序
Most importantly,we must systematically design safety into processes of care.―最も重要な点は診療・ケアのプロセス中に安全というシステムを組み込むことである―(WC Richardson:To Err is Human序文より)
本書の理念はこのことばに尽きる.本書は誤嚥および嚥下障害について,そのリスク回避システムを日常診療に組み込む一例を呈示したものである.現在の医療システムは複雑化しており,患者安全に関するリスクは高くなっている.特に多職種の関与する場面で各医療職の問題点へのアプローチ方法,検知システム,解決方法が,職種によっても,個々人によっても異なっていることがあり,リスクに関する情報が一元化されない事態も起こりうる.嚥下障害の治療・リハビリテーション・ケアもその例外ではなく,多くの職種が関わるなかで誤嚥,誤嚥性肺炎へのリスク管理システムを作成するのは容易ではない.
本書の特徴はHazard and Operability study(HAZOP study)法という,本来化学プラントなどで用いられてきた管理工学的手法を,誤嚥・嚥下障害のリスク管理に応用した点にある.本書の構成としては,嚥下運動の基礎的事項と嚥下障害の現状とリスクについて(1章),リスク評価方法の総論とHAZOP法の原理(2章),著者らが作成したHAZOP法のプロダクトを用いたリスク分析の実際(3章),さらにHAZOP法の応用として,医療安全と医療HAZOP,ヒューマンファクター,嚥下リハビリテーション,嚥下障害看護とクリティカルパス,嚥下障害の在宅医療,嚥下運動メカニズムの基礎研究,以上のそれぞれのトピックについてその実例を示した(4章).
最後に,リスクマネージメントの根底にある考え方としては,実現可能であることが重要であり,我々もこの点に注意して編集作業を行った.It is a way of confronting the problems of conducing a hazardous operation so that you keep your risks as low as reasonably practicable(ALARP)and still stay in business.―それは,リスクを実務的にも経済的にも可能な限り現実的な程度まで低くするための,危険をもたらす可能性のある問題への対処方法である―(James Reason:The Human Contributionより)
本書およびHAZOP法が皆様の日常診療のお役に立てれば幸いである.
2009年8月
編者 山脇正永 野村 徹
Most importantly,we must systematically design safety into processes of care.―最も重要な点は診療・ケアのプロセス中に安全というシステムを組み込むことである―(WC Richardson:To Err is Human序文より)
本書の理念はこのことばに尽きる.本書は誤嚥および嚥下障害について,そのリスク回避システムを日常診療に組み込む一例を呈示したものである.現在の医療システムは複雑化しており,患者安全に関するリスクは高くなっている.特に多職種の関与する場面で各医療職の問題点へのアプローチ方法,検知システム,解決方法が,職種によっても,個々人によっても異なっていることがあり,リスクに関する情報が一元化されない事態も起こりうる.嚥下障害の治療・リハビリテーション・ケアもその例外ではなく,多くの職種が関わるなかで誤嚥,誤嚥性肺炎へのリスク管理システムを作成するのは容易ではない.
本書の特徴はHazard and Operability study(HAZOP study)法という,本来化学プラントなどで用いられてきた管理工学的手法を,誤嚥・嚥下障害のリスク管理に応用した点にある.本書の構成としては,嚥下運動の基礎的事項と嚥下障害の現状とリスクについて(1章),リスク評価方法の総論とHAZOP法の原理(2章),著者らが作成したHAZOP法のプロダクトを用いたリスク分析の実際(3章),さらにHAZOP法の応用として,医療安全と医療HAZOP,ヒューマンファクター,嚥下リハビリテーション,嚥下障害看護とクリティカルパス,嚥下障害の在宅医療,嚥下運動メカニズムの基礎研究,以上のそれぞれのトピックについてその実例を示した(4章).
最後に,リスクマネージメントの根底にある考え方としては,実現可能であることが重要であり,我々もこの点に注意して編集作業を行った.It is a way of confronting the problems of conducing a hazardous operation so that you keep your risks as low as reasonably practicable(ALARP)and still stay in business.―それは,リスクを実務的にも経済的にも可能な限り現実的な程度まで低くするための,危険をもたらす可能性のある問題への対処方法である―(James Reason:The Human Contributionより)
本書およびHAZOP法が皆様の日常診療のお役に立てれば幸いである.
