2019年11月10日(日),東京医科歯科大学(東京都文京区)において,東京医科歯科大学歯科技工教育90周年記念式典,特別講演会,記念祝賀会が「令和へつなぐ匠の心」をテーマに開催され,卒業生ら100名以上が参加した.本式典は1929(昭和4)年に東京医科歯科大学の前身である東京高等歯科医学校に「技工手養成科」が設立されてから今年で90年を迎えることを記念したもので,主催は東京医科歯科大学技友会(会長=髙柳 敦氏),東京医科歯科大学歯学部口腔保健学科口腔保健工学専攻(専攻長=鈴木哲也氏),90周年記念事業実行委員会(実行委員長=伊集院正俊氏).
記念式典では,専攻長の鈴木氏の挨拶の後,全国歯科技工士教育協議会会長の大島克郎氏(日本歯科大学東京短期大学教授)らによる祝辞が述べられた.また功労者表彰も行われ,杉本久美子氏(東京医科歯科大学名誉教授),三浦宏之氏(東京医科歯科大学大学院教授),今野冨夫氏(本科5期)の3名に感謝状が,周防光幸氏(技工手養成科22期)に表彰状が贈られた.
特別講演会は記念式典に続き鈴木哲也氏が登壇.講演テーマは当初「超高齢社会におけるコンプリートデンチャーの到達点」が予定されていた.しかし講演の冒頭で氏は,2013年のオックスフォード大の研究で歯科技工士が「10年後に消える職業」の1つとして挙げられるなど,デジタル化・AI技術の発展に伴う「歯科技工士不要論」がささやかれている現状を受け,「90年の歴史を振り返りながら改めて歯科技工士の将来像を考えたい」との思いのもと,急遽テーマを変更したと述べた.
その後,はじめに東京医科歯科大学における歯科技工教育の歴史を紹介.技工手養成科設立前の「技工見習生」の時代も含めればその歴史は100年に及ぶと述べ,島峰徹先生(東京高等歯科医学校初代校長),長尾優先生(東京医科歯科大学初代学長)をはじめとする先人らの先見の明に敬意を表した.
続いて「歯科技工士不要論」に話題を移し,AIにより代替可能な職業は業務内容を掘り下げて考えるとオックスフォード大の予測よりも大幅に減るとする2018年のNature Digestの論文を紹介.完全オーダーメイトの装置を製作する創造的な業務はAIの不得意分野であるとして,歯科技工士が不要になるのではなく,むしろデジタル化に対応した新しい歯科技工士人材の養成が必要になっていると述べた.
そのうえで,2011(平成23)年から始まった東京医科歯科大学における4年制の歯科技工士教育(口腔保健学科口腔保健工学専攻)について,創立の目的,国際コンソーシアムの実施(
https://www.ishiyaku.co.jp/dentweb/news/article.aspx?AID=4302)をはじめとする各種取り組みの実績を紹介した.
最後に今後の歯科技工士の在り方として「デジタル技術を活用して審美的・機能的な歯科技工を追求する」「他職種連携のチーム医療の中で活躍する(氏の提唱する『臨床義歯管理工学士』)」の2つを挙げ,その両方の観点から人材育成を考えていく必要があると訴えた.