やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序
 「医療は人類の永遠のテーマであって,もう研究し尽くした,開発するものはなにもない,ということは将来ともあり得ない」と初版の序文に書いた.あれから7年半,医療の進歩は驚くばかりである.遺伝子診断の研究も寄与して「テイラード医療」なる言葉が医学誌に登場し,現実のものとなりつつある.また,「代替医療」も脚光を浴びている.医学と工学の共同研究の成果が開花しつつあるといえよう.「医用工学」の放射線医学に果たす役割はますます重要になっている.それにともなって,診療放射線技師の業務も高度化し拡大しつつあり,スーパーテクノロジストなる資格も検討されている.
 ほかに類書がなかったこともあり,本「医用工学」は幸いにして好評をいただき,改訂版を世に送ることができることを感謝したい.この10年ほどの間に病院の診察室や検査室で身近になった,骨密度測定装置,各種の光診断機器,内視鏡,質量分析計,遺伝子診断装置などを新たに取り上げた.また,診療放射線技師の担当である「眼底検査装置」は本講座第13巻「放射線診断機器工学」から本巻に移した.ご多忙のところ,執筆していただいた先生方に厚くお礼申し上げる.
 教室で教科書,研究室で参考書として使用していただき,いろいろな疑問点や改善項目をお寄せくださり,本書をより良いものにしていくことを切望しています.
 平成18年2月
 岡部哲夫


 医療は人類の永遠のテーマであって,もう研究し尽くした,開発するものはなにもない,ということは将来ともあり得ない.
 医用工学Medical Engineeringは,広く医療に通ずる科学・技術を研究し開発する学問である.最近,生体工学Biological Engineeringと接する境界も広がって,医用生体工学Bio-Medical Engineeringなる言葉も定着してきている.実際,日本ME学会の研究発表プログラムを見ても,生体現象,画像,計測,診断,治療,人工臓器,知能,ケアなどの膨大な分野・項目を網羅している.それで,医用画像や生体工学などを除く従来からの「医用工学」はsmall MEとよばれることがある.
 「医用放射線科学講座」に本巻「医用工学」を設けた理由は,医用放射線科学も広意義の「医用工学」に属しており,small MEとは姉妹の関係にあるからである.放射線技師はもとより,医用画像関連の技術者・研究者を目指す若い方々は,ぜひこの裾野の広い分野を豊かな知識の一つに加えていただきたい.それはけっして無駄ではないと確信している.
 本巻は,医用工学の基礎である電気・電子工学を第1章,また,自動制御とシステムの基礎を第2章,人工臓器と生体現象測定を第2章から第3章にかけて,血液・尿のin vitro検査を第4章とし,「医用工学」の全容を理解できるよう構成した.
 それぞれその道のベテランに多忙な時間をさいて執筆いただいた.発展しつつある新しい分野であり,項目・内容に欠落や異論は避けられないと思われる.ご指摘いただいて本教科書をさらによいものに育てていきたいと願っている.
