CASE17.なぜか厚く見えたハロー
画像から肝細胞癌(HCC)が疑われた症例.しかしHCCとしては非典型的な,不均一で厚いハロー(境界部低エコー帯)が認められる.ルーペ像を見ても線維性被膜は非常に薄いが……?
若 杉:そういえば,今回の病変はかなり高エコーでしたね.高エコーの原因は何だったんでしょうか?
長谷川:確かに,本例はけっこうエコーレベルが高いですよね.
市 原:これはもう少しプレパラートを拡大しないとわからないですね.どれどれ……なるほど.まず,一般に高エコーの肝細胞癌(HCC)の原因は脂肪化が多いといわれていますが,本例では脂肪沈着をほとんど認めません(図1).

図1 HE染色ルーペ像

長谷川:脂肪化が原因ではないんですか.
市 原:そして,これはちょっとマニアックですが,HCC内部の類洞様血管に拡張傾向がありますね(図2の矢印).

図2 HE染色拡大

若 杉:類洞様血管の拡張ですか.
市 原:はい.腫瘍細胞の間を走行している栄養血管の部分(類洞様血管)が開いています.腫瘍細胞と類洞という音響インピーダンスの異なるものが繰り返し現れることで高エコーになるのかもしれません.
若 杉:ははぁ,なるほど.高エコーの原因は脂肪化ではなく,類洞様血管の拡張なんですね.
市 原:その通りです.それからもう一つ,本例には特徴があります.この病変は,病変周囲に脈管の拡張する像がやたらとみられました(図3の矢印).たぶん,ドレナージされた血流が周囲で渋滞を起こしているんです.

図3 腫瘍周囲のドレナージ血管拡張

長谷川:そういえば,造影エコーの門脈優位相で被膜部分にたまりがありましたね.
市 原:はい.でも今,被膜部分とおっしゃいましたが,この患者さんの線維性被膜は,門脈優位相の被膜濃染よりもすごく薄いですよね.
長谷川:そうか,あのたまりは,線維性被膜の中だけにたまっているわけではないのか.
市 原:そう思います.被膜の中にたまるだけでは,あんな太さにはならない.すると,おそらく被膜+周囲の拡張脈管内に超音波造影剤が滞留して,被膜濃染としてとらえられたんだと思いますね.
若 杉:被膜内外のドレナージ部分に造影剤が滞留するという機序は,よく言われていますね.
市 原:そして今回の病変に関しては,病変の境界部や周囲だけではなく,病変内においても,高圧系を受けとめられなくなっています.そのため,類洞様血管が拡張してしまっているんです(図2の矢印).おそらく,HCCとして進展するなかで,多血化するための新生動脈の形成までは達成したものの,動脈の圧を受け止めるだけの機構がまだ整っていないんじゃないでしょうか.だから類洞が拡張して,音響インピーダンスの差が現れて,高エコーになる…….
若 杉:なるほど.本例では被膜および被膜周囲の血管のドレナージが不十分なことで(その上流の)類洞様血管が拡張し,その結果腫瘍が高エコーになっているということですね.
市 原:はい.でもこの1例だけではなんともいえないですね.他の所見とセットにして,たとえば,@Bモードでハロー部分がやや分厚く汚い,A造影エコー門脈優位相で病変境界部に造影剤貯留が起こる,B内部が高エコーである,みたいな所見を全部もつHCCがどれくらいあるかを検討して,それらの組織像がみんな同じようにHCC内の類洞様血管拡張を呈しているならば,なかなか興味深い考察ができそうですけれどね.
若 杉:おもしろいな,そういうのはぜひ検討してもらいたいですねぇ.
※この記事は,月刊『Medical Technology』48巻1号(2020年1月号)に掲載されている「対比で読み解く 超音波画像と病理組織像」の“おまけトーク”です.本編は雑誌をご覧ください! →掲載号ページへ