類の系統樹
第10章――生物と地球環境
 I.生態系
  1―生態系の構造
   [1]個体群生態学
   [2]群集の生態学―群集を構成する生物
   [3]生物間の相互作用
  2―物質の循環
   [1]水循環
   [2]炭素循環
   [3]窒素循環
   [4]リン循環
  3―動物の行動
   [1]生得的行動
   [2]学習
 II.人間の活動と森林の破壊
 III.大量生産・大量消費による地球環境の破壊
 IV.持続可能な発展への行動
 V.科学技術は人間を幸せにするか
  まとめと問題
  コラム―ヒト個体群の生態学
  コラム―花粉分析
  コラム―生物環境年表

 参考文献
 索引