 平成10年3月
 岡部哲夫
 春名正光
第1章 電気・電子工学
 1 電気回路(小島一彦)
  1.1 直流回路
   1.1.1 抵抗回路
   1.1.2 コンデンサ回路
   1.1.3 コイル回路
   1.1.4 直流電力
  1.2 交流回路
   1.2.1 単層交流
   1.2.2 3相交流
 2 電子素子・デバイス
  2.1 半導体
   2.1.1 半導体の性質
   2.1.2 pn接合
  2.2 ダイオード
   2.2.1 整流回路
   2.2.2 倍電圧整流
  2.3 トランジスタの原理と構造
   2.3.1 電流制御型トランジスタ(バイポーラ型)
   2.3.2 電圧制御型トランジスタ(ユニポーラ型)
   2.3.3 トランジスタの応用
  2.4 集積回路
   2.4.1 半導体集積回路
   2.4.2 薄膜集積回路
  2.5 レーザー,光ファイバー
   2.5.1 レーザー
   2.5.2 光ファイバー
 3 電子回路
  3.1 増幅回路
   3.1.1 基本構成
   3.1.2 基礎的事項
   3.1.3 直流増幅器の種類
   3.1.4 交流増幅器の種類
   3.1.5 増幅器の雑音
  3.2 発信回路
   3.2.1 調和発振器
   3.2.2 弛張発振器
  3.3 変調・復調
   3.3.1 変調方式
   3.3.2 復調方式
  3.4 パルス回路
   3.4.1 基本性能
   3.4.2 パルスの発生
   3.4.3 パルス回路の応用
  3.5 演算回路(アナログ)
   3.5.1 受動素子を用いた回路
   3.5.2 演算増幅器を用いた回路
  3.6 ディジタル回路
   3.6.1 論理演算
   3.6.2 基本論理回路
   3.6.3 ディジタル回路の応用
 4 自動制御(太田快人)
  4.1 はじめに
  4.2 制御系の表現
   4.2.1 ラプラス変換
   4.2.2 伝達関数
   4.2.3 周波数応答
  4.3 制御系の安定性
   4.3.1 入出力安定
   4.3.2 フィードバック系の安定性
  4.4 制御系の設計法
   4.4.1 過渡応答
   4.4.2 PID補償器
   4.4.3 位相遅れ要素,位相進み要素
第2章 医用電子機器
 1 概説(春名正光)
  1.1 医用工学機器の歴史とエレクトロニクス
  1.2 医用工学機器の分類と本章の構成
  1.3 生体信号の検出
  1.4 機器の安全性
 2 生体現象測定記録装置(伊原 正)
  2.1 血圧計
   2.1.1 血圧計測
   2.1.2 血圧の間接計測(非観血式血圧測定)
   2.1.3 血圧測定の誤差
   2.1.4 血圧の直接計測(観血式血圧測定)
   2.1.5 血管外血圧トランスデューサ
   2.1.6 血管内血圧トランスデューサ
   2.1.7 血圧トランスデューサの特性とダンピング現象
  2.2 心拍出量計
   2.2.1 心拍出量計測
   2.2.2 熱希釈式心拍出量計
   2.2.3 熱希釈法の原理
   2.2.4 その他の心拍出量計測
  2.3 血流計
   2.3.1 血流計測
   2.3.2 電磁流量計
   2.3.3 ドプラ血流計
   2.3.4 超音波位相差血流計
   2.3.5 その他の血流計測
   [談話室] 血液サラサラ度測定(太田雅也)
  2.4 脳波計(片山貴文)
   2.4.1 脳波計の測定原理
   2.4.2 脳波計の安全設計
   2.4.3 脳波の測定
   2.4.4 機器の構成
  2.5 心電計
   2.5.1 心電計の測定原理
   2.5.2 心電図の測定
   2.5.3 機器構成
  2.6 筋電計(伊東保志)
   2.6.1 骨格筋の構造と活動電位
   2.6.2 原理,構造
   2.6.3 筋電図導出法
   2.6.4 筋電図検査
  2.7 眼底検査装置(青木 貢,加藤康夫)
   2.7.1 装置の原理
   2.7.2 装置の操作法
   2.7.3 装置の構成・構造
   2.7.4 撮影例
   2.7.5 医学への応用
  2.8 骨密度測定装置(武田光弘)
   2.8.1 骨密度測定方法とその原理
