やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊によせて
 1987年2月に「義肢装具士法」が成立し,義肢装具士にとって切断者のリハビリテーション,義肢の製作技術に関する教科書が必要であるとの考えから,日本義肢装具学会の監修のもとに,1988年7月に『義肢学』を発刊した.それまで,義肢の製作適合に関する成書は,故飯田卯之吉氏の力作『義肢装具製作教程』があったが,必ずしも医学的リハビリテーションやリハビリテーション工学的な見地などを含めて,切断者のリハビリテーション全体を網羅したものではなかった.そこで,当時この分野で活躍されていた中島咲哉,青山孝氏をはじめ,鋤園栄一,田澤英二,植松茂夫,大坪政文,大石曉一,中礼光明,徳田章三氏など義肢装具士の先達の方々に就筆をお願いし,『義肢学』を出版することができた.この『義肢学』がこれまで義肢装具士の教育のみならず,義肢装具関係の専門職にとって大きな役割を果たしてきたことに改めて感謝申し上げたい.
 しかし,この発刊から22年を経過した現在,義肢をめぐる研究開発の進歩は著しく,切断術後のケア,上肢・下肢切断者のリハビリテーションの分野における作業療法士,理学療法士の参加によるチームアプローチの発展,電動義手の普遍化に向けての動き,大腿,下腿義足を中心とするソケット適合技術の進歩,ソフトライナーの開発と適応,そして膝・足継手などの多様な研究開発など,数多くの進歩が見られ,新たに『義肢学』を見直さざるを得なくなった.その内容の増加に対応するためは,到底『義肢学』一冊にまとめることが不可能であると判断し,まず,医師,看護師,理学療法士,作業療法士,義肢装具士などを対象とする基本的な教科書として『義肢学』第2版の発刊を行うこととした.
 一方,義肢装具士に特化した製作技術の教科書の必要性を感じ,従来の『義肢学』のなかに含まれていた義肢製作分野に関する項目を抜き出し,本書『義肢製作マニュアル』を発刊することにした.発刊に当たっては,一貫性を保つために分担執筆の形をとらず,これまで我が国の義肢装具士の教育をリードされてきた田澤英二氏に執筆をお願いした.ご存知のように田澤英二氏は,ニューヨーク大学で義肢装具士の資格を取られ,帰国後,我が国で初めて国立身体障害者リハビリテーションセンター内に設置された学院で義肢装具士教育の基礎を築かれ,その後,我が国で設立された多くの義肢装具士の教育施設の指導者を育てられた.POアカデミー(現日本義肢装具士協会)の初代会長を長く務められ,日本義肢装具学会会長の大任を果たされた.国際的にはISPO(国際義肢装具協会)の教育委員会で活躍され,現在もタイをはじめアジアの義肢装具士の教育に深く関わっておられる.
 本書では,田澤英二氏のこれまでの豊富な臨床経験を背景に,義肢装具士教育の基礎から,義肢装具の基本的な製作法および理念,アライメント,術直後ならびに仮義足作成前の簡易ソケット,筋電義手の仮組み立て,適合調整,完成までのプロセスなど,極めて具体的に,しかも最新の技術を駆使して細かく述べられている.我が国に初めてできた義肢装具士に対する製作マニュアルとなったことを心から感謝したい.
 2010年3月
 澤村誠志


 『義肢学』(医歯薬出版,1988)の改訂を行うに際し,その内容を2冊に分けて,ここ数年で大きく増加した義肢の新しいテクニックを記述できるようにした.基本的な概念に関しては『義肢学第2版』に記述し,義肢装具士教育の基礎となる,断端観察,採寸・採型,モデル修正,ソケット作製,アライメント,異常歩行を本書『義肢製作マニュアル』で細かく述べる.
