CASE4.点状高エコーの正体
胆嚢の超音波検査で点状高エコーを含む有茎性隆起を認めた症例.点状高エコーは組織の何を反映した所見なのだろうか.
病理の言う「癌」
若 杉:胆嚢に限った話ではないんですが,病理報告書って,病変の一部だけであっても癌があると主診断が「癌」になりますね.
市 原:そうですね.今回の症例ではたまたま「ほとんどが癌」でしたが,「コレステロールポリープかな」と思って手術された症例の病理診断が「癌」だった時は,「病変のどれくらいが癌だったのか」をきちんと確認しなくてはいけません.
長谷川:“超音波検査ではコレステロールポリープだと思っていたが,病理報告書では「癌」だった”という場合には,実際には癌が病変の一部だけだったとしても,単純に「超音波検査が間違っていたんだな」で終わってしまいますね.
市 原:「対比しないといけない」っていうのはそういうことです.
若 杉:さらに,コレステロールポリープについては「経過観察して大きくなったら要注意」でいいですね.点状高エコーがあるからって癌を否定しなくていいんじゃないでしょうか.
市 原:「コレステロールポリープの一部に癌が合併しているかどうか」という視点では,大きさの変化は有用な情報ですしね.
若 杉:まぁ,実際に手術をするとコレステロールポリープだけだった,ということもありますけどね.
長谷川:確かに,“大きいから念のため”に手術した症例は,「コレステロールポリープどまり」のことも多いですね.
若 杉:逆に,「点状高エコーがあると癌じゃない」というのも,言ってみれば不思議な見分け方ですよね.どこかに一部でも癌があれば癌なわけですから,点状高エコーがあってもいいですよね.癌である可能性は残っています.
長谷川:実際のところ多くのソノグラファーは,コレステロールポリープの表面の上皮が癌だとかそういった細かいことまでは考えてないと思います.超音波の教科書レベルだと,そもそも書いていないんですよね.
市 原:そうか,コレステロールポリープの像自体,ソノグラファーの方々は思い浮かべていないのかぁ.
若 杉:そうそう.コレポを非上皮性の「腫瘍」って言ったら,市原先生に怒られましたよね.「非上皮性の『(沈着性)病変』です」って.腫瘍じゃない,と.
市 原:病理が何をもって「癌」って言ってるかっていう話を,一般化しないといけないんですねぇ.
若 杉:一部が「癌」であっても,全部が「癌」であっても,病理診断書上は同じ「癌」って書かれますよね.画像のメインの部分が癌なのか,それとも一部だけが癌なのか,それとは関係なく病理では「癌」となります.
市 原:まさにそうです.
若 杉:こういうものこそ,どんどん対比しないといけませんよね.
市 原:技師さんの判断が「間違っていたか」「合っていたか」,CTと比べて「感度が」「正診率が」とか,そういう話のよりどころが“一部が癌”ではたまったものじゃないってことですね.
超音波像でみられる現象の「原因」
若 杉:話は変わりますが,散乱や屈折を起こす原因って,証明するのが難しいんですよね.
長谷川:確かにそうですね.
若 杉:散乱波を超音波工学的にまじめに考えると,「反射」よりも「散乱」のほうが大切なんじゃないかって思うことがあります.
市 原:ほほう.
若 杉:国家試験に出るような「基礎理論」では,実際の画像の1割も説明できません.散乱みたいな現象のほうが証明できる気がします.さらに,そういうのって病理標本を見ても,なかなか解決できません…….
長谷川:うーん.
若 杉:生体内でどれくらいの物質が反射や散乱の原因になっているかっていうのも,考えるのは難しいですよね.
長谷川:生体内の挙動って,副次的要因がいっぱいありすぎて,もはや物理で記載できませんからね…….

若 杉:話はまたまたずれますが.
市 原:ずれましょう.
若 杉:膵癌で,病変の尾側に炎症がみられた症例があったんですよ.尾側が低エコーになっていました.
市 原:5月号のCASE2や6月号のCASE3と似たような症例ですね.
若 杉:はい.これを,水浸下で観察してみました.
長谷川:水浸下観察ですね.
若 杉:尾側低エコーが見えるかなぁと思いやってみたんですが,癌と尾側膵と頭側膵とのコントラストが,ほとんどありませんでした.高エコーの部分がよくわからなくなってしまったんです.
市 原:ほう.どういうことなんでしょうか.
若 杉:腫瘤の尾側が,水浸下では「相対低エコー」として再現できない.ということは,生体内での血流や水分などが,散乱体として影響しているんじゃないかなって思ったんですよ.
市 原:ああ,ここで先ほどの散乱の話になるんですね.長谷川君は「生体内の挙動は物理的に追いきれていない部分がある」と言っていましたが,そうした何かがあるんですかねぇ.
若 杉:高松平和病院の何森亜由美先生は,乳管とその周囲の間質のコントラストを出して読み込む方です.DCIS(非浸潤性乳管癌)の診断を,乳管周囲のコントラストで出せるんじゃないかと仰っている先生で.
市 原:おもしろい読み方ですね.
若 杉:何森先生に,「そのコントラスト,水浸下だと出ますか?」って聞いたら,「思ったより出ないんですよ」と教えてくれまして.やってはみたけど,うまく出ないそうなんです.それを聞いて「おっ!」と思いました.ホルマリン固定ってそういうところあるんじゃないかな?と.
市 原:あぁ,似たようなことが,拡大内視鏡対比の世界でも結構話題ですよ.ホルマリン固定で脱水がかかると,生体内で見た像と微妙に変わってくるという話です.「生体内にある」ということ自体が,超音波像の見た目にかかわっているというのはありそうな話ですね.
※この鼎談は,月刊『Medical Technology』44巻7号(2016年7月号)に掲載されている「対比で読み解く 超音波画像と病理組織像」の“おまけトーク”です.本編は雑誌をご覧ください! →掲載号ページへ