2009年8月
編者 山脇正永 野村 徹
本書で使用する用語
第1章 摂食・嚥下のメカニズムとリスク(山脇正永)
A 嚥下障害とリスク:ものを食べる・飲み込むということとその障害
B 嚥下障害・誤嚥性肺炎:リスクの頻度と重症度,インパクト
1.嚥下障害の現状,疫学データ
C 嚥下運動のメカニズムとその障害:リスクはどのようなメカニズムで発生するか
1.摂食・嚥下運動のメカニズム
2.摂食・嚥下運動に寄与する器官
3.嚥下の各期のメカニズム
4.嚥下運動で注意すべき点
D 嚥下障害の検査:リスクに対する検知システム
1.嚥下造影法と嚥下内視鏡:ボーラスの通過器官としての機能をみる
2.種々の嚥下障害検査法とVFSSとの比較
3.筋電図,嚥下圧測定:効果器(嚥下関連筋)の機能を評価する
4.脳機能画像:嚥下運動高位制御中枢の機能を評価する
E HAZOPによる嚥下障害のリスク分析
F まとめ
第2章 医療HAZOP(野村 徹)
A ハザードオペラビリティ・スタディ(HAZOP)とは
1.HAZOP解析の概要
2.HAZOP実行準備
3.HAZOP実行チームの構成
4.スタディの実行
B 医療HAZOP
1.セーフティマネジメントシステム
2.医療プロセス・セーフティマネジメントシステム(MPSMS)とは
3.医療プロセス・リスクアセスメント
4.医療行為のプロセス分析
5.分析対象のインシデントレポートや事故事例の洗い出し
6.医療HAZOP
7.リスクマトリックス評価
C まとめ
第3章 嚥下HAZOPの実際(山脇正永)
A HAZOPのプロセス
1.HAZOPをはじめるにあたって
2.HAZOP評価結果からわかること
B 口腔期(SW3.2)のHAZOP実施
C 咽頭期のHAZOP実施
1.咽頭期サブノード1(SW4.1)のHAZOP実施例
2.咽頭期サブノード2(SW4.2)のHAZOP実施例
3.咽頭期サブノード3(SW4.3)のHAZOP実施例
4.咽頭期サブノード4(SW4.4)のHAZOP実施例
D 嚥下HAZOPから得られたこと
HAZOPシートの例
第4章 HAZOPを用いた嚥下障害リスク管理への応用
1 医療安全と医療HAZOPの応用例(大川 淳)
A 医療事故削減対策の問題点
1.医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業の報告書から学ぶこと
2.日本麻酔科学会の麻酔中の偶発症についての全国統計から学ぶこと
3.「医療の質」と「医療の不確実性」
4.医療事故と医療過誤のはざま
5.医師にとっての医療安全向上に対する考え方
B 医療の質向上のための,提案
1.医学と医療
2.医療は,患者の治療を最終目的とした「プロジェクト」
3.医療HAZOPの特徴と意義
C 医療HAZOPの利用方法
1.医療HAZOP演習による安全教育
2.医療プロセスの管理
3.病態分析
4.合併症分析
D まとめ
2 リスクコミュニケーションへの応用(野村 徹)
A HAZOPを用いたヒューマンファクターの評価
B ヒューマンファクターの分類とHAZOP
1.個人のエラー
2.チームエラー
3.規則違反
C ヒューマンファクターとHAZOPガイドワード
D まとめ
3 嚥下リハビリテーション・介護への応用(清水充子)
A 嚥下期ごとのリスクの概要と対応
B 咽頭期
1.咽頭期のリスクの概要
2.咽頭期障害への対応
C 口腔期・口腔準備期
1.口腔期・口腔準備期のリスクの概要
2.口腔期・口腔準備期障害への対応
D 食道期
1.食道期のリスクの概要
2.食道期障害への対応
E 〔先行期〕食物を捕食する
1.先行期のリスクの概要
2.先行期障害への対応
F まとめ
4 摂食・嚥下クリニカルパスへの応用(千葉由美)
A 医療分野におけるクリニカルパス
1.クリニカルパスとは
2.クリニカルパス作成の留意点
3.クリニカルパスの実際
B HAZOPのクリニカルパスへの応用
1.クリニカルパスにおけるHAZOPの必要性
2.医療安全とクリニカルパス
3.HAZOPのクリニカルパスへの応用の実際
4.クリニカルパスとWBSシート
5.クリニカルパスとHAZOPの関係
6.クリニカルパスとHAZOPデビエーション例
C まとめ
5 在宅医療・在宅ケアへの応用(戸原 玄)
A チーム編成のポイント
B 実際の患者への対応例
C まとめ
6 嚥下障害研究・治療への応用(山脇正永)