 義足ソケットに関しては,切断部の解剖学的形状,機能を熟知することにより,ソケットデザインを頭に描くことができ,採型時の手技を確実に行うことができる.また,義肢を使用して得られるもっとも機能的で正常により近い歩容と安定性を生み出すために,ソケットを介した体重支持による力と歩行時における重心移動,また,それらを支持する床面からの反作用などを調和させ統合することが“アライメント”である.
 本書では義肢の基本的な製作法および理論について述べるが,そのなかでも義肢の基本的概念であり,義肢の適合を行ううえで重要な要因であるアライメント,つまり“ソケットと足部の相対的位置関係”について,とくに力学的側面からアプローチし,また,理解を容易にするためにソケットと足部以外に加味される要素で力学の関連の少ないものからスタートし,順序立てて述べることにする.
 「下腿義足とサイム義足」,「大腿義足と膝義足」のような関連性のあるものは,一つの力学を応用した考えを用いることによって理解しやすくなるので,以下のような順序で述べる.
 体重支持が踵骨でほぼ正常と同じようにでき,なおかつ,補足する義肢部分が最小限である足部義足を第一段階にとりあげた.次に,切断レベルの順序からすればサイム義足をとりあげるべきであるが,サイム義足は下腿義足の長断端の場合と同様のアライメントが応用できるので,下腿義足を先に述べる.同様に大腿義足のアライメントを理解したうえで膝義足に移行するほうが応用がきき,理解しやすい.大腿義足においての膝継手以下の関連は下腿義足で述べてあるので,膝継手という複雑な組み合わせを容易に把握しやすいという点からみても,この順序が適当である.もっとも多くの部分(足部,足継手,膝継手,股継手,ソケット)の組み合わせを必要とする股義足を最後に述べる.
 義手も前腕筋電義手製作のための基本的な概念は『義肢学第2版』に記してあるが,本書では筋電の検査,採型,仮組み立て,適合,調整と完成までを具体的に記載する.本来であれば,メーカーなり義肢装具士養成校にて研修なり実習を受けて製作することをすすめる.また,講習会受講後のリフレッシュ用にでも役に立てばと思っている.
 前腕筋電義手のテクニックはかなり完成されているが,上腕切断のための筋電義手や電動義手は必要とされるモーターコントロールと取得できる筋電サイトの数のバランスが設計に影響するので,今回のようなマニュアル形式で記してもどの程度の基礎知識を与えることができるのか不明だと考え,あえて紹介することをさけた.
 早期義足装着のなかでも,術直後の義肢装着の効果は50年近い臨床経験から証明されているが,日本の医療制度のなかでは保険適用対象ではなく,早期義足装着の医療的効果と金銭的な負担のバランスが微妙な立場となっている.今回は,術直後,ならびに仮義足作製前の簡易ソケット作製までも含めて記してある.
 2010年3月
 田澤英二
 発刊によせて
 序
I.足根中足義足
 1.採寸・採型・修正
 2.製作
II.下腿義足
 1.下腿切断の解剖学的所見
  1)関節の内外側の安定
  2)膝関節の屈曲伸展方向への機能
  3)下腿部の骨の形状と耐圧の関連
 2.義肢情報カード記入
  1)断端の状態
  2)断端の形状
  3)断端末の耐圧性
  4)皮下組織の状況
  5)皮膚のタイプ
  6)大腿部筋組織の状況
  7)膝関節の状況
  8)切断された長骨の状況
  9)疼痛
 3.PTBソケット採寸・採型
  1)採寸記録
  2)投影図
  3)その他の情報
  4)採型
   (1)マーキング
   (2)採型
   (3)陽性モデルの作製および修正
  5)ソケットのトリミングライン
 4.PTS(PTES)ソケット
  1)採型
  2)トリミング
  3)陰性モデルのチェック
  4)陽性モデルの作製
 5.KBMソケット
  1)採型
  2)トリミング
  3)陰性モデルのチェック
  4)陽性モデルの作製
 6.TSBソケット
