やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

原著序文
 医学の進歩と同様にリハビリテーション医学も急速に進歩している.近年,新しい治療法,治療機器,薬物治療が紹介されているが,しっかりとした評価がされているものは少ない.伝統的なリハビリテーションに関しても科学的根拠が欠けていることが多いのが現状である.
 それゆえに,医療費の観点からも治療的介入の効果やその対費用効果がさらに厳しく求められており,それに答える必要がある.エビデンスに基づくリハビリテーションを求める傾向は適切なアウトカム評価の使用を必要不可欠なものとしている.
 ADLや痙縮の評価に比べて,上肢運動機能の評価は,まだ臨床の場でルーチンで行われていない.この領域の適切な評価の使用に関する情報もトレーニングの場も少ない.
 プラッツ博士らが記した本書『上肢リハビリテーション評価マニュアル』は3つの評価法;Fugl-Meyer test,Action Research Arm test(ARAT),Box and Block testの概要を示すともに,非常に優れたマニュアルとなっている
 最初に各評価法の特徴を示し,その基礎となる概念や理論を示し,テストの評価方法や特性を簡便にまとめている.使用可能な詳細なマニュアルがない評価方法が多いが,本書により,Fugl-Meyer test,Action Research Arm test(ARAT),Box and Block testの3評価方法の詳細なマニュアルが得られた.本マニュアルは評価開始肢位や患者への細かな指示の仕方,採点の指針も含んでいる.なお,本マニュアルはEuropean ComisionがスポンサーとなっているDRAMA(Developments in Rehabilitation of the ARM)プロジェクトを通じて開発された.
 本マニュアルを通じて,多施設でも標準化や信頼性の確立された評価が可能となった.本書はわかりやすく書かれ,イラストも非常に役立つ.それゆえ,私は多くの読者が,本書によりアウトカム評価を改善し,最終的には神経リハビリテーションの治療的効果を改善させることを期待する.
 カール・ハインツモーリッツ
 国際ニューロリハビリテーション学会
 ヨーロッパ地区副理事長
 ベルリンにて 2005年3月

監訳者序文
 近年,中枢神経障害における可塑性が注目され,その結果,脳卒中片麻痺患者においても上肢機能障害へのアプローチが数多く報告されており,世界的には機能障害への治療的介入が注目を集めている.
 翻って,わが国でも世界に引けをとらない多くの先端的な治療的介入の研究開発が行われている一方,いわゆるADL評価のみをアウトカムとして,専ら上肢機能障害に対しては代償的手段が中心となっている傾向もまだ認められる.
 治療にはアウトカム評価が必ず必要であり,その評価は,目指すものを測定できなければ意味がない.機能障害へのアプローチに対しては機能障害の評価方法が必要である.
 本書は,現在世界的に上肢機能障害の評価法として普及している3つの評価法であるFugl-Meyer test,Action Research Arm test(ARAT),Box and Block testのマニュアルである.臨床の場での有用性はもちろん,研究の場でも,標準化され,多施設で信頼性の高い評価を可能とする本マニュアルは非常に有用なものであろう.
 本書の著者であるプラッツ博士は,人柄はもちろん,学術的にも非常に優れ,現在の上肢リハビリテーションの世界を牽引するリーダーの一人である.私も2000年にクリニックベルリンのカール・ハインツモーリッツ教授のもとで短期研修した際に非常にお世話になっている.個人的な縁もあり,今回本書を翻訳できたことは私にとっても大変幸せなことであった.
 なお,本書の翻訳にあたり,慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室の里宇明元教授よりいただきましたご指導に深謝いたします.また,本書の刊行にあたり多大なご協力を賜りました医歯薬出版編集者をはじめとする諸氏に感謝いたします.
 慶應義塾大学医学部
 リハビリテーション医学教室講師
 藤原俊之

日本語版出版に際しての序文
 標準化された評価はいわゆるゴール志向型リハビリテーションに必要不可欠なものである.上肢リハビリテーションに関して言うと,世界的に高い注目を集めている評価法は本書で述べているFugl-Meyer test,Action Research Arm test,Box and Block testである.Fugl-Meyer testの上肢項目は選択的な運動の能力,体性感覚,関節可動域,疼痛という観点から機能障害を評価している.本評価法は床効果や天井効果が少ないことより,重度から軽度の機能障害まで適用が可能である.この評価を使うことにより,実際の日常生活での機能には変わりはなくとも上肢機能の変化を記録できる.Action Research Arm testとBox and Block testは一側上肢での機能的制限を評価している.握ることしかできないような場合でも,上肢機能の評価が可能で,経過に伴う改善を評価することができる.
 国際的な臨床評価の結果からみると,Fugl-Meyer test,Action Research Arm test,Box and Block testの3つの評価はアウトカム評価として使うことができると思われる.本書はこの3つの評価法の評価方法ならびに採点方法のマニュアルである.このようなガイドなしに上肢機能の評価を多施設にわたって比較可能なかたちで行うことは困難であるし,そこで得られた結果の比較も困難である.ヨーロッパ・タスクフォースでは,多施設間での標準化された評価法の導入が必要であり,それを促進するという国際的な展望により,このマニュアルを開発した.
 著者の一人として,本書が日本で翻訳され使用されることを非常にうれしく思います.そして読者のみなさんが日々の診療に本書を役立ててくれることを願っております.
 トーマスプラッツ
 医学博士
 Ernst-Moritz-Arndt大学神経科学部門教授
 BDH-Klinik Greifswald
 ニューロリハビリテーションセンター・脊髄損傷ユニット
1. オーバービュー
2. はじめに
3. 上肢機能評価の特徴
 3.1. Fugl-Meyer testとは
  3.1.1. 概念と理論
  3.1.2. 解説
  3.1.3. 方法
  3.1.4. 採点
  3.1.5. テストの特性
  3.1.6. 目的
  3.1.7. コメント
 3.2. Box and Block testとは
  3.2.1. 概念と理論
  3.2.2. 解説
  3.2.3. 方法
  3.2.4. 採点
  3.2.5. テストの特性
  3.2.6. 目的
  3.2.7. コメント
 3.3. Action Research Arm testとは
  3.3.1. 概念と理論
  3.3.2. 解説
  3.3.3. 方法
  3.3.4. 採点
  3.3.5. テストの特性
  3.3.6. 目的
  3.3.7. コメント
4. 上肢機能評価スケールのマニュアルに基づいた使用に関するテスト特性
 4.1. 信頼性と妥当性
 4.2. 信頼性
 4.3. 妥当性
 4.4. 要約
5. 上肢機能評価スケール使用の手引き
 5.1. テストに際しての一般的な注意
  5.1.1. 開始肢位
  5.1.2. 一般的な評価の手引き
  5.1.3. 患者への指示
  5.1.4. 採点に際しての一般的な手引き
 5.2. Fugl-Meyer test上肢項目マニュアル
  5.2.1. 一般的注意
  5.2.2. Fugl-Meyer testの方法および採点
 5.3 Action Research Arm testマニュアル
  5.3.1. 一般的注意
  5.3.2. Action Research Arm testの方法および採点
 5.4 Box and Block testマニュアル
  5.4.1. 特別な注意
6. 文献
7. 謝辞
8. 評価シート