CASE21.壊死のパターンが違う
肝S8に約15mmの結節を認めた症例.Bモード像を整理すると転移性肝癌が疑われるが,造影超音波検査では,典型的な転移性肝癌とは異なる造影パターンを示した.ルーペ像もCASE19,20で取り上げた転移性肝癌とは少し異なっているようだが……?
※下記は本編の造影超音波検査・後血管相までを見てからのコメントです.
長谷川:本例は転移性肝癌でよいと思うのですが,造影超音波で,2分くらいでいったん抜けた後,10分ほどで周りと同じくらいのエコーレベルになりましたね.これはどう考えたらよいのでしょうか?
若 杉:周囲の正常肝組織の血流およびバブル分布との比較の問題なのかな,と思っています.動脈優位相から門脈優位相にかけてわーっと強く染まる時には,周囲肝組織ではおもに血管内を造影剤が通り過ぎていきます.一方,10分後には正常肝細胞周囲の類洞内(網内系組織)に造影剤が取り込まれますね.そこと,病変内部とを比較して考えなければいけないと考えます.
長谷川:転移性肝癌では,抜けたら抜けたまま10分後までいくことも多いと思いますが…….
若 杉:ですよね,そこは不思議に思います.おそらく,もともとのBモードでの病変が高エコーであることが関係していると思います.
長谷川:たとえば中に線維化などがあって,中からバブルが抜け出せない,なんていう機序はあるんでしょうか?
若 杉:うーん……でも,中にバブルがあるなら,高音圧で破裂させればそこがきっちり光るはずですよね.
長谷川:なるほど,そうですね.
若 杉:やはり周囲肝組織の造影パターンを頭に入れておかないと,この現象は理解できないのではないかなと思います.
市 原:これはちょっと難しいですね.
長谷川:ありがとうございます.それともう一つ.本例は超音波画像で点状高エコーがみられる部分がありましたが,切片上で石灰化はあったのでしょうか?
市 原:直接石灰化を観察できる場所はないんですが,切片の中で「穴」になった場所があり,そこはもしかしたら石灰化だったかもしれません.薄切の際に小さな石はうまく切れずに飛んでしまい,そこが空隙になります(図1).

図1 HE染色像

長谷川:なるほど.ただ,顕微鏡写真にみられるこれらの穴は,それほど大きくないですよね.これだと,超音波画像で見えたような大きな高エコーにはならないのではないでしょうか?
市 原:そうともかぎりませんよ.物質の大きさがパルス波より十分小さくても,超音波画像上は大きく光るということはありえると思います.たとえば,超音波造影剤であるバブルはせいぜい2μm程度とのことですが,散乱係数が高いので十分に光りますよね.つまりは物性が大事です.方位分解能以下の小さな石灰化であっても,表面性状や物性次第では,超音波画像で大きめに見えることはあると思います.
若 杉:私も音響工学の基礎の先生にそのような話を聞いたことがありますね.理由の一つに,方位分解能の問題があります.超音波ビームの幅の1/2未満の距離に二つの小さな反射体が並んでいると,この2個の反射体は方位分解能以下の距離にあるので2個の反射体として認識できず,融合した大きな1個の反射体として認識されます.この場合,画像上の反射体の大きさは,病理組織上の反射体の大きさより大きく見えます.もう一つ考えられる理由として,サイドローブアーチファクトによっても,石灰化が実際のサイズより超音波画像で大きく見える可能性はあります.
長谷川:詳細に教えていただきありがとうございます.
若 杉:蛇足ですが,超音波画像上に多数の点状高エコーを伴う乳癌(硬癌)を経験したことがあります.この病理標本を見た時,石灰化はあるのですが,超音波画像よりはるかに小さな石灰化がところどころに散在しているだけという状態でした.病理組織では小さな石灰化が,超音波画像では大きく見えるという現象はあることなのかもしれません.
※この記事は,月刊『Medical Technology』49巻6号(2021年6月号)に掲載されている「対比で読み解く 超音波画像と病理組織像」の“おまけトーク”です.本編は雑誌をご覧ください! →掲載号ページへ