超音波検査担当の皆さんは,超音波検査を行った患者さんの病理組織標本を見ることはありますか? 病理検査担当の皆さんは,標本を超音波画像と比較して見ることはあるでしょうか? 両者を比較することで,“見えなかったもの”が見えてくることがあります.本連載では,病理医の市原 真先生,超音波専門医の若杉 聡先生,診療放射線技師の長谷川聡洋先生に,超音波画像と病理組織像を対比しながらディスカッションしていただき,画像の成り立ちやアーチファクトについて追究していきます.知れば知るほど奥が深い画像対比の醍醐味を感じていただければ幸いです.
CASE1.見えなかった穴
超音波検査で胆嚢壁の肥厚が認められた症例.病理組織標本では多くの空隙がみられたが…….
市 原:どうですか,長谷川君.
長谷川:思ったこと言っちゃいますけど.
市 原:どうぞどうぞ.
若 杉:どうぞ.
長谷川:若杉先生がおっしゃったように,「壁が肥厚してRASがあればADMがある」というのはわかるんです.
市 原:ADMって腺管と平滑筋が増える病態だからね.
長谷川:それに対して,RASがみえない時,つまり穴が見えない時に,コメットがあるとADMの可能性があるってのはいいと思うんですけど,「コメット=RASの中の石」というのが,実はまだわからないんです.
市 原:そこが解決してないんだ(笑).なるほど.
長谷川:後は,炎症の原因.この症例だと,RASやADMだけじゃなく壁肥厚があって,胆嚢炎ですよね.ザント(黄色肉芽腫性胆嚢炎;xanthogranulomatous cholecystitis)との鑑別も問題になりますけど,壁肥厚のわりに粘膜の肥厚とか炎症の波及具合がたいしたことないから,普通の胆嚢炎でいいとは思いますが…….
若 杉:そうですね.
市 原:そうか.RASとかADMっていうのは長期に存在するわけで,それがあるからって炎症になるとは限らないしね.
長谷川:炎症の原因は何だったのかという疑問が…….
若 杉:すみません,ちょっと脱線しちゃいますね.ADMってありふれた病気ではあるんだけど,よーく文献なんかを読むと,発生説とか,なぜ炎症が起こるのかとか,ザントとの関連はどうかとか,深い話・おもしろい話がいっぱいあります.ザントは,98%に胆嚢結石があると言われているけど,石が頸部に嵌頓して化学的刺激が加わるんだろうね.だけど,98%ということは,逆に言えば2%は石がないってことです.
市 原:ふむ.
若 杉:結石の既往がないままADMになり,その後ザントになったなんていう報告がある.これはつまり,ADMからザントという「ADM由来の」,「石を必要としない」炎症の流れというのがあるはずなんです.
市 原:なるほど.なんでもかんでも石じゃないってことですね.
長谷川:ふむふむ.
若 杉:たとえば,最近の日本人の食事みたいにコレステロールが多いと,胆汁の密度とか粘度が上がるんじゃないかな.胆嚢頸部ってらせん状でしょう.食事のたびに胆汁が出入りすると,内圧が上がって,RASにも負荷がかかると思います.そこでRASが破綻すれば,「RAS由来のザント」だってあるだろうなぁと思うんです.石なしでも,炎症が起こっていい.
本例も,RASの中に石があってそれが頸部に落ちているのかもしれないけど,そうじゃなくて,RASとかADMがあること自体が炎症の原因だったのかもしれないんです.ADMっておもしろいよね.
市 原:コメットにしても.
若 杉:まるで見てきたかのように言いますが(笑).

長谷川:本例で,胆嚢癌との鑑別はどうしますか?
若 杉:癌の合併の有無は診断しきれるかなぁ…….大きいものであればわかると思いますが.ADMと胆嚢癌の鑑別が難しかったっていう症例はたくさんありますよね.本例では,癌にしては造影される範囲がくりっとしすぎているとか,いろいろ考えて癌の可能性は低いと思いました.
長谷川:この方の手術の理由は,癌を否定できなかったからですか?
若 杉:いえ,炎症が強かったからですね.このまま炎症だと思っていて,病理も炎症という結果だったから,報告書だけ読んで終わっていたら特に問題はなかったんですけどね.
市 原:プレパラートまで見ることで疑問がいっぱい出ちゃいましたね.でも結果的には,「RASやADMが穴として見える時と見えない時があるのはなぜか,コメットって何なのか」みたいなことをまとめて考えられましたねぇ.
長谷川:現場の技師って,一つ一つのエコー所見の理由,「穴として見えるか,見えないか」みたいな検討ってなかなかできませんし,勉強になりました.
若 杉:ADMっておもしろいよね.
長谷川:おもしろいです.
※この鼎談は,月刊『Medical Technology』44巻4号(2016年4月号)に掲載されている「対比で読み解く 超音波画像と病理組織像」の“おまけトーク”です.本編は雑誌をご覧ください! →掲載号ページへ