CASE10特別編―超音波画像・病理対比とは
 「第2部」の最終回となる今回は,2016年12月17日にTOC五反田メッセ(東京都品川区)で開催された「超音波スクリーニング研修講演会2016五反田」のランチョンセミナー(講師:市原 真先生,司会:若杉 聡先生)の模様を誌面にて再現していただきます.
 本誌では市原先生のご講演を掲載しておりますが,この「おまけトーク」では市原先生と若杉先生のディスカッションの様子をお届けいたします.
若杉(座長):私の症例もご紹介いただきましてありがとうございます(注:講演では本誌の内容の他に,「CASE6.エコーレベルを決めるもの」の症例を紹介した).では,会場から何かご質問などはありませんか?
会 場:………….
市 原:講演で「質問どうぞ」と言っても,なかなか質問は出ませんよね(笑).
若 杉:では,私から質問です.Desmoplastic reaction(DR)については,私もかなり興味をもっています.講演でもありましたように,消化管癌における筋層の肥厚や断裂はかなりDRの影響を受けていると考えています.たとえば,隆起型の大腸癌で,早期大腸癌と進行大腸癌との違いを考えた時,中心部がぼこっと落ち込んでいるタイプは進行癌が多いと思います.これもDRによるものなのでしょうか?
市 原:ご質問ありがとうございます.さて,DRの性質を考える際には,まず「そもそも生体の中にはなぜ線維があるのだろう?」という,“線維の目的”を考えてみるとわかりやすいと思います.たとえば,私が暴漢に襲われて,顔にビーッと切り傷を作られたとします.そして傷が塞がると,傷跡が引きつれてきますよね.
若 杉:はい.
市 原:この時に,線維が関与しています.線維には「カタマリを作って穴(欠損部)を塞ぐ」という役割があるのですが,カタマリで穴を塞ぐだけではなく,「引きつれ」を起こすのです.収縮効果があるんですよ.
若 杉:そうか,収縮効果!
市 原:傷の下に肉芽組織ができて,傷跡をぴたっと引きつれさせて塞ぐのと同じように,癌が作り上げるDRという線維化もまた,周囲を強く引きつれさせる効果があります.食道癌でも胃癌でも,癌が下のほうに浸潤していくと,だんだん壁の引きつれが起こります.粘膜の集中やひだの集中,壁の硬化,側面のへこみなどの現象が起こります.これらは,DRが線維としての性質を発揮していると考えます.
若 杉:なるほど.
市 原:ですから,ご質問の早期大腸癌と進行大腸癌では,浸潤している癌の総量が違い,生じている線維の量も違いますので,同じ隆起型とは言っても周囲に対する引きつれ,引き込み効果が強くなるだろう,と考えることができます.逆に,同じ消化管癌でも,たとえば神経内分泌癌のような特殊型――DRがほとんど生じず,腫瘍細胞ばかりが増殖するような癌では,やけにカタマリが大きいんだけど妙に柔らかい,これは本当に進行癌なのだろうかと,深達度に苦慮する症例なども経験されます.線維が少ない癌は引きつれが少ないので,診断が難しくなるんですね.
若 杉:うーん,一つの質問でこれだけふくらませてお返事してくださるのはありがたいですね.
市 原:しゃべりすぎでしょうか(笑)
若 杉:病理の先生と協力して診断を検討できるととても勉強になりますし,新たな発見も多くあります.会場の皆さんも,ぜひ,一緒に画像を考えてくださる病理の先生を探して,画像と病理の対比をやってみてください.
※この鼎談は,月刊『Medical Technology』45巻8号(2017年8月号)に掲載されている「対比で読み解く 超音波画像と病理組織像」の“おまけトーク”です.本編は雑誌をご覧ください! →掲載号ページへ