CASE7.線維化=低エコー?
乳癌(硬癌)の超音波画像と病理組織像.癌の中心部(A),辺縁部(B)ともに線維化を認めるが,超音波画像でのエコーレベルは異なっている.では,何がエコーレベルを決める要因となっているのだろうか.
市 原:今回は前回に引き続き,“エコーレベルは何で決まるのか”ということがテーマでした.組織の「均質さ」が重要なんですね.
若 杉:マーガリンにエコーを当てると低エコーに見えるらしいのですが,中にちょっとでも空気が混ざると,高エコーになるという話を聞いたことがあります.均質さに変化が起こり,エコーレベルが変わったんでしょうね.
市 原:(笑)
長谷川:マーガリンにエコーを当てた人,すごいですね(笑)
若 杉:膵臓の脂肪腫が低エコーに見える例も経験したことがあります(図1).本例からも,「脂肪の多い・少ないでエコーレベルが決まるわけではない」ということがわかります.他にも,血管腫が高エコーに見えていた人が,妊娠を契機に肝臓に脂肪沈着が起こることで低エコーに変化した,なんていう症例もありますよ.エコーの高低は,そこにどんな成分があるかだけでは決められないということです.

図1 膵脂肪腫
a:超音波像.膵体部に約30mmの分葉形の低エコー像を認める.
b:CT像.内部の濃度は脂肪濃度であり,脂肪腫と診断できる.

市 原:ふむふむ.
若 杉:一時期,十二指腸潰瘍の超音波内視鏡検査をやっていました.十二指腸には水が溜まりにくいので,粘稠度の高いキシロカインゼリーを充填すればよく見えると教えてくれた先生がいました.自分でも実践してみたんですけど,ちょっとでもゼリーに空気が入ると,途端にゼリーが無エコーから高エコーに濁ってしまい,うまく見えなくなるんです.「不均質」とか「混在」って,エコーにおいてはとても大事なんだとわかりました.
長谷川:我々エコーを扱う人間は,本来,基礎工学の知識をもちあわせてないといけないですよね.おざなりになっている気がしますけど.
若 杉:まぁ,最初っからなんでも勉強しようっていうのは無理ですよ.
長谷川:そうですよねぇ.
若 杉:毎年年末と年始に一回ずつ,メーカーの技師さんに,基礎工学の講義をしてもらっているんです.
長谷川:うわ,おもしろそうですね.
若 杉:自分が発起人なので,一番前で聴いてるんですけど,最初は話が難しくて,正直なところ結構苦痛だなって思っていたんです(笑).でも,何度か聞いているうちにだんだん楽しくなってきまして.当初,講演の序盤は理解できても途中から追いつけなくなって,半分が過ぎる頃には内容についていけなかったんです.翌年は3分の2までしかついていけませんでした.でも,毎年受講しているうちに,ついていける範囲が5分の4まで,6分の5まで,となっていきました.最近はすべての講義を楽しく拝聴できるようになっています.
市 原:一度聞いただけではなかなか理解できませんよね.
若 杉:講演していただく内容は,毎年ほとんど同じなんですけどね.繰り返して勉強するたびに,だんだん理解が深まるんです.基礎工学の話って重要だなぁとあらためて思います.なかなか理解が難しいですが,わかりやすく教えようと思ったら……
長谷川:思ったら?
若 杉:こうして症例にふれて,1例1例病理と対比しながら,疑問を突き詰めて,考えるようにしたほうがいいのかな,と思うんですよね.
市 原:ふーむ,なるほどなぁ.
長谷川:基礎工学的な知識や成り立ちを考えずに,「パターン認識」しかできていない状態でプローブを握っている方も多いですよね.
若 杉:もちろん,最初はそれでもいいんですよ.ただ,何か不思議な症例をきっかけにして,「あ,こういうことが重要なのかな?」と気づく日が来る.そこから,興味をもって掘り下げる.すると,勉強が始まるし,なおさら「症例を検討すること」のおもしろさがわかってきます.
長谷川:今回のお話は,超音波検査に携わっている人には必聴ですね.興味をもって読んでくれる読者がどれだけいるかはわかりませんが…….
市 原:この企画に興味をもってくれる人,少ないの? それは医歯薬出版にとっては嫌なセリフじゃないですかね(笑)
※この鼎談は,月刊『Medical Technology』45巻5号(2017年5月号)に掲載されている「対比で読み解く 超音波画像と病理組織像」の“おまけトーク”です.本編は雑誌をご覧ください! →掲載号ページへ