やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監訳者の序
 近年,日本女性骨盤底医学会,日本骨盤臓器脱手術学会および日本排尿機能学会などウロギネコロジーの分野を取り扱う学会において,理学療法士の参加が目立つようになってきています.それは,これらの学会において,尿失禁および骨盤臓器脱に対する骨盤底リハビリテーションに関するセッションが増えているためだと思います.実際に理学療法に関する学会においても,骨盤底リハビリテーションに関するシンポジウムなどが開催されるようになり,この分野に興味をもつ理学療法士が増加していることを実感します.
 筆者のようなウロギネコロジーを専門とする医師にとっては,骨盤底リハビリテーションは,治療の選択肢の1つとしてなくてはならないものです.欧米では理学療法士が中心となり,産後および中高年女性の骨盤底機能低下に対して積極的に骨盤底リハビリテーションに取り組んでいます.一方,わが国では骨盤底リハビリテーションの分野は,どちらかといえばマイナーな分野で,あまり注目をあびていませんでした.亀田メディカルセンターでは,何とかしてこの状況を改善したいと考え,理学療法士とともに積極的に骨盤底リハビリテーションを提供してきました.その取り組みの中で感じたことの1つが,骨盤底リハビリテーションを学ぶ際に,この分野を詳細に解説している日本語の教科書がないということでした.そこで,この分野の最も著名な書籍で,欧米では教科書としても使用されている“Evidence-based Physical Therapy for the Pelvic Floor:Bridging science and clinical practice,2nd ed.”を日本語訳し,出版しようということからわれわれの取り組みが始まりました.その思いから紆余曲折を経て,今回ようやく出版にこぎつけることができたのは監訳者としてこのうえない喜びです.
 本書は,骨盤底機能低下に対する骨盤底リハビリテーションについて,科学的エビデンスと臨床実践とを橋渡しすることに焦点を当てて書かれています.それぞれの章において,基礎研究からランダム化比較試験まで幅広く科学的エビデンスを取り入れ,エビデンスに基づいた骨盤底リハビリテーションを解説しています.本書はまさに,骨盤底リハビリテーションを本格的に学びたい理学療法士,看護師,また医師にとって,豊富なエビデンスに基づいた実践的なガイドラインとなりうると考えます.
 本書を利用して,さらに多くの理学療法士が骨盤底リハビリテーションに興味をもち,この分野の裾野を広げることを期待します.さらに最終的には,骨盤底機能の低下によりさまざまな症状に悩まされる患者に恩恵がもたらされることを心から期待します.
 翻訳には,医師,理学療法士など多くの方に多大な貢献を賜りました.心から感謝申し上げます.また,翻訳の機会をいただくとともに,出版と編集に多大な労をとっていただいた医歯薬出版の塗木誠治氏,平林 幸氏ほか担当各位に心から感謝の意を表します.
 2017年9月
 野村 昌良


監訳者の序
 わが国で初めて「骨盤底の理学療法」に関係する翻訳書が出版されることになりました.本書は,Kari Boを中心として世界的にもこの分野のパイオニアである専門家が骨盤底の理学療法についてエビデンスに基づき執筆した“Evidence-based Physical Therapy for the Pelvic Floor:Bridging science and clinical practice,2nd ed.”を翻訳したものです.翻訳にあたっては,医師にお願いした章以外では,日頃より臨床あるいは教育で活躍され,日本理学療法士学会の中に位置する「ウィメンズヘルス・メンズヘルス理学療法部門」の中心的役割を担っている理学療法士の先生方にお願いしました.
 わが国においては2016年度より「排尿自立指導料」が制定され,医師,看護師,理学療法士により構成される排泄ケアチームによる下部尿路機能障害に対するアプローチの重要性が明確化されました.この制定より,この領域に関連する医師,看護師が在籍する病院などにおいては,良質な医療の提供だけでなく排泄自立指導料の算定の点からも,チーム医療の一員として理学療法士への期待が高まってくることが予想されます.現時点で推奨されるエビデンスに基づく骨盤底の理学療法の評価方法と介入方策について理解し,実施できることが今後臨床現場で求められると考えられます.このような状況のなか,骨盤底の理学療法のエビデンスが凝縮されている本書が翻訳出版されたことは非常にタイムリーであると感じています.
