CASE6.エコーレベルを決めるもの
約30mmの膵体部腫瘍を認めた症例の超音波像と病理組織像.術前のエコー像(A)と,手術で摘出した検体をホルマリン固定した後にエコーで見た像(B)とでは,腫瘤頭側(矢印)のエコーレベルが変化している.Bでは,病理組織像で線維化をきたしていないにもかかわらず低エコーとなっているが,何が原因だろうか?
若 杉:結局,我々って,「事実」を見ないと考え始めないんですよね.たとえば病理組織を見に行って,「あっ,思っていたのと違う!」って気づくから,水浸下エコーなど,いろいろ試してみようという気になるし,考えることにつながるんだと思います.
市 原:いやー,びっくりしました.癌の線維化や,随伴性膵炎などが低エコーになることを教えてもらった時には,何の疑いもなく,「線維があるから低エコー」だとばかり思っていたんですよ.それが,ホルマリン固定後の水浸下エコーで,あんなにわかんなくなるなんて.線維化っていうのは,生体内にあるからこそ,画像に変化を及ぼすのかもしれないんですね.まさか体内の水分,血流がエコーレベルと関係しているかもしれないとはなぁ…….
長谷川:ふと思ったんですが,水浸下エコーで使用したプローブは,比較的高周波の7.5MHzリニアプローブですよね.術前とホルマリン固定後でエコー画像に差が出たのは,本当に血流や水分のせいだけなんでしょうか? たとえば,「プローブの周波数の違い」ということも考えられませんか?
若 杉:鋭いね! 周波数の差があれば,散乱の違いも出てくる.今回の例では,水浸下エコーに使用したプローブのほうが体外式エコーのプローブより高周波だから,波長も短くなり,散乱の仕方が変化した,という解釈もありえますよね.
長谷川:普段エコーをやっている印象ですが,たとえば,3.5MHzのコンベックスプローブで膵臓を見ると脂肪沈着が結構見えるんですけど,同じ人の膵臓を6MHzのコンベックスプローブやリニアプローブで見ると,3.5MHzのコンベックスプローブで見た時よりも脂肪沈着がはっきりとしないなんてことがあります.高周波プローブを使用することで見え方が変わるということは,よく経験します.
若 杉:すばらしい着眼点です.「周波数が違うからエコー画像に差が出たのではないか」という疑問を解決したければ,体外式エコーと同じ周波数のプローブで水浸下エコーを行えばいいですよね.
市 原:おっ,やっていらっしゃるんですか?
長谷川:さすがです…….
若 杉:図1は,本誌で紹介したのと同じ症例に対し,3Dプローブで見た水浸下エコーの画像です.このプローブの周波数は3.5MHzで,体外式エコーで使用したものと同じです.ほら,出方は若干違いますけど,やっぱり膵頭部側と,癌や尾側との区別がわかりづらくなっていますよね.ですから,エコープローブの違いや,周波数の違いだけじゃないんだと思いますよ.

図1 3Dプローブで観察した水浸下エコー像(中心周波数3.5MHz)
青矢印:頭側膵,黄色矢印:膵腫瘍,赤矢印:尾側膵.
体外式エコーのプローブと同じ周波数で観察している.腫瘍の頭側と尾側が同じエコーレベルになっている.

長谷川:そうなると,やはり,血流や水分が抜けた・落ちたという要素が関与していそうですね.
※この鼎談は,月刊『Medical Technology』45巻4号(2017年4月号)に掲載されている「対比で読み解く 超音波画像と病理組織像」の“おまけトーク”です.本編は雑誌をご覧ください! →掲載号ページへ