  1)流体静力学的概念について
  2)TSBソケット採型(二段階採型)
  3)シリコーンライナー・他のライナーの概念
  4)機材を使用した採型方法
   (1)Icecast Compactを使用した採型方法
   (2)下腿サクションソケット採型
  5)ボリュームマネージメントツール
   (1)チェックソケットフィッティング確認方法
   (2)下腿サクションソケット
 7.ソケットの適合とアライメント
  1)ソケットの適合
  2)義肢のアライメント
   (1)アライメントの概念
   (2)各アライメントについて
   (3)正常歩行と重心移動について
   (4)アライメントと体重支持の分散
   (5)ソケットと断端にかかる圧力の関係
   (6)内側のアライメント
   (7)前後のアライメント
  3)下腿義足の組み立てとアライメント調整
   (1)ベンチアライメント
   (2)スタティックアライメントの調整
   (3)アライメントの不良により起こる異常(その原因と改善方法)
   (4)PTBカフベルトの機能と取り付け
   (5)ダイナミックアライメントの調整
   (6)アライメント以外による異常歩行
III.サイム義足
 1.採寸
 2.採型およびマーキング
 3.陽性モデル
  1)陽性モデルの製作
  2)陽性モデルの修正
 4.ソケット製作(無窓全面接触式二重ソケット)
  1)ソフトインサート製作
 5.プラスチック注型
 6.組み立て
 7.チェックアウト
  1)断端末支持の可能な場合
  2)断端末支持ができない場合
IV.大腿義足
 1.義肢情報カード記入
  1)断端の状況
  2)断端の計測
  3)坐骨結節直下でのソケット形状および周径の予測
   (1)コンプレッション値
   (2)ソケット断面形の設計
   (3)枠型製作
   (4)枠型の適合と確認
 2.採型
 3.ソケット製作
  1)ソケット
 4.アライメント
  1)大腿義足のアライメントの概念
  2)大腿義足の組み立てとアライメント調整
  3)スタティックアライメントの調整
   (1)ソケットの不良が原因で起こる異常
   (2)アライメントの不良により起こる異常
 5.坐骨収納型ソケット
  1)切断者の情報
  2)採寸
  3)採型
  4)陽性モデルの修正
  5)ベンチアライメント
  6)スタティックアライメント
  7)ダイナミックアライメント
   (1)外転歩行
   (2)体幹の側傾
   (3)ぶんまわし歩行
   (4)伸び上がり歩行
   (5)けり上げの不同
   (6)膝のインパクト
   (7)フットスラップ
   (8)過度の腰椎前彎
   (9)歩幅の不同
   (10)膝の不安定
   (11)過度の膝安定
   (12)踵接地時の回旋
   (13)内側ホイップ
   (14)外側ホイップ
 6.大腿義足の最終チェックアウト
  1)義足本体のチェック
  2)立位でのチェック
  3)座位でのチェック
  4)義足をはずしたときのチェック
V.膝義足
 1.ソケット
  1)ソケットデザインとその強度
  2)ソケットデザインの選択の基本
 2.採寸
  1)義肢情報カード記入
  2)採寸記録
  3)トレース
 3.採型
  1)マーキング
  2)採型ギプス
  3)陰性モデル修正
  4)ギプスソケットの適合チェック
  5)ソケット有窓部の採型
  6)基準線の設定
 4.陽性モデル
 5.ソケットの製作
 6.膝義足のアライメントの概念
 7.ベンチアライメント
  1)断端末支持
  2)坐骨支持
 8.チェックアウト
  1)ソケットのチェック
  2)アライメントのチェック
VI.股義足
 1.採寸
  1)義肢情報カード記入
  2)投影図の作成
 2.採型
  1)カナダ式ソケットの採型
  2)片側骨盤切除用ソケットの採型