 本書は,第1,2章では,骨盤底機能障害のための理学療法の概要ならびにエビデンスについて,第3,4章では,骨盤底の理学療法を提供するうえで必要不可欠な機能解剖学,神経解剖学,神経生理学について,第5章では,骨盤底筋の機能および筋力の各種評価方法について,第6章では,骨盤底筋の運動学習と筋力トレーニング方法について紹介されています.また,第7〜9章では,性別特有あるいは共通する骨盤底機能障害について,第10〜13章までは,対象者特有の骨盤底機能障害とそれに対する理学療法のエビデンスについてまとめられ,最後に第14章では,今後わが国でも独自に作成する必要があると考えられる理学療法の診療ガイドラインの作成に触れた内容で構成されています.多くの理学療法士が本書を参考に骨盤底の理学療法に興味を抱き,臨床で活躍されることを願っています.
 最後に,監訳をお引き受けいただいた亀田メディカルセンターウロギネコロジーセンターのセンター長・野村昌良先生,本書の作成を推進した名古屋大学大学院医学系研究科の井上倫恵先生,さらには監訳の機会を与えていただいた医歯薬出版株式会社に感謝いたします.
 2017年9月
 鈴木 重行


推薦の序
 Kari Bo,Bary Berghmans,Siv MorkvedおよびMarijke Van Kampenによる優れた書籍“Evidence-based Physical Therapy for the Pelvic Floor:Bridging Science and Clinical Practice”第2版の推薦文の執筆依頼をいただいたのは喜びであり,また光栄なことです.
 本書の重要な点は,骨盤底機能障害の患者にかかわるすべての医療者のために,エビデンスに基づく診療と推奨を示していることにあります.
 とくに,この最新版は,女性と男性の下部尿路機能障害,性機能障害,便失禁,および骨盤痛のエビデンスに基づく理学療法を解説した新しい章を設けることで,成功しているといえます.
 骨盤底機能障害の治療の第一選択として骨盤底筋トレーニングが推奨されますが,その最善の提供方法として教育と訓練が不可欠であり,本書はそのエビデンスと推奨を示しています.
 それぞれの章は国際的に著名な専門家により執筆されており,読者は提供された情報の質に感銘を受けることでしょう.
 チャレンジングな臨床課題である小児や高齢者のような特定の患者に関すること,骨盤底機能の問題がパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があるアスリートの骨盤底機能障害の管理に関することが述べられていることは好ましいことです.
 予防はおそらく治療よりも重要ですが,妊娠と出産が骨盤底にどのように影響し,骨盤底機能障害をどのように予防できるかの理解についてよく解説されています.
 本書は,理学療法士だけでなく,学生,専門看護師,泌尿器科医,消化器外科医,そしてこれらの深刻な問題を抱える患者を管理するすべての人にとって貴重な参考書になりうるでしょう.したがって私は本書を強く推薦します.
 Professor Robert Freeman,MD,FRCOG


推薦の序
 エビデンスに基づいた骨盤底の理学療法について,この重要な書籍の第2版の推薦文を執筆することは非常に喜ばしいことです.本書は,この分野で活躍する多くの著名な専門家によって書かれており,主題である骨盤底の理学療法の包括的かつ構造化された概要が述べられています.基本的な原則として特に重要な点は,データのランダム化比較試験およびシステマティックレビューによるエビデンスの評価を行い,かつ女性の骨盤底の機能解剖を解説しながら,骨盤底の神経解剖学と神経生理学,およびこれが排尿系と排便系の構造とどのように相互作用するかということについて書かれていることです.
 骨盤底筋の機能を正確に評価するために,解剖学的な障害を明確にすることが必須であり,詳細に解説されています.次の重要な点は,構造と機能を明確にすることで,男性と女性の両方で骨盤底の機能障害と疾患を関連づけていること,また,しばしばみられる排尿,排便および性機能の複雑な症状にどのように関連しているのかについて検討されていることです.
 骨盤底機能障害は女性において特に重要ですが,外傷後または手術後などの病状を有する多くの男性患者にも関連しえます.骨盤底機能障害は,小児や高齢者などの他の群でも起こりえます.高齢者だけでなく,神経原性障害のある患者については特に問題となり,またエリートアスリートのような患者においても,骨盤底の問題は強調されます.
 本書の優れた概要は,臨床的意義がある診療ガイドラインの作成の重要性をもって結論づけられています.
