やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 独立行政法人 国立病院機構 相模原病院
 院長 越智 隆弘
 今回,「患者さんのための関節リウマチ治療ガイドライン」が発刊されたことは,医療の現場において,本当に画期的なことです.何年も前から厚生省(現在の厚生労働省)が考えていたことですが,日本リウマチ財団の企画により,やっと実現しました.
 当時の厚生省が考えていたのは,先ず,医師が共通して使う治療ガイドラインをつくることでした.昔から,自分の経験にもとづいた「私のやりかた」で日常の診療を続ける医師は多かったと思います.今は時代が変わり治療ガイドラインにもとづいた治療が求められるようになりました.そして,医師誰もが納得できる治療方針をまとめる目的で,厚生省研究班チームが作られ,医師向けの「エビデンス(科学的根拠)に基づく治療ガイドライン」が完成されました.それは,患者さんの普段の治療に当たるかかりつけ医と,ひどくなった時や手術の時などに治療に当たる大規模病院の医師とが共通の方針で協力して治療を進めやすいようにまとめられたものです.特に,各々の治療法を解説したうえでお勧めできる程度(推奨度)をAからDの4段階に分類して書いてあることは,今までの他の本に見られなかったことです.
 そのようにしてつくられた医師向け治療ガイドラインの内容を,患者さんのために分かりやすくまとめたのがこの本です.医師向けのガイドラインと,患者さん向けのガイドラインとを眺めながら,医師と患者さんが相談して,患者さんが納得できる治療方針を選べるようにまとめられたものです.医師の勧める治療法に対して,患者さんが「これは推奨度Dですから,こっちの推奨度Aの治療をお願いします」等といった会話が想像できます.患者さんが治療方針選択に参加する時代になったということです.
 よく言われる話ですが,関節リウマチの治療は四本柱から成っていると例えられます.先ず基本療法ですが,日常生活上の注意が第一です.精神的に不安定因子を除く,十分な睡眠をとるなど,どの疾患にも共通した注意です.夏にクーラーの冷たい風を直接受けないように,うつむいての読書,書字などを長く続けないように,重いものは手で持ち運ばずにキャリアーを用いるように,等々.また,炎症があって固くなりかけている関節を一日に一度は十分に動かすこと(エクササイズ)は大切です.これらにはエビデンスはありませんが大切なことです.その上に立つ治療の基本は薬物療法です.非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs),ステロイド薬,抗リウマチ薬(DMARDs),そして,最近話題の生物学的製剤などはどのように選択し,どのように使うのか.副作用の恐れはどの程度か.また,薬物療法を十分に行っても関節破壊が進む患者さんがいます.機能障害進行の中で,どのタイミングで手術療法を選択するのか.そして,どのようなリハビリテーション療法を続けてゆくのか.
 このようなことに関して,患者さんにも勉強していただく時代になりました.関節リウマチについての患者さん向けの情報誌はたくさんあります.必要に応じてそれらも参考にしてください.そして,診察を受ける時にはこの本をもって,積極的に治療方針検討に参加してください.今まで主治医にお任せであった関節リウマチの治療がはっきり分かってきて,積極的に,効率よく治してゆく気持ちが湧き上がれば,一層はやくよくなるでしょう.関節リウマチからの解放に向けて,一緒に頑張りましょう.
 はじめに
第1章 日常生活の注意とエクササイズ
 日常生活の注意が大切です
 自分でできるエクササイズ
第2章 関節リウマチの薬物療法
  関節リウマチという病気
  関節リウマチの治療の目標は?
  どんな薬が使われるか
  薬の使い方は変わってきた
  最新の治療薬「生物学的製剤」
  治療への取り組み方
 1 非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)
  NSAIDsはこんな薬です
  NSAIDsにはいろいろな種類があります
  効き目の現れ方はいろいろです
  いろいろな剤型があります
  COX-2選択的阻害薬ってどんな薬?
  NSAIDsをどう使うか
  副作用にはどんなものがあるか
  副作用の対策
 2 ステロイド薬
  こんな薬です
  どのような時に使われるか
  薬の使い方と量(用法・用量)
  副作用とその対策
 3 抗リウマチ薬(DMARDs)
  こんな薬です
  抗リウマチ薬の特徴
  抗リウマチ薬の選び方
  どんな薬があるか
 4 生物学的製剤
  こんな薬です
  どんな薬があるか
第3章 関節リウマチの手術療法
  手術療法の目標は?
  手術の優先順位は?
  手術のタイミング(手術できる条件)は?
  手術の方式はどうやって決める?
  こんな手術が行われます
 ●どんな時,どんな手術が必要? 1 肩から手まで(上肢)の手術
   関節リウマチではどんな障害が起こるか
   どんな時,どんな手術を行うか
   手術のポイントは?
  ・肩から手まで(上肢)の手術 1 肩関節の手術
   どんな障害があるか?
   どんな手術をする?
  ・肩から手まで(上肢)の手術 2 肘関節の手術
   どんな障害があるか?
   どんな手術をする?
  ・肩から手まで(上肢)の手術 3 手関節(手首の関節)の手術
   どんな障害があるか?
   どんな手術をする?
  ・肩から手まで(上肢)の手術 4 指の関節の手術
   “こわばり”に効果的なリハビリテーション
   指の変形はなぜ起こる?
   装具をつけて変形を予防する
   どんな手術をする?
  ・肩から手まで(上肢)の手術 5 腱鞘炎,腱断裂
 ●どんな時,どんな手術が必要? 2 足関節から股関節まで(下肢)の手術
   関節リウマチではどんな障害が起こるか
   どんな時,どんな手術を行うか
   手術のポイントは?
  ・足関節から股関節まで(下肢)の手術 1 足関節の手術
   どんな障害があるか?
   どんな手術をする?
  ・足関節から股関節まで(下肢)の手術 2 膝関節の手術
   どんな障害があるか?
   どんな手術をする?
  ・足関節から股関節まで(下肢)の手術 3 股関節の手術
 ●どんな時,どんな手術が必要? 3 頚椎の手術
   関節リウマチではどんな障害が起こるか
   予防はできる?
   治療法の選択はどうする?
   どんな治療を行う?
 ●どんな時,どんな手術が必要? 4 まとめ
   手術を受ける前に
第4章 リハビリテーションを積極的に行う
  リハビリテーションの重要性
  リハビリテーションの種類
 ●リハビリテーションの種類 1 理学療法
  物理療法
  運動療法
 ●リハビリテーションの種類 2 装具療法
  装具療法の実際
 ●リハビリテーションの種類 3 作業療法
  作業療法の目的は?
  作業療法はどのように行う?
  ADL訓練はどんなことを行う?
  自宅の改造が必要な場合も
  改造のポイントは?
  職業訓練
  自助具を活用する
  自助具のいろいろ

 ・索引