CASE11.石灰化が目立つ病変
超音波画像とCT像では高度な石灰化が存在している.石灰化の成因を検討すべく病理組織像を見ると…….
市 原:本編で扱った症例は,確かに石灰化がすごく多い症例です.ただ,CTは本当に真っ白になっていましたけど,病理で見ると,がちっと大きなカタマリの石灰化があるわけではないんですよね.石灰化巣は点在しています.
長谷川:あっ,そうなんですか? CTだとべたっと石灰化しているように見えたけどなぁ.
若 杉:これはCTの解像度の問題かもしれませんね.ちなみに,超音波検査だと高エコースポットは点在していました.
金久保:CTの解像度は,一つのピクセルが0.6mmくらいの組織を反映しているといわれています.ピクセル0.6mmの範囲の濃度の総和(平均)がそのピクセルの濃度となります.つまり,0.6mmごとに石灰化をきたしている場合は,CTだとべったり見えてくるかもしれません.
市 原:じゃあ,試しに病理のプレパラートも0.6mm刻みでピクセル分解してみましょうか.
長谷川:えっ!?
市 原:HE染色の弱拡大像に,0.6mmごとに罫線を書き込みます(図1).

図1 0.6mmごとに罫線を入れたHE染色の弱拡大像

長谷川:おぉ.
市 原:そして,石灰化をMappingします(図2).

図2 図1の石灰化部分をMappingした図

長谷川:わっ,こんなにあったのか!!
市 原:これを見ると,石灰化一つひとつはせいぜい0.2〜0.3mm程度の大きさなのですが,0.6mmのグリッドごとに1〜2個ずつ分布していますので,CTだとべたっと染まってしまうのかもしれません.解像度に勝る超音波が,CTよりも病理をよく反映していたのではないでしょうか.
金久保:なるほど!おもしろいですね.
***
若 杉:もう一ついいでしょうか? 主治医が気にしていたという病変の進展範囲について,プレパラートの図3の矢印のところなんですが,この腫瘍のカタマリは,中心静脈内に形成されている腫瘍栓ですか?

図3 症例のルーペ像

市 原:はい,中心静脈内ですね.
若 杉:これが超音波で映っていたかどうか,というのはすごく気になります.
市 原:かなり大きい腫瘍栓です.太さが5mmくらいはありますね.
若 杉:じゃあ,超音波画像でみられた左肝静脈の太まり(図は本誌をご参照ください!)は,やっぱり腫瘍栓が見えていたんでしょうかねぇ.
金久保:そうなのか…….こっちに延びている低エコーは,focal spared area(限局性の脂肪沈着減少領域)かと思ってました.
若 杉:Spared areaとしては,好発部位や形態がやや不自然ですね.通常のSpared areaは,肝左葉内側域の門脈左枝水平部近傍や胆嚢近傍など,好発部位があります.本症例の肝左葉外側域には比較的少ないです.それと,spared areaはこのように楔状になりませんから.
市 原:左肝静脈の太まっている部分は,内部のエコーがlow,high入り混じっています.病理に示されているとおり,腫瘍栓なんでしょうね.
金久保:なるほど…….
若 杉:超音波を見ている時はわからなかったかもしれません.けれども,画像と病理の対比をすることで,撮った画像の答えを違った角度から検証することができます.我々は臨床画像から,市原先生は病理から,それぞれ突き詰めることができます.それがいいですよね.
金久保:自分でもあらためて見直してみます.
※この記事は,月刊『Medical Technology』46巻10号(2018年10月号)に掲載されている「対比で読み解く 超音波画像と病理組織像」の“おまけトーク”です.本編は雑誌をご覧ください! →掲載号ページへ