 私は,この分野で情報を得たい人のみではなく,専門家のための参考ガイドとして,非常に適切なこの素晴らしい書を強く推薦します.
 Professor Christopher Chapple,BSc,MD,FRCS(Urol),FEBU


推薦の序
 私の理学療法士の同僚であるKari Bo,Bary Berghmans,Marijke Van Kampen,SivMorkvedによる『Evidence-based Physical Therapy for the Pelvic Floor:Bridging science and clinical practice』の新版は,骨盤底機能障害の管理にかかわる理学療法士やその他の医療専門家に豊富な知識とその背景の情報を引き続き提供しています.2007年の初版が世界的に広く用いられていたことから,本書の改訂版の必要性を強く感じていました.骨盤底機能障害は,女性および男性に影響を及ぼす包括的な健康問題であり,世界中の女性の有病率は,ほぼ50%であると推定されています(Milsom et al.,2013).尿失禁は世界中の非常に多くの男女に影響を及ぼしており,同時に社会にとって大きな経済的負担を伴っています.したがって,この書籍のタイムリーな情報は大いに必要とされています(Milsom et al.,2014).
 本書の初版が出版されたときは,世界理学療法連盟(WCPT)が「エビデンスに基づく実践」に関する最初の原則宣言を採択してちょうど4年後でした.それ以来,私たちはポジションステートメント(position statement)を2回改訂しましたが,理学療法士は患者・クライアント,介護者,コミュニティの管理が最良のエビデンスに基づいている実践や確証を伝える責任があります.効果的でない,また,理学療法士には,安全でないことが示されている手法や技術を使用しない責任があります.したがって,エビデンスは,信念,価値観,および地域環境の文化的背景,ならびに患者・クライアントの好みを考慮に入れて,臨床経験と統合されるべきです.
 新版では,骨盤底の評価に使用される検査と手段およびさまざまな患者やクライアントの骨盤底障害の処置ためのエビデンスに基づいた介入をさらに洗練させ,発展させています.本書の根底にある哲学は,常にエビデンスに立ち返らなければならないということです.そのことにより,検査結果に伴った介入戦略を選択し,よりよく考え,適切な検査と手段を選択することで,思慮深い医療者になりえます.そのことは,私たちに臨床をサポートするエビデンスを伴った普及を維持することの重要性を示し,また,臨床を周知するという点でランダム化比較試験とシステマティックレビューの重要性を示しています.
 本書の内容領域は,科学を臨床実践に結びつけるために必要な情報の範囲に及んでおり,小児から出産可能な年齢,さらに高齢者までの年齢層を網羅しています.新版では,機能解剖学,神経解剖学および神経生理学,骨盤底機能および強さの測定,および骨盤臓器脱,骨盤底運動処方に関する科学を含んでいる.また別の章では,骨盤底機能障害,女性の骨盤底機能障害に対するエビデンスに基づいた理学療法,男性の骨盤底機能障害,および女性と男性の両方に影響を及ぼす骨盤底機能障害,神経学的障害やエリートスポーツ選手の管理のための理学療法の情報を含んでいます.したがって,理学療法の有効性がすべての臨床状況を通じて広くカバーされています.
 執筆陣には,骨盤底機能障害および特殊療法における第一線の人々が参集しています.執筆者は,理学療法,生体力学,疫学,運動療法,医学,看護,スポーツ科学,外科の経験者たちです.患者とクライアントにとって効果的なサービス提供のための学際的な実践モデルが明らかになっています.
 この最新版の“Evidence-based Physical Therapy for the Pelvic Floor:Bridging science and clinical practice”は,エビデンスに基づいた骨盤底の治療のための検査と介入という重要な面にかかわる学生,臨床医,および教員にとって選ばれるべき書籍であり続けることは間違いありません.本書はまさにこの領域の実践のための「ゴールドスタンダード」であるといえます.
 Marilyn Moffat PT,DPT,PhD,DSc(hon),GCS,CSCS,CEEAA,FAPTA
 President World Confederation for Physical Therapy
 Professor,New York University



 この改訂版を出版することは非常に大きな喜びであり,興奮しています! 本書が,骨盤底機能とその機能障害に興味をもつすべての理学療法士に手に取ってもらえることを願っています.本書の編集者は,臨床現場で25年以上の経験があり,骨盤底機能障害の予防と治療に関する研究を行っています.私たちの経験は,小児,女性,男性,妊娠中および出産後の女性,スポーツ選手,高齢者,特別な健康問題を抱える患者など,骨盤底の理学療法のほとんどの領域をカバーしています.加えて,スポーツ理学療法,神経学,リハビリテーション,筋骨格系,人間工学,運動科学,健康促進,臨床疫学,生体力学,モーターコントロール,ガイドラインの学習と実践など,理学療法の他の分野にも幅広い背景をもっています.
