CASE12.石灰化はないけど高エコー?
超音波像では石灰化が疑われるような高エコー成分を認めたものの,病理組織像では石灰化は認められなかった.
金久保:今回の症例ですけれど,「壊死」って高エコーになるんですか?
市 原:えぇと,実はひとくちに「壊死」といっても,何パターンかあります.大別すると,@腫瘍腺管の内外に壊死があり,壊死巣が大きくなるパターンと,Aおもに腫瘍腺管の内部に限局して壊死があり,壊死巣一つひとつが小さいパターンです.
長谷川:ふむふむ.
市 原:前回(CASE11)と今回の症例でみられたcomedo necrosis(面皰状壊死)は,Aのほうです.腫瘍腺管の中に壊死ができるパターン.この場合,高エコーに見える可能性があると考えています.
金久保:うーん…….
市 原:悩まれるのもわかります.超音波検査に携わる方々にお話を聞きますと,「壊死」という言葉から皆さんが連想するエコーレベルって,ばらばらなんですよ.たとえば,壊死と聞いて「膿瘍の内部がとろけたようなもの」を連想する方は「低エコー」を思い浮かべます.逆に,壊死と聞いて「肝内胆管癌の病変内に合併する所見」を連想する方は「高エコー」を思い浮かべます.
長谷川:つまり,壊死があるからエコーレベルが決まるわけではなく,壊死のパターンによってエコーレベルが決まる,ということでしょうか.
市 原:そうですね.後は,壊死とそれ以外の組織の混ざり方によって決まるんだと思います.
若 杉:なるほど.たとえば,超音波の周波数を3 MHzとします.生体内での音速が1,500 m/secと仮定して計算すると,超音波の波長はだいたい500 μmくらいになります.
市 原:ほうほう!
長谷川:実測して考えるのか……!
若 杉:波長の500 μmの範囲内で散乱体がどれだけ不均一であるかが問題になると思うんです.散乱体(波長よりはるかに小さな反射物質)が不均一だと,後方散乱が強くなり,高エコーになります.
市 原:あぁ,なるほど.Comedo necrosisのパターンだと,腫瘍細胞と腺管内部の壊死とが非常に細かい範囲で入り乱れるから,高エコーにみえるのかもしれません.前回に引き続き,グリッドで区切ってみましょうか.
長谷川:おっ,またですね.
市 原:今回の症例がちょうど「壊死が高エコーに見えた症例」ですから,このプレパラートでやってみましょう.前回はCTの解像度に合わせてグリッドの幅を0.6 mmとしましたが,今回は超音波に合わせて500 μm=0.5 mmです(図1).

図1 0.5 mmごとに罫線を入れた病理組織像

市 原:腺管の中に赤く壊死が入っています.画面の上側では,グリッドによってできるマス目よりも,赤い壊死のほうが小さいですね.
長谷川:そうですね.
市 原:画面の下のほうには,0.5 mmよりも大きくやや粗大な壊死が混在しています.しかし,このような粗大な壊死は今回の病変では一部に限られています(本誌の図3-aをご参照ください).
若 杉:つまり,超音波の波長よりも短い範囲に上皮,壊死,間質が混在するため,散乱体の分布が不均一になる.その結果,後方エコーが増強して高エコーになると予測されるわけですね.
市 原:図1の写真下部のように,グリッド幅よりも大きい腫瘍壊死がメインになっている場合は,同じ肝転移でも低エコーに見えるのではないか,と予測しています.転移病巣ではなかなか厳密な対比が難しいので,あくまで予測の域を出ませんけれどね.
※この記事は,月刊『Medical Technology』46巻11号(2018年11月号)に掲載されている「対比で読み解く 超音波画像と病理組織像」の“おまけトーク”です.本編は雑誌をご覧ください! →掲載号ページへ