A 嚥下中枢の解明
B まとめ
索引
第1章 摂食・嚥下のメカニズムとリスク(山脇正永)
A 嚥下障害とリスク:ものを食べる・飲み込むということとその障害
B 嚥下障害・誤嚥性肺炎:リスクの頻度と重症度,インパクト
1.嚥下障害の現状,疫学データ
C 嚥下運動のメカニズムとその障害:リスクはどのようなメカニズムで発生するか
1.摂食・嚥下運動のメカニズム
2.摂食・嚥下運動に寄与する器官
3.嚥下の各期のメカニズム
4.嚥下運動で注意すべき点
D 嚥下障害の検査:リスクに対する検知システム
1.嚥下造影法と嚥下内視鏡:ボーラスの通過器官としての機能をみる
2.種々の嚥下障害検査法とVFSSとの比較
3.筋電図,嚥下圧測定:効果器(嚥下関連筋)の機能を評価する
4.脳機能画像:嚥下運動高位制御中枢の機能を評価する
E HAZOPによる嚥下障害のリスク分析
F まとめ
第2章 医療HAZOP(野村 徹)
A ハザードオペラビリティ・スタディ(HAZOP)とは
1.HAZOP解析の概要
2.HAZOP実行準備
3.HAZOP実行チームの構成
4.スタディの実行
B 医療HAZOP
1.セーフティマネジメントシステム
2.医療プロセス・セーフティマネジメントシステム(MPSMS)とは
3.医療プロセス・リスクアセスメント
4.医療行為のプロセス分析
5.分析対象のインシデントレポートや事故事例の洗い出し
6.医療HAZOP
7.リスクマトリックス評価
C まとめ
第3章 嚥下HAZOPの実際(山脇正永)
A HAZOPのプロセス
1.HAZOPをはじめるにあたって
2.HAZOP評価結果からわかること
B 口腔期(SW3.2)のHAZOP実施
C 咽頭期のHAZOP実施
1.咽頭期サブノード1(SW4.1)のHAZOP実施例
2.咽頭期サブノード2(SW4.2)のHAZOP実施例
3.咽頭期サブノード3(SW4.3)のHAZOP実施例
4.咽頭期サブノード4(SW4.4)のHAZOP実施例
D 嚥下HAZOPから得られたこと
HAZOPシートの例
第4章 HAZOPを用いた嚥下障害リスク管理への応用
1 医療安全と医療HAZOPの応用例(大川 淳)
A 医療事故削減対策の問題点
1.医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業の報告書から学ぶこと
2.日本麻酔科学会の麻酔中の偶発症についての全国統計から学ぶこと
3.「医療の質」と「医療の不確実性」
4.医療事故と医療過誤のはざま
5.医師にとっての医療安全向上に対する考え方
B 医療の質向上のための,提案
1.医学と医療
2.医療は,患者の治療を最終目的とした「プロジェクト」
3.医療HAZOPの特徴と意義
C 医療HAZOPの利用方法
1.医療HAZOP演習による安全教育
2.医療プロセスの管理
3.病態分析
4.合併症分析
D まとめ
2 リスクコミュニケーションへの応用(野村 徹)
A HAZOPを用いたヒューマンファクターの評価
B ヒューマンファクターの分類とHAZOP
1.個人のエラー
2.チームエラー
3.規則違反
C ヒューマンファクターとHAZOPガイドワード
D まとめ
3 嚥下リハビリテーション・介護への応用(清水充子)
A 嚥下期ごとのリスクの概要と対応
B 咽頭期
1.咽頭期のリスクの概要
2.咽頭期障害への対応
C 口腔期・口腔準備期
1.口腔期・口腔準備期のリスクの概要
2.口腔期・口腔準備期障害への対応
D 食道期
1.食道期のリスクの概要
2.食道期障害への対応
E 〔先行期〕食物を捕食する
1.先行期のリスクの概要
2.先行期障害への対応
F まとめ
4 摂食・嚥下クリニカルパスへの応用(千葉由美)
A 医療分野におけるクリニカルパス
1.クリニカルパスとは
2.クリニカルパス作成の留意点
3.クリニカルパスの実際
B HAZOPのクリニカルパスへの応用
1.クリニカルパスにおけるHAZOPの必要性
2.医療安全とクリニカルパス
3.HAZOPのクリニカルパスへの応用の実際
4.クリニカルパスとWBSシート
5.クリニカルパスとHAZOPの関係
6.クリニカルパスとHAZOPデビエーション例
C まとめ
5 在宅医療・在宅ケアへの応用(戸原 玄)
A チーム編成のポイント
B 実際の患者への対応例
C まとめ
6 嚥下障害研究・治療への応用(山脇正永)
A 嚥下中枢の解明
B まとめ
索引