CASE16.広基性にも有茎性にも見える
超音波検査(肋弓下斜走査)で広基性の胆嚢隆起性病変と思われた症例.しかし,超音波内視鏡で見ると,狭い基部からなる有茎性隆起のようにも見えた.はたして病理は……!?
若 杉:本症例に関連して,正常胆嚢の超音波像をおさらいしておきましょう.胆嚢エコーでは,内側低エコーと外側高エコーが見えます(図1).

図1 胆嚢の壁構造
通常,胆嚢壁は内側低エコー層と外側高エコー層に描出される.

長谷川:はい,そうですね.
若 杉:胆嚢をプレパラートで見ると,内腔面から順番に,粘膜,固有筋層,漿膜下組織線維層,漿膜下組織脂肪層,そして漿膜となっています(図2).

図2 正常胆嚢壁の組織構造

市 原:粘膜筋板がなく,粘膜下層という概念が存在しない点が,胆嚢の壁構造の特徴ですね.
若 杉:そしてこのうち,粘膜,筋層,漿膜下組織線維層までが内側低エコーに相当します.漿膜下組織脂肪層が外側高エコーです.
長谷川:そうなりますね.
若 杉:早期胆嚢癌の定義は,M(粘膜層)もしくはMP(固有筋層)までに浸潤が留まるものですね.
市 原:ふむふむ.
若 杉:では,胆嚢癌の深達度診断を考えましょう.胆嚢癌の深達度はどのように読みますか?
長谷川:まずは広基性か有茎性かを判断します.
若 杉:いいですね.岡庭先生らは,胆嚢の0-Tp型癌(有茎性隆起性病変)はM癌であることが非常に多い,という報告をなさっています1).一方,広基性だとどうかというと,図3のようなdecision treeになっています.

図3 広基性病変のdecision tree

長谷川:なるほど.外側高エコーの変化や,病巣深部低エコーがあると,深達度が深い可能性があるわけですね.
若 杉:本症例は外側高エコーに異常がなく,病巣深部低エコーもない.となると,MからSSまでさまざまな可能性が考えられます.
市 原:つまり,深部浸潤を示唆する所見がないからといって,Mと診断していいわけではないということですね.
若 杉:広基性病変についてもう少し詳しく場合分けしてみましょう.たとえば岡庭先生らの報告では,高さと幅の比(高さ/幅)が0.5未満のものをTsと定義した場合,10mm未満のTs病変,15mm未満のUa病変はすべて早期癌でした1)
市 原:肉眼形態とサイズによってある程度傾向があるわけですか.
若 杉:ただ,気をつけなければならないことがあります.本症例はTs型に相当し,長径は16mmあります.しかし10mm以上だから進行癌かというと,先ほどの報告でも10mm未満は確かに全例早期癌でしたが,10mm以上であっても早期癌症例は含まれているんです(図4).

図4 胆嚢癌の大きさと深達度の関係(文献1をもとに作成)

長谷川:たしかに10mm以上の病変にも早期癌が含まれていますね.
若 杉:深達度に限った話ではありませんが,統計情報から診断を行う場合,「AならばB」と書かれていても,「BならばA」が正しいとはかぎりません.今回の場合でいえば,「10mm未満ならM癌」というのは正しいけれども,「M癌は10mm未満」というのは成り立たない.そういうところは注意して診断を行わなければいけませんね.

文献
1)岡庭信司,他:早期胆嚢癌の臨床病理学的検討.日本消化器病学会雑誌,93(9):628-633,1996.
※この記事は,月刊『Medical Technology』47巻12号(2019年12月号)に掲載されている「対比で読み解く 超音波画像と病理組織像」の“おまけトーク”です.本編は雑誌をご覧ください! →掲載号ページへ