   2.8.2 装置の原理と構造
   2.8.3 装置の構造
   2.8.4 臨床応用における利点と課題
  2.9 BMIと体脂肪率の測定(岡部哲夫)
   2.9.1 BMI
   2.9.2 体脂肪率
   2.9.3 インピーダンス測定
 3 生体磁気測定装置(塚田啓二)
  3.1 生体磁気とその測定技術
   3.1.1 生体の電磁気現象
   3.1.2 生体磁気の測定
  3.2 SQUID磁束計システム
   3.2.1 SQUID
   3.2.2 システム構成
  3.3 臨床検査応用
   3.3.1 心磁図
  3.4 脳磁図
 4 サーモグラフィ(満渕邦彦)
  4.1 サーモグラフィの原理
   4.1.1 赤外線サーモグラフィの原理
   4.1.2 液晶サーモグラフィ(コンタクトサーモグラフィ)の原理
  4.2 体表温の決定因子とその病態生理学的意味
  4.3 サーモグラフィ検査の特色
  4.4 サーモグラフィ検査による臨床診断
   4.4.1 脈管系疾患
   4.4.2 神経系疾患
   4.4.3 筋疾患
   4.4.4 皮膚疾患
   4.4.5 体内臓器疾患
   4.4.6 炎症性疾患
   4.4.7 悪性腫瘍
   4.4.8 泌尿器科疾患
   4.4.9 治療や薬剤投与の効果の判定
  4.5 サーモグラフィ診断における異常の検出および評価方法
   4.5.1 温度そのものの値による評価
   4.5.2 左右差の検出
   4.5.3 中枢側→末梢側における温度勾配による判定
   4.5.4 負荷試験およびサブトラクションサーモグラム
  4.6 サーモグラフィ検査における注意事項
   4.6.1 測定上の注意(物理学的条件)
   4.6.2 測定上の注意(生理学的条件)
   4.6.3 その他の注意
 5 光診断機器(春名正光)
  5.1 光診断の基礎知識
   5.1.1 光診断の特徴
   5.1.2 生体における光吸収と散乱
  5.2 パルスオキシメータ
  5.3 光トポグラフィ
  5.4 血圧計,血流計,体温計
  5.5 光トモグラフィ
   5.5.1 光拡散トモグラフィ
   5.5.2 光コヒーレンストモグラフィ
 6 内視鏡(谷井好幸)
  6.1 内視鏡の種類と原理
   6.1.1 内視鏡の種類
   6.1.2 内視鏡の原理
  6.2 治療,手術
   6.2.1 軟性鏡
   6.2.2 硬性鏡
  6.3 内視鏡の将来展望
 7 患者監視システム(森反俊幸)
  7.1 集中治療室の種類
  7.2 患者監視システム
  7.3 ICUにおける患者監視
  7.4 CCUにおける患者監視
  7.5 RCUにおける患者監視
  7.6 NCUにおける患者監視
  7.7 NICUにおける患者監視
第3章 医用分析機器
 1 生体試料の取り扱いと調整(宮城宏行,三村智憲)
  1.1 生体試料の採取
  1.2 血液の前処理
  1.3 分離,濃縮
   1.3.1 遠心分離
   1.3.2 透析
   1.3.3 濾過
  1.4 保存
 2 光学分析計(宮下文秀)
  2.1 屈折計
  2.2 紫外・可視分光光度計
   2.2.1 測定原理
   2.2.2 装置構成
  2.3 炎光光度計
   2.3.1 測定原理
   2.3.2 装置構成
   2.3.3 測定方法
  2.4 螢光光度計
   2.4.1 測定原理
   2.4.2 装置構成
   2.4.3 測定方法
   2.4.4 応用例
  2.5 赤外分光光度計
   2.5.1 測定原理
   2.5.2 装置構成
   2.5.3 応用例
  2.6 原子吸光光度計
   2.6.1 測定原理
   2.6.2 装置構成
   2.6.3 測定方法
   2.6.4 臨床検査などへの応用例
 3 臨床化学自動分析装置(三村智憲)
  3.1 自動分析装置の沿革と種類
   3.1.1 試薬の発展,無機反応から酵素法へ
   3.1.2 分析項目の拡大と試薬の高感度化
   3.1.3 精度の支配因子
  3.2 ディスクリート方式
   3.2.1 バッチ方式自動分析装置
   3.2.2 試薬パック方式
   3.2.3 遠心方式
  3.3 ドライケミストリィ式
