CASE9.読み誤った深達度
胃体下部に腫瘤が見られた症例.超音波像の所見から深達度を固有筋層(MP)までと判断したが,病理組織像を見ると,癌は粘膜内に留まっていた.
市 原:腫瘍と連続する低エコー部分について,ドプラの情報を追加して「血管も低エコーに見えるかもしれない」っていう視点はおもしろいですね.
若 杉:市原先生がおっしゃっていた「筋層の引き込まれる角度と深達度の関係」という視点も興味深いです.
市 原:病理を見た時に,有茎性病変が「ポイツ・イェガース型ポリープ(Peutz-Jeghers type polyp)に似ている場合」には,深達度は基本的に浅いだろうな,と感じます.少し古い症例ですが,参考症例をお持ちしました(図1).ポイツは癌や腺腫ではなく,過形成に近い病変ですので,粘膜下層以深には浸潤しません.しかし,固有筋層の巻き込みが激しく,粘膜切除では病変を採ることができませんでした.腸閉塞症状があったため,手術になった方です.

図1 小腸 Peutz-Jeghers type polyp
網かけ部:固有筋層(MP),青塗りつぶし部:粘膜下層(SM)の線維化,黄矢印:太い血管.
有症状のため腸管切除された症例.固有筋層が引き込まれている.非腫瘍性病変であり,浸潤はみられない.

長谷川:本誌の症例と似ていますね……形がそっくりです.
市 原:そうなんです.「分葉状の隆起で,筋肉が牽引されるくらい上方に盛り上がっており,中心部に木の幹のように枝分かれする芯が通っていて,そこには血管が走行している」病変です.癌ではないため浸潤はないのに,固有筋層がしっかり引き込まれています.
若 杉:本誌の症例もまさにこのパターンでしたね.
市 原:このような病変では,筋肉の中を貫通した血管が樹枝状に腫瘍に入り込んでいて,腫瘍のカタマリが大きいと,管腔内圧などによって腫瘍が上方に牽引される時に,筋肉まで鋭角に持ち上がってしまうのかなぁ,とイメージしています(図2).

図2 浸潤がないにもかかわらず固有筋層が引き込まれる場合のシェーマ
「樹枝状の血管が内部に配置された有茎性病変」では,病変の頭部が内腔方向に牽引されると,血管ごと固有筋層も持ち上がってしまうことがある.この時,固有筋層の牽引先端部は鋭角になる.

市 原:これに対し,癌の浸潤によって固有筋層が引き込まれる場合は,癌の浸潤範囲に合わせて固有筋層が持ち上がるため,牽引部は鋭角にはならず,台形状などになります(図3).

図3 癌の浸潤により固有筋層が持ち上げられている場合のシェーマ
癌の浸潤が複数箇所で固有筋層を巻き込むため,固有筋層の引き上げられ方は全体として「台形」を呈し,1点で鋭角に持ち上げられることは少ない.

長谷川:なるほど,イメージしやすいです.“樹枝状の血管配置”と“鋭角に入り込んでいく固有筋層”を見たら,深達度が浅い病変である可能性を考えなければいけないということですね.
若 杉:病理の話は何度でも聞きたいですね.前にお話しした基礎工学と一緒で,一度ではわかりづらいこともありますが,何度も聞くとそれだけ理解が深まります.今回の話も,何回も読み直しますよ.
※この鼎談は,月刊『Medical Technology』45巻7号(2017年7月号)に掲載されている「対比で読み解く 超音波画像と病理組織像」の“おまけトーク”です.本編は雑誌をご覧ください! →掲載号ページへ