CASE5.癌?炎症?
膵臓の超音波画像と病理組織像.本症例は癌?それとも炎症?その根拠は?
若 杉:結局,言葉って独り歩きするんですよね.
長谷川:ところで,日本超音波医学会では,言語学者を招聘して一度用語を整理しようっていう話もあるそうです.たとえば,「辺縁」っていう言葉とか.
市 原:「辺縁」? 何の変哲もなさそうな言葉ですが.
長谷川:日本語では,正確には縁辺(えんぺん)らしいんですよ.
市 原:えっ!?……あ,本当だ,変換ソフトで出てくる.たしかに言語学者の力が必要なのかも…….

市 原:今回は,duct penetrating signの見極めが難しい症例でした.
若 杉:Duct penetrating signは病変内を“拡張した”主膵管が貫通している像のことで,通常型膵癌では主膵管は腫瘍により途絶してしまう例が多いのですが,炎症(自己免疫性膵炎,腫瘤形成性膵炎)では主膵管への影響は膵癌ほどではなく,途絶することはあまりありません.ですから,上記のサインを認めた場合には,膵癌ではなく,炎症の可能性があるということです.
長谷川:今回の症例では,図1のように主膵管が病変内を走行しているように見えたため,膵癌と判断するには悩ましかったんですよね.

図1 膵臓の超音波像(本誌図1-b)とその拡大像

若 杉:いやぁ難しい……尾側膵炎で低エコーもあれば,AIPで低エコーもある.
市 原:一筋縄ではいきませんでしたね.
若 杉:経験だけで判断するのは難しいということを痛感させられる症例だなぁと思いました.こんなの載せるな,AIPの典型像を見せろって言われそうですよね.
長谷川:でも,とても勉強になる症例でした.
市 原:今回の症例は「誤診のメカニズム」が何重にも複雑に絡み合っています.「誤診せざるをえない,そもそも鑑別困難な症例」なのか,それとも「見方を変えると正診にたどり着けるはずの症例」なのかを考えると,本例はきっちり病理を読み込むことで,「鑑別がきわめて難しいポイントが多くある,そもそも画像鑑別困難な例だ」ということがわかると思うんです.
若 杉:本例は結構昔の症例ですから,血中IgG4が測定しやすい時代だったらまた違ったかもしれません.
市 原:確かに,今であればもう少し違ったアプローチもあるでしょうね.
※この鼎談は,月刊『Medical Technology』44巻8号(2016年8月号)に掲載されている「対比で読み解く 超音波画像と病理組織像」の“おまけトーク”です.本編は雑誌をご覧ください! →掲載号ページへ