 4 尿検査装置(山本博司)
  4.1 尿検査装置の種類
  4.2 尿試験紙法自動分析装置
  4.3 尿沈渣検査装置
 5 血液検査装置(白上 篤)
  5.1 血液検査装置の種類
  5.2 血球計数装置
   5.2.1 電気抵抗方式血球計数装置
   5.2.2 光散乱方式血球計数装置
  5.3 血球分類装置
   5.3.1 パターン認識方式血球分類装置
   5.3.2 フロー方式血球分類装置
  5.4 血液凝固測定装置
 6 免疫血清測定装置(間部杉夫)
  6.1 免疫血清測定装置の種類(免疫測定法の種類)
  6.2 ラテックス免疫測定装置
  6.3 免疫比濁測定装置
  6.4 ラジオイムノアッセイ装置
  6.5 酵素免疫測定装置
   6.5.1 ホモジニアスEIA
   6.5.2 ヘテロジニアスEIA
  6.6 発光免疫測定装置(化学発光免疫測定装置)
  6.7 螢光免疫測定装置
   6.7.1 螢光偏光免疫測定装置
   6.7.2 時間分解螢光免疫測定装置
  6.8 電気化学発光免疫測定装置
 7 電気化学分析装置(中野泰介)
  7.1 電解質測定装置の種類
  7.2 イオン電極
  7.3 ガス電極
   7.3.1 酸素電極
   7.3.2 炭酸ガス電極
  7.4 酵素電極
 8 電気泳動装置(間部杉夫)
  8.1 電気泳動装置の種類
   8.1.1 電気泳動の原理
   8.1.2 電気泳動法の種類
  8.2 膜電気泳動装置
  8.3 キャピラリィ電気泳動装置
 9 質量分析計(岡部哲夫)
  9.1 質量分析の原理
  9.2 イオン化の原理と応用
   9.2.1 電子イオン化法
   9.2.2 化学イオン化法
   9.2.3 マトリックス支援レーザー脱離イオン化法
   9.2.4 エレクトロスプレイ・イオン化法
  9.3 いろいろなm/z測定法
   9.3.1 磁場型質量分析計
   9.3.2 四重極型質量分析計
   9.3.3 飛行時間型質量分析計
   9.3.4 イオントラップ(イオン捕捉)型質量分析計
  9.4 質量分析計の生化学・医学や病気の診断への応用
   9.4.1 アミノ酸の分析
   9.4.2 蛋白質の構造解析
   9.4.3 生体中のステロイド代謝異常
   9.4.4 糖尿病の指標
   9.4.5 神経変性疾患
   9.4.6 筋萎縮性側索硬化症
 10 人工臓器(中谷武嗣)
  10.1 人工腎臓
   10.1.1 人工腎臓の原理
   10.1.2 透析の原理
   10.1.3 人工腎臓の構成
   10.1.4 腹膜透析
  10.2 人工心肺装置
   10.2.1 人工心肺装置の原理および構成
   10.2.2 人工心肺用血液ポンプ
   10.2.3 人工肺
   10.2.4 ヘパリン化人工心肺装置
   10.2.5 人工心肺装置の応用
  10.3 全置換型人工心臓,補助人工心臓
   10.3.1 全置換型人工心臓,補助人工心臓の原理
   10.3.2 血液ポンプ
   10.3.3 駆動システム
   10.3.4 補助人工心臓システム(VAS)
   10.3.5 全置換型人工心臓(TAH)
  10.4 人工呼吸器
   10.4.1 人工呼吸器の原理
   10.4.2 人工呼吸器の構造
   10.4.3 人工呼吸器の作動法
   10.4.4 人工呼吸器の各種の呼吸様式
  10.5 ペースメーカ
   10.5.1 ペースメーカの原理
   10.5.2 ペースメーカの基本構造
   10.5.3 ペースメーカの機能
   10.5.4 ペースメーカ使用時に注意すべき電磁障害
  10.6 人工関節
   10.6.1 人工関節の原理
   10.6.2 人工股関節
   10.6.3 人工膝関節
   10.6.4 その他の関節
第4章 遺伝子診断装置(牧野 徹)
 1 遺伝子の定義
 2 DNAとRNA
  2.1 DNA,RNAの構造
  2.2 DNA,RNAの性質
 3 遺伝子による診断・治療
  3.1 遺伝子診断
  3.2 遺伝子治療
 4 遺伝子検査用装置
  4.1 核酸抽出装置
  4.2 DNA増幅装置
  4.3 遺伝子解析装置

 参考文献
 索引