 3.ギプスソケットによる適合チェック
 4.陽性モデルの製作
 5.股継手の位置
 6.プラスチックソケット
  1)樹脂注型の準備
  2)樹脂注型
 7.股義足のアライメント
  1)矢状面においての安定性
   (1)ベンチアライメント
   (2)骨格構造義足のベンチアライメント
   (3)片側骨盤切除用義足のアライメント
   (4)義足長について
 8.股義足の振り出しのための機械的機構
 9.股義足の歩行分析
  1)股義足の歩行
   (1)踵接地
   (2)足底接地
   (3)立脚中期
   (4)踏み切り
   (5)遊脚前期
   (6)遊脚後期
 10.股義足のチェックアウト(仮合わせ時に行う)
  1)立位におけるチェック
  2)座位でのチェック
  3)歩行時のチェック
  4)義肢除去後のチェック
VII.義手
 1.前腕義手
  1)採寸
   (1)義肢情報カード記入
   (2)断端の採寸
   (3)健側の採寸
  2)採型
   (1)長断端切断の場合
   (2)中断端切断の場合
   (3)極短断端切断の場合
   (4)ミュンスター式前腕ソケット
   (5)ノースウェスタン式前腕ソケット
  3)ワックスソケット作製
  4)ワックスソケットによるチェック
   (1)長断端切断の場合
   (2)中断端切断の場合
   (3)短断端切断の場合
  5)陽性モデル作製
   (1)長断端切断(仮軸を使用しない場合)
   (2)中・極短断端切断(仮軸を使用する場合)
  6)ソケット注型
  7)リストメタル設定
  8)外装
  9)上腕カフ作製
   (1)上腕三頭筋あて革
   (2)半カフ
  10)ハーネスおよびコントロールケーブルシステム
  11)チェックアウト
 2.上腕義手
  1)採寸
   (1)義肢情報カード記入
   (2)断端の採寸
   (3)健側の採寸
  2)採型
  3)ワックスソケット作製
  4)ワックスソケットによるチェック
  5)陽性モデル作製
  6)ソケット注型
  7)ターンテーブル設定
  8)外装
  9)ソケット前腕部の作製
  10)ハーネスおよびコントロールケーブルシステム
  11)チェックアウト
 3.肩義手
  1)採寸
   (1)義肢情報カード記入
   (2)投影図作製
  2)採型
  3)ワックスソケット作製
  4)ワックスソケットによるチェック
  5)陽性モデル作製
  6)ソケット注型
  7)上腕部作製
  8)外装
  9)ソケット前腕部作製
  10)肩継手
  11)ハーネスおよびコントロールシステム
VIII.前腕筋電義手
 1.患者の評価
 2.採型
 3.ギプス
 4.モデル修正
  1)懸垂とトリムラインの設置
  2)脱着のための開口
  3)骨突起部の除圧
 5.チェックソケット作製
 6.チェックソケットの評価とアライメント
 7.義肢製作法
  1)チェックソケット準備
  2)ソケットのラミネーション
  3)フレキシブルソケット
  4)前腕部
  5)部品の取りつけ
  6)最終組立
  7)コスメティックグローブ
 8.筋電の評価
 9.義肢の適合評価
 10.切断者のセラピー
 11.義肢の問題解消について
IX.術直後義肢
 1.手術前の準備
  1)医師が行うこと
  2)事前に義肢装具士が行うこと
 2.手術室での準備
 3.術直後義足の装着テクニック
  1)大腿切断
   (1)断端の準備
   (2)自己懸垂装置の装着
   (3)ギプス巻き
  2)下腿切断術直後
   (1)手術前の用意
   (2)手術室での準備
   (3)断端の準備
   (4)プラスチックキャスト
 4.第3回目の懸垂装置の方法
  1)断端の準備
 5.シリコーンライナーPOST-OP装着方法
 6.術直後義足の第二段階の簡易ソケット
  1)下腿義足
  2)大腿切断用簡易ソケット装着法