 骨盤底機能障害の予防と治療において,専門家が,患者の最大の利益のために独自のエビデンスに基づいて役割を果たすべき分野が多くあります.それを考えても,非常に多くの有力な,国際的に活動する臨床家,研究者,多くの専門職のオピニオンリーダーが本書の発行に参加してくれたことを大変誇りに思います.本書を,エビデンスに基づいた最新のテキストにするために費やした,献身的な貢献と時間,労力に心から感謝します.
 私たちは,本書が,骨盤底機能障害の理学療法の専門職にとって特別で重要な書籍となることを心から願っています.私たちが期待したように,理学療法士養成学校にとって本書は有用なようであり,世界中の図書館に収められています.さらに,本書が骨盤底の理学療法に関する大学院の研究の基礎となることを希望します.本書の筆者らによる多くの学問領域にわたる特徴が読者に反映され,看護師や婦人科医,泌尿器科医,一般開業医,さらに,保存的治療や骨盤底筋トレーニングに携わる他の医療従事者にも役立つことを私たちは願っています.
 医療専門職と同様に,骨盤底の理学療法に関する臨床実践は,小規模な実験的研究から臨床試験をとおして,臨床経験を基盤として構築されてきました.今日,臨床医は,十分な効果量(介入群の変化とコントロール群の変化との差)を示す質の高いランダム化比較試験(RCT)のプロトコルを構築することができるようになっています.PEDro(Physiotherapy Evidence Database,Sydney,Australia,www.pedro.org.au)によって素早く検索できることは,理学療法士が非科学分野から,強力な科学的基盤を有する職業に急速に変化していることを示しています.2013年11月には,理学療法分野のデータベースには,21,000以上のRCT,4,369件のシステマティックレビュー,473件のエビデンスに基づく診療ガイドラインがありました.骨盤底領域の予防と治療にはさらに多くの研究が必要であることを認識していますが,骨盤底筋トレーニングが腹圧性尿失禁と混合性尿失禁に効果的であることを示す65件以上のRCTがあります.したがって,適切な臨床実践のために,理学療法士は,臨床データによって支持されていない理論またはモデルを用いるのではなく,これらの研究のプロトコルに従って,個別の患者トレーニングプログラムを実施するべきです.さらに,優れた臨床実践は常に個別的なものであり,臨床経験や質の高いRCTの知識,患者の好みの組み合わせに基づくべきです.その次に,優れた臨床実践のためには,常に,尊敬,共感,強い倫理的根拠に基づくべきです.
 2001年,ウロギネコロジーの教授であるルイス・ウォール(Lewis Wall)は,国際ウロギネコロジー・ジャーナル(International Urogynecology Journal)で,医療革新に関する7つの段階について報告しました.
 1.有望な報告,臨床観察,症例報告,短い臨床シリーズ
 2.専門的かつ組織的なイノベーションの採用
 3.国民のイノベーションの受け入れ─それに対して州または第三者が支払うことになる
 4.教科書の中の標準的な手順(まだ批判的な評価はない)
 5.RCT!
 6.専門家による告発
 7.専門的サポートの腐敗,不信用
 Wallは,段階7が完了するまで,またはRCTが開始される前でさえ,その手順が,その後に進歩した新しい手順や方法にすでに付与されている可能性があると述べました.このサイクルは,効果,リスク因子または合併症について知らされていない患者に対して処方されている新しい方法および手順として継続されます.ほとんどの場合,患者は,提案された治療に科学的エビデンスがないという事実さえ知らないことも注目に値します.Wallのライフサイクルの記述は医療のイノベーションにとくに適用されますが,私たちは理学療法においても同様の精査と批判を適用します(Wall,2001)*.
 理学療法は,手術と比較して,重篤な副作用や合併症を生じることは滅多にありませんが,Wallの7段階は,理学療法の実践への影響を考えるうえでも非常に有用です.私たちは,長期的には,このような非科学的な進化が,患者,理学療法専門職,補償の責任者に損害を与えることがよくわかっており,懸念しています.とくに,代替的かつ実証済みの治療戦略に実際に利用できるエビデンスがすでにある場合に,そのようなモデル化されていないモデルや理論を,新しい介入を実施する背景として使用することは,好ましくない臨床実践とみなされなければなりません.したがって,本書が,骨盤底機能障害のすべての領域におけるエビデンスに基づく実践に向けた大きな一歩となることが私たちの希望です.
 これは,臨床実践を支援するためのコントロールされた研究がない場合や,わずかな/弱い場合には治療するべきではないということを意味するものではありません.しかし,私たちは,すべての理学療法士が,意見,理論,臨床経験,RCT以外の研究デザインの知識,質の高い研究の知識のレベルと価値を認識していることを誠実に信じています.提案された治療法は,質の高い研究に基づいているのではなく,その時点で利用可能な最善の知識に基づいていることを患者や他の当事者に公に説明する義務があります.専門家は,意見,臨床経験および理論を,質の高いRCTからのエビデンスと混同してはなりませんし,RCTで有効であることが証明されるまで,通常の臨床実践において新しいモダリティを使用するべきではありません.本書では,さまざまなレベルの知識とエビデンスを区別し,治療として推奨するための基礎となる研究の限界について明確にすることを最大限試みました.したがって,エビデンスの欠如のために説得力のない分野を除外しました.これらの領域は次のとおりです.
 ・腰痛および骨盤痛を予防/治療するための骨盤底筋トレーニングのコア安定性に対する役割または効果
 ・「機能トレーニング」の効果
 ・骨盤底機能障害の唯一の治療としてのモーターコントロールトレーニングの役割
 ・「過緊張骨盤底」の定義,評価
 ・骨盤底に対する身体姿勢の影響
 これらの分野については,最近,BoとHerbert(2013)によるシステマティックレビューが報告されています.結論としては,女性の腹圧性尿失禁のために,骨盤底筋トレーニングにとって代わる練習を支持するエビデンスはまだないということです.私たちの目標は,骨盤底の理学療法におけるすべての研究分野のエビデンスを更新し続けることです.したがって,本書では,質の高い研究に基づく知識をさらに成長させるために多くの分野を取り上げました.次の改訂版ではさらに多くの情報を掲載できることを願っています.
 本書に掲載されているエビデンスは,コクランライブラリーのレビュー,失禁に関する5つの国際コンセンサス会議,その他のシステマティックレビュー,最新のRCTに基づいています.しかし,これらの質の高いシステマティックレビューの結論は,筆者がどのようにリサーチクエスチョンを設定したか,どのタイプの研究を含むか,どのようなアウトカム測定方法を選択し,どのように分類したかの結果です.したがって,本書の結論が他の結論と必ずしも一致するわけではありません.本書の編集者の目標は,臨床に関連するリサーチクエスチョンのみを評価することです.さらに,研究の取捨選択の手順と戦略は,読者にとって理解しやすいものでなければなりません.
 能動的な運動は理学療法介入の核心です.受動的な治療は,機能しない筋を刺激して排尿筋過活動を抑制し,疼痛を管理して能動的な運動を可能にできます.次の文章はヒポクラテス(紀元前450年ごろ)からの引用であり,これはまさに理学療法の哲学といえます.
 「適度に体を使用し,慣れ親しんだ作業を行っていれば,体のすべての部分は,健康的でよく発達し,ゆっくりと年齢を重ねるが,体を使用せず怠惰に過ごしていると,病気がちで不完全に成長し,すぐに老けてしまう」
 患者に動機を与え,生涯を通じて運動や適合した身体活動を促進することが理学療法士の役割です.
 この刺激的で興味深い分野において,新入生が本書を通じ,患者の骨盤底機能障害を効果的に予防,評価,治療するための十分な指針を見つけることを願っています.しかし,まだ十分にテストされていない新しい理論やモダリティが批判されることも学ばなければなりません.経験豊富な理学療法士のために,臨床を支持・否定する最新のエビデンスを提供し,臨床の変化に影響を与えることや,より質の高い臨床研究プロジェクトを推進することを私たちは願っています.願わくば,あなたたちが,私たちがそうであったのと同様に本書を楽しめることを願っています.本書の執筆を通じて,私たちは多くの未解決の問題を認識し,対処する必要がある多くの新しい研究分野を特定することができました.研究に関心をもつ読者は,研究方法論(MScおよびPhDプログラム)の正式な教育を継続し,将来的に質の高い臨床研究に参加することをお勧めします.次の改訂版に向けて改善点などがありましたらご教示いただけますと幸いです.
 Professor Kari Bo
 Dr Bary Berghmans
 Dr Siv Morkved
 Professor Marijke Van Kampen
 監訳者・訳者一覧
 監訳者の序
 執筆者
 推薦の序
 序
第1章 骨盤底機能障害のための理学療法の概要
 (Kari Bo)
第2章 骨盤底に対する理学療法の介入効果に関するランダム化比較試験とシステマティックレビューの批判的吟味
 (Rob Herbert)
第3章 女性の骨盤底の機能解剖学
 (James A Ashton-Miller,John O L DeLancey)
第4章 骨盤底筋の神経解剖学と神経生理学
 (David B Vodusek)
第5章 骨盤底筋の機能および筋力の測定と骨盤臓器脱
 5.1 はじめに(Kari Bo)
 5.2 視診と触診(Kari Bo)
 5.3 筋電図(David B Vodusek)
 5.4 腟の収縮圧測定(Kari Bo)
 5.5 骨盤底筋筋力測定(Chantale Dumoulin,Melanie Morin)
 5.6 尿道内圧測定(Mohammed Belal,Paul Abrams)
 5.7 骨盤底筋と骨盤臓器脱評価の超音波(Hans Peter Dietz)
 5.8 正常および損傷された女性骨盤底筋のMRI(John O L DeLancey,James A Ashton-Miller)
第6章 骨盤底と運動科学
 6.1 運動学習(Kari Bo,Siv Morkved)
 6.2 筋力トレーニング(Kari Bo,Arve Aschehoug)
第7章 女性の骨盤底機能障害とエビデンスに基づく理学療法
 7.1 女性の腹圧性尿失禁
  有病率,原因と病態生理学(Jacques Corcos)
  生活指導(Pauline Chiarelli)
  膀胱トレーニング(Jean F Wyman)
  腹圧性尿失禁のための骨盤底筋トレーニング(Kari Bo)
  腹圧性尿失禁のための電気刺激(Bary Berghmans)
 7.2 女性の過活動膀胱
  過活動膀胱に対する骨盤底筋トレーニング(Kari Bo)
  過活動膀胱に対する電気刺激治療(Bary Berghmans)
 7.3 産褥期に関連する尿失禁(Siv Morkved,Kari Bo)
 7.4 骨盤臓器脱
  骨盤臓器脱の臨床評価(Matthew D Barber)
  ペッサリーを使用した予防と治療(Patricia Neumann)
  骨盤臓器脱の予防と治療のための骨盤底筋トレーニング(Kari Bo,Helena Frawley)
 7.5 女性の性機能障害
  評価(Alessandra Graziottin)
  治療(Alessandra Graziottin,Dania Gambini)
第8章 男性の骨盤底機能障害とエビデンスに基づく理学療法
 8.1 尿失禁と他の下部尿路症状(Marijke Van Kampen,Inge Geraerts)
 8.2 男性の性機能障害(Grace Dorey)
第9章 男女共通の骨盤底機能障害に対するエビデンスに基づく理学療法
 9.1 便失禁
  疫学,解剖,病態生理学およびリスク因子(Bary Berghmans,Esther Bols,Ylva Sahlin,Espen Berner)
  便失禁の性質と重症度評価(Bary Berghmans,Esther Bols)
  便失禁の保存的治療介入(Bary Berghmans,Esther Bols)
 9.2 骨盤底の痛みと過活動骨盤底(Helena Frawley)
第10章 小児における骨盤底の理学療法のエビデンス
 (Wendy F Bower)
第11章 高齢者における骨盤底の理学療法:どこにエビデンスがあるのか?
 (Adrian Wagg)
第12章 神経疾患に対する骨盤底の理学療法のエビデンス
 (Marijke Van Kampen,Inge Geraerts)
第13章 エリートスポーツ選手における骨盤底筋機能障害の予防と治療
 (Kari Bo)
第14章 診療ガイドラインの作成
 (Bary Berghmans,Erik Hendricks,Nol Bernards,Rob